願いを叶える公爵令嬢 〜婚約破棄された私が隣国で出会ったのは、夢の中の王子様でした〜

鹿倉みこと

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45. 私は選ばれた sideネリー

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 幼い頃から、自分が特別だと知っていた。
 ぱっちりした垂れ目に小さな鼻、ぽってりした唇、そして庇護欲を掻きたてる小柄な体。
 娼館では「こんなにかわいらしいのだから貴族の種に違いない」と持て囃され、大人たちは大きくなるのが楽しみだと口を揃えた。
 手が荒れぬようにと水仕事は免除されたし、男を喜ばせる技術は他の者より早くから学んだ。


 そして、運命の日。
 小汚い男の相手をさせられそうになって娼館を抜け出した先の川で、私は大きなルビーのブローチを見つけた。
 

(ツイてる! 売っ払ったらかなりの額になるかも……!)


 そう思って拾った瞬間、このブローチを使えば決めた配役どおりに人を動かせるのだということが、直感的に理解できた。
 これは間違いなく、神の力だ。

 こうして私は、自分がただ特別なだけじゃなく、神に選ばれた存在だということを知った。



 ある日、道端に座り込んで次は誰を操ろうかと考えていると、何を勘違いしたのかお貴族様がわざわざ馬車から降りて心配そうに話しかけてきた。
 その後ろでは、お貴族様と同じ葡萄色の髪に葡萄色の瞳をした子どもが、不安そうにこちらを見ている。
 
 豪華な馬車に豪華なドレス。大勢の使用人。
 貴族になれば、娼館など比べ物にならない贅沢な生活ができる。なぜ今まで思いつかなかったのだろう。


 そして私は、ネリー・シャンベル男爵令嬢になった。

 誰もが私に傅く。
 おいしいお菓子を食べ、綺麗なドレスを着て、好きなことをする毎日。
 むしゃくしゃしたときは屋敷や町で目についた平民を痛めつければいいし、性欲が溜まれば好みの男に腰を振らせればいい。
 ブローチの力を使わなくても、貴族というだけですべてが思いどおりになった。
 平民が何か騒ぎ立てても、私を溺愛するパパは耳を貸さない。それどころか罰してくれるから、そのうち文句を言う馬鹿も居なくなって、生活は快適になる一方だった。


 でも、社交界へ出て、まったく違う世界があることを知った。
 男爵令嬢になって贅の限りを尽くしていると思ってたけど、実際は男爵なんて平民に毛が生えたようなものだったのだ。
 
 でも、高位貴族に取り入ろうとしても伯爵家以上には近づくことすらできない。


(なんでよ……この私と話す栄誉を与えてやるって言ってんのに……!)


 同じ立場である男爵令嬢や男爵令息からも、なぜか遠巻きにされてイライラが募る。

 そんなことを繰り返しているうちに、本来私が受けるべき扱いを受けてる女――エレアノール・ラヴェルが鼻につくようになった。
 公爵家だかなんだか知らないけど、家の力だけで王族や高位貴族にチヤホヤされて、王太子の婚約者に収まってる図々しい女。
 あれはただの人間。私のように神に選ばれた存在じゃない。
 勘違い女には神の裁きを下さなければ。

 適当な浮浪者を操って犯させようか。それとも騎士を操って顔をズタズタにしてやろうか。本人を操って、宴の最中に下品な裸踊りをさせてみるのも悪くない。
 
 ……いや、全部すればいいだけか。
 そしてそのあとは、慈悲深い私が舌を切って小間使いにしてやるのだ。飽きたら浮浪者の子を孕ませるなり、娼館に売り払うなりすれば二度、三度と楽しめる。

 他にもどんな目に合わせてやろうかと、考えるだけでわくわくした。


 でも、近づく隙がまったくない。
 常に大勢が取り囲んでるし、私がそばに寄ろうとすると近衛騎士や他の下位貴族たちに阻止されるのだ。お前はその立場にないのだといって。
 向こうが私と話す立場にないのはわかるけど、逆は意味がわからない。
 
 でも、ここで騎士や貴族を操って道を開けさせるわけにもいかない。
 『体が勝手に動いた』と騒がれて、のちのちあの女を操ったときに被害者扱いされたら困る。
 結局、目についた平民を操って遊ぶぐらいしかできない日々が続いて、本当にイライラした。


 でもチャンスは突然訪れた。公爵令嬢のほうから話しかけてきたのだ。なんて馬鹿な女なんだろう。
 婚約者の王太子も一緒だから、ここで裸に剥いて他の男を誘わせてやったら面白いショーになる。
 
 そうやって操ろうとしたとき、公爵令嬢の目に労りの感情があることに気づいた。
 この女、まさか神にも等しい私を、憐れんでる……?
 
 そう思ったら頭に血が上って、気がつけば思いつく限りの暴言を浴びせかけていた。
 怒りが収まらず、男に殴らせようと公爵令嬢の隣に立つ王太子を操ったところで、我に返って歯噛みする。
 一度操った王太子を解放すると、この力のことが絶対問題になってしまう。
 あと一人操れるから王太子はこのままにして、ひとまず公爵令嬢を操って失態を犯させるか……

 そう考えたとき、貴族たちの輪が大きく割れた。
 国王陛下が現れたのだ。

 こんなチャンスは二度とない!
 迷いはなかった。イシルディアの王と王太子を押さえれば、この世界で私に逆らえる奴なんて、もう居やしないんだから!
 
 公爵令嬢に裸踊りをさせられないのは残念だけど、見方を変えれば時間をかけて苦しめられるということ。
 王太子は私だけを溺愛する王子。国王もそれを応援してる。わざわざ操らなくても、私たちの恋路を邪魔する悪役令嬢として孤立させてやればいい。
 そして、私が王太子妃になったらもうパパは用済みだから解放して、それからあの女を操って遊ぶのだ。

 ああ、どうしてやろう。今から楽しみだ。
 もっともっと残酷な遊び方を、たくさん考えておかなくちゃね――
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