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第三章:それは幾重に積もる時間
放浪カモメはどこまでも
しおりを挟むねぇカモ。
雛が大きくなって私達の手を離れるようになったら……
また二人でいろんな場所を旅しようね。
「うげ、パパいったい何をしてるの?」
真新しいロードバイクを汚れてもいないのに、雑巾で何度も何度も拭く鴨居。
それを呆れた眼差しで見つめている雛。
「何って、今日から雛は大学生になって一人暮らしだろ?パパの手を離れてしまうのは悲しいが、そろそろ自由に生きようかなって。」
月日の経つのは早いもので、雛が産まれてから18年も過ぎた。
見事に大人っぽくなった雛は、もう立派な女性といった感じに見える。
「それにね、これはママとの約束なんだよ。」
「ママとの約束?」
鴨居がメグと交わした約束。
それを今になって、いや今だからこそ鴨居は果たそうとしていた。
「雛がパパとママの手を離れたら、また一緒に旅をしよう。って。それでいっぱい写真撮って雛に見せてやるんだって。」
雛はあまり母親のことを聞きたがる子ではなかった。
自分には母親が居ない。しかしそれを負い目に感じることなど一度もなく雛は育った。
雛は母親のことを、何気なく鴨居の昔話に出てきたメグ。
そのくらいにしか知らなかった。
しかし、その二人の約束に両親の愛を感じて嬉しかった。
「旅は分かったけど……なぜ自転車?パパもうアラフォーなんだから自覚もってよね。」
「だってメグが自転車が良いって……」
雛の的確なつっこみに、少しスネる鴨居。
「はいはい。じゃ、気を付けて行ってらっしゃい。ちゃんとママのお墓に寄ってから行きなよ?」
何だか雛はどんどん大人になってしまうなー。なんてセンチメンタルに浸るパパ。
「じゃ、私もう時間だから行くね。ばいばいパパ。」
「おう、身体気を付けてな。何かあったらおじいちゃんとおばあちゃんに来てもらうんだぞ。」
分かった。と笑顔で手を振って雛は大学のある東京へと向かっていった。
メグは大阪の相川家の墓に一緒に居た。
線香をあげて、墓石に水をかけて、鴨居は目を瞑った。
「さて、行こうか……メグ。」
「うん、行こうカモ」そう空から言い返してくれた様な気がして鴨居は澄み切った空を見上げた。
すると――
「あ、カモメだ……めずらしいなこんな所を飛ぶなんて。あ、そうか。」
鴨居は笑ってマウンテンバイクに乗ると、そのカモメを追い掛ける様にして走りだしていった――――
旅は終わらない。
放浪カモメはどこまでも――
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