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下・聖剣の大陸

盲目の剣客

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厳冬の城のとある部屋。

そこは元々の城にはなかった様式のもので、サスケが大陸王になってすぐに用意させたものであった。

独特の匂いをはっする新しい畳がびっしりと敷き詰められている。

その最奥でサスケは禅を組み神経を研ぎ澄ましていた。

その傍らにいるのはサスケの精霊。

西欧の鎧に身を包む老人。

だがその威圧感たるや、存在感たるや一見して只者ではないと判断するに余りある程の者である。

『・・・ほう。

これは歯ごたえのありそうな猛者の気配が二つ。』

鋭い目つきは射抜くよう。

低く響く声は恐怖すら感じる。

『それもものすごい速さでこちらに向かってきている。

・・・流石に基度はワシの助けが欲しいのではないか小僧?』

挑発するかのような口調にもサスケの神経は微塵も揺れ動かない。

そして静かに言い放つ。

「これほどまでの手練達と剣を交えることができるというのにお主の助けを拙者が欲すると?

笑止千万なり」

サスケはゆっくりと立ち上がり、壁に掛けていた長モノの日本刀を手に取る。

『ふん。せいぜい助けが欲しくなったら、わしに泣きつくがいいわい』

そい言って精霊は完全に気配を消した。

現早春の大陸王、現立夏の大陸王を相手にしても精霊の力を使う必要はない。とみなぎる士気と自信がそう語っている。

すると激しい風で外開きの扉が内側へ跳ね開けられる。

「ようこそ我が城へ。待っていたぞ早春の大陸王」

扉の先から感じる激しい嵐のような魔力にサスケは笑っていた。

「勝手に根城へ踏み込んだ割に歓迎されている様で嬉しいよ厳冬の大陸王。と、言いたいところだけど不気味に思えるね」

ワイズはゆっくりと畳の上に乗る。

畳のこすれる音が無音の空間に不自然なほど大きく響いたように感じた。

「特に立ち話がしたいわけでもないんでね、さっさとその刀を抜いてはくれないかい?

臨戦態勢でもない相手を切って喜べるほど人格が崩壊できていないのでね」

そよ風のフルートを具象したワイズ。

サスケは直立し、ぶらんと刀を鞘に入れたまま左手に持っている。

「・・・気にかける必要はない。今のこの状態が拙者の型。

いわば、貴様の言う‘臨戦態勢‘と言うやつだ」

不自然なほどに自然な構え。

そこから発せられるオーラにワイズの集中は極限まで研ぎ澄まされていた。

「そうかい・・・じゃあ遠慮なく

行くよ!!」

ワイズはフルートを奏で風を発生させる。

その風は音を立てて空気を切り裂き、鎌鼬となってサスケに向かっていく。

「彼に動きはない、どうした厳冬の大陸王?

このままでは直撃して即刻終了になってしまうよ?」

ワイズの感覚が確信に変わる距離。

どれほどの使い手であっても、どれほどの精霊の力を以てしても回避が不可能と判断する間合いに鎌鼬が突入した瞬間だった。

ワイズは確かに部屋の最奥に佇んでいたはずのサスケの姿を見失う。

「・・・居合抜き一の型『瞬刃』」

「・・・なっ!!?」

背後にサスケの気配を感じ、刀を鞘に納める音をワイズが効いた刹那、ワイズの胸が裂かれ血が吹き出した。

それほどまで深い傷ではなかったが、全く意識していなかった傷にワイズの膝が折れる。

「ふむ。早春の大陸王も名折れやもしれんな」

ワイズはすぐに立ち上がる。

その表情にはまだ驚きが伺える。

「・・・名折れとは言ってくれるね厳冬の大陸王よ。

よく見るがいい、痛み分けさ」

「――!!」

はらりとサスケの結わえていた髪が落ちる。

「ほう、あの刹那の中、反射のみで拙者の髪紐を切ったのか」

サスケの髪紐を切ったワイズではあったが、痛み分けというのはいささか難しい状態であった。

「シルフィード・・・『神風の舞踏』」

ワイズの奏でるフルートが全てを吹き飛ばす凶暴な風を巻き起こす。

その風は一瞬にして二人の戦っていた空間うを飲み込む。

「ほお、曲芸にしてはよく出来ている。

―――――だが、攻撃というには些か滑稽に写るな『破刃』」

上段の構えから鋭く一直線に刀が振り下ろされる。

その太刀は空気との摩擦すら超越し、無音で振り下ろされた。

ワイズの風はいとも簡単に切り崩され消滅した。

すると突然サスケの左にワイズが現れた。

神風を切り裂くため一点に意識を集中した隙にサスケの横に滑り込んだのだった。

「よい動きだ。だが届かぬ『月泪』」

サスケは緩やかに刀で弧を描き出す。

下段の構えから一周半し、切っ先が頂点にたどり着く。

数多の武芸者がその剣技の美しさに感涙を堪えきれなかったという。

その流麗な剣舞が、サスケよりも先に攻撃を仕掛けていたはずのワイズの力をかいくぐり遥か後方へと吹き飛ばした。

ワイズがその攻撃の間、視覚で認識できたのは三太刀。

迎撃によってワイズの身体に刻まれた切り傷は十四。

この時点でワイズはサスケに速力で劣ることを認めざるを得なかった。

『ワイズ・・・』

ワイズの傍らを飛ぶシルフィードも焦りを感じていた。

「ふっ、そんな顔はよしておくれ。

ただ速力で敵に遥か劣り、こちらの攻撃は届かず、相手の攻撃は現時点では回避どころか視認も難しい。それだけのことだ」

そしてワイズはすでに気づいていた。

「ま、何よりも厄介なのは彼がまだギフトすら使っていないということだけどね」




その言葉に精霊であるシルフィードですら驚愕した。

『ギフトを使っていない!?それじゃあ彼は精霊の力もなしにあなたを圧倒しているというの?』

ワイズは冷静にサスケを見つめる、そしてある答えを導き出した。

「いや、精霊の力を借りていないと言ったら語弊がでてくると思うよ。

彼は精霊がもたらす神具を使用していないだけであって、精霊のもたらす力の増幅の恩恵は受けているはずさ。

そうでなくてはこの僕が速力であそこまで圧倒されることに説明がつかない。そうだろう?
そろそろ姿ぐらい見せてはどうかなサスケの精霊よ」

『ふっははは』

西洋の鎧を身にまとった老人が姿を現す。

シルフィードはその姿に思わず声を漏らした。

『そ・・・そんな』

『風の精よ、このワシの姿はそれほどに慄く様なものであったかな?』

老人の身に纏うオーラともとれる威圧感にワイズですら額に冷たい汗が滲んでいた。

「シルフィード・・・彼は?」

シルフィードは声を絞り出すように言った。

『彼は・・・彼は最高神オーディン』

『ふ、風の精霊如きが我が高尚なる名を口にするとは万死に値する愚かしい愚行である。

・・・が、今は宴の席ということに免じて許してやろう』

ただ見つめられただけで全身に悪寒が走る。

『して風使いの小僧。わざわざワシを呼んだのだ、何か聞きたいことがあるのだろう?』

「はは、まさか最高神オーディンが一精霊として宴に参加しているとは思わなかったよ。

どうやらあなたはサスケにギフトを与えていないが、代わりに魔力を身体操作に必要な力量、神経の超速伝達を可能にする回路を与えたと見る」

『名答』

「何故そんな回りくどい方法を?」


オーディンは不敵な笑みを見せる。

『何故とな?

答えは明解じゃ。こやつが望まず、ワシが力を与えることができないからじゃ』

オーディンの答えにワイズは首をかしげる。

『ワシの十八の魔術はワシがこの片方の瞳を犠牲にし得たもの、ユグドラシルに自らを磔にして得たもののみ。

故にワシからこやつに与えることはできぬし、仮に与えられたとしてワシ以外には扱えるものはおらぬ』 

「しかしあなたはあの神具を持っているはずだ」

ワイズの言葉にオーディンの眉間に皺が寄った。

『ふむ。小わっぱの汚らわしい口で我が愛具の名を呼ばなかったことは誉めてやる。

じゃが、ちと小わっぱにしてら色々と物を知りすぎている様じゃな。サスケ早いうちにけりをつけろ』

オーディンの言葉にサスケが笑う。

「……全く。たまに名を呼んだと思えば命令ばかり。疲れる相棒だ」

畳が弾け飛び一瞬にしてサスケの姿が消えた。

思わずシルフィードが叫ぶ。

『また消えた。どうするのワイズ!?』

ワイズが意識の中で捕らえるよりも早くにサスケがワイズの背後で刀を鞘から抜こうとしていた。

流麗な剣撃が鞘から離れワイズを切り裂くまでの時間は一秒にも満たない。

その刹那の中でサスケは確かに聞いた。

「まったく、今回の宴は面白いやつばかりだね」

その声を聞いたサスケの視界からワイズの姿が消える。

そして、一陣の風が吹き抜けたかと思うと

「ーーなっ!?」

サスケの右袖が切れていた。

「貴様何をした?」



サスケの切られた右袖が風に揺れる。

ワイズはこの宴始まって初めてサスケに触れた。

「何って、少しだけ君の真似をしてみただけさ」 

『どういうことワイズ?』

このことには精霊であるシルフィードも理解できていないようだ。

ワイズは人差し指で自らのこめかみを指差す。

「シナプス。

脳で行われる神経伝達の全てを担うこの器官に魔力を注ぎ込み、神経伝達の速度を加速させ、許容の絶対量を底上げした。

プラス、反射を司る脊髄にも魔力を流し込むことで、五感が捕らえたごく微量な刺激にも超速で身体を動かすことができる。

故にーー」

サスケの視界からワイズの姿が消える。

背後に回り込んだワイズのそよ風のフルートでをサスケは日本刀で受け止める。

初めて互いの武器同志がぶつかりあった。

「今の僕は君と同等の速力を持っている」

笑みを浮かべるワイズ。

この時ワイズ以外にただ一人オーディンだけが彼の身体の異変に気づいていた。

しかしオーディンはそのことをサスケに告げることはしない。

戦いの神と称される彼故にサスケの胸のたかなりを理解しないことは難しかったのだ。

「面白い男だな、早春の大陸王!」





その攻防に費やした時間は僅か五秒。

その間にサスケとワイズが武器を交えた回数、なんと百八。

しかし双方に目立った傷跡はなく、ワイズは頬を僅かに切り、サスケは左手の甲に一センチほどの腫れが見られるのみ。

目でも追えぬほどの速度の攻防の中で両者の気持ちは同じだった。

「この男……」

「こやつ……」

再び二人の武器がぶつかり弾ける。

怯むことなく体勢を建て直し、二人は見つめ合う。

「「面白い!」」 







サスケとワイズとの神がかりの戦いが加速する中、シルクがタラリアによって厳冬の城へと到着した。

『……これはこれは、凄まじい魔力のぶつかり合いですね』

ミカエルですら息を呑むほどの魔力が当たりに散っていた。

「うん、でも……すごく楽しそうだね」

当たりに散った魔力の痕跡から少しではあるが、その感情すら読み取れるようになってきたシルクに、ミカエルはその成長を感じていた。

『これが真の大陸王同士の闘いなのでしょう。

シルク、あなたにこの戦地に足を踏み入れる勇気はありますか?』

ミカエルの問いにシルクが笑う。

「愚問だねミカエル。

覚悟なら、とうに出来ている」

真っ直ぐな澄んだ瞳、

その瞳が写す景色は変わり、そしてその瞳がこれから写すものは荘厳で神秘的、そして残酷なものになっていくことをシルクは、心のどこかで気づいていた。

「さぁ、いこうミカエル」

『ええ』







「……くっ」

一刻が過ぎる毎にその差は確かに開いていた。

『ワイズ、このままだと……』

少しずつだが確実にワイズが負う傷の方が多く、そして深くなっている。

その様子に勿論サスケが気づかないわけがない。

「どうやら、無理を強いていたようだな?」

サスケは一度距離をとり、カタナヲ鞘に納めた。

「……無理?なんのことだい?


と、言いたいところだがもう誤魔化せない様だね」

ワイズが神経系に注いでいた魔力を止めると、頭が割れるように痛みだした。

その痛みでワイズは苦痛に顔を歪めた。

ここで初めてオーディンが口を開く。

『所詮人間ごときが神の真似をしただけのこと。

我らのように湧き出る魔力のない貴様ら人間には、猿真似だけでも神経系をズタズタに引き裂く副作用を抑えることなど叶わぬ』

オーディンはワイズを見下す様に見ていた。

その様子にシルフィードは気付きオーディンを睨み付ける。

『何じゃ?言うてみろ。最も風の精ごときがこのワシに宣う言葉があればの話じゃが』

怒りに飛び出しそうになったシルフィードをワイズが手で静止した。

ワイズはシタタル汗を拭くことすらできずにシルフィードに笑いかけた。

「僕を愚かと言うのなら受け入れよう。所詮は人間ごときの蛮勇やもしれん。

しかし、この僕とこの場所まで闘い続けてくれた彼女を悪く言うことは許さない」

『ワイズ……』

オーディンは鼻で笑う。

『愚かしいな小僧。

そんなだから貴様はサスケの真の力にも気付かない』

「なん……だと?」

『失念したか?ワシはあやつにワシの魔術はくれてやらなんだ。

しかし、その法を得る方法を知っているものが、それに耐えうる魔力を宿す者に出会ったらどうなる?』

オーディンの言葉にサスケが隠していた魔力を解き放つ。

「そんな、ばかな」

その威圧感たるや本人のそれとは比べ物にならないが、オーディンの様に圧倒的でまがまがしいものであった。

「拙者はこの両の目を我が愛刀『霞
我鮫"カスミガサメ"』に貫かれることで一つの法を得た。

我が唯一の法で貴様に引導を渡してやろう」    


爆発的な魔力が霞我鮫に集まっていく。

湯気のように白い気体が発生し徐々に霞我鮫の刀身を覆っていく。

「ギフト『霞咲"カスミザキ"』」
刀身を覆い隠した霞が次第に辺りへと広がっていく。

それは徐々にサスケの腕を隠し、半身を、全身を覆い隠し。

尚も部屋のなかを広がっていく。

「静かすぎて不気味だな。

まさかこの部屋全てをあの霞で覆うつもりか?」

『対象に触れることで発動するタイプの罠かもしれない。

ここは、わざわざ相手の霞がここを覆うのを待ってあげる必要はないわ。ワイズ』

「ああ……そうだね、シルフィード」

ワイズは強い風を吹きならす。

風が霞を消し飛ばそうとするが霞は消えない。

「こちらからは干渉できないのか?つまり、あれは魔力によって産み出されたもの。いったいどんな能力なんだ……?」

ワイズは風を止める。

少しずつ少しずつ空間が霞で満ちていく。

それはゆっくりと確かにワイズの元にも広がり、そして空間全てを覆い尽くした。

霞の先から声が聞こえる。

「さぁ、我が愛刀の空間へようこそ」
「我が愛刀の空間?

いったい」

「貴様が立っていられれば直に分かる」

 声のした辺りからサスケの気配が消えた。

まず間違いなく気配を隠しワイズへと近づいている。

ワイズは濃霧のような霞の中で目を閉じると視覚を絶った。

視覚を絶つことによって他の感覚が冴え渡る。

サスケの着物が擦れる音が、わずかに切っ先についた血の匂いがサスケの居場所を教えてくれる。

「……ここだ」

背後からサスケの気配を察知したワイズ。

そよ風のフルートに巻き付けた風の剣で切りつける。
       
「よい反応だ。だが、届かぬ」

「ーーなっ!?」

背後から確かにサスケの気配を感じていたのに、刀によって切りつけられたのは正面からだった。

「正面からの攻撃を背後からだと感じた?そんな、馬鹿な」

また、ゆらりとサスケの気配が消えていく。

ワイズはまた感覚を研ぎ澄ます。

遠くに聞こえた衣擦れの音。

ゆっくりと近付く殺気。

振り上げた刀が空を切り、ワイズはフルートを盾にする。

「残念だったな」

今度は正面からの攻撃だと確信しフルートを出したワイズだったが、背中を切りつけられる。

それでもサスケの気配はほんの一瞬だが、正面にとどまっていた。

ワイズは確かめるように風を放つが正面にサスケの姿はなく、魔力で産み出された霞は揺れることすらなかった。


「……シルフィード。今の違和感を君も感じたかい?」

正面と思えば背後から切られ、背後と思えば正面から切られてしまう。

闘いに慣れたワイズほどの力のある者ならば、その感覚を誤ることはまずない。

「これは、どうやら……

彼の、サスケの術中にはまってしまったようだね」

右から音がしてワイズは反射的に迎撃を試みる。

「ぐっっ」

しかし、斬撃は左側から現れ無防備なワイズの背中を切る。

確かに気配を察知し、防御を試みるワイズであったが、その身体には無数の切り傷が刻まれていく。

未だ防御はできぬままに。 

「段々と速力も落ちてきたようだな。初めて自身の神経回路に魔力を注ぎ込んでの闘いをしたのだ、魔力消耗が激しくても仕方がないこと

そろそろ、我が愛刀の錆となれ『月泪』」

ゆったりとした動きで切っ先が弧を描いていく。

この時点でワイズはサスケの気配を感知できていなかった。

それはワイズが危険を察知するに足りるだけの距離にサスケが居ないことを指していた。

勿論その距離にはサスケの日本刀の間合いと、幾度となく刃を身体に刻み距離を図った居合いの間合いも含まれている。

サスケの刃が円を描き頂点に達する。

そして、目にも止まらぬ速さで振り抜かれる。

「ーーなんだと!?」

突然にワイズの目の前に刃だけが現れ、ワイズの右肩を深々と切り裂いた。

刃はまた霞の中に消えていく。

ドバッと鮮血が地面に落ちる。

『ワイズ!!』

「はぁはぁ、だい、じょうぶ」

ワイズは苦痛に顔を歪めながらシルフィードに言う。

右肩の出血は止まりそうもない。

「全くひどい傷を負ったものだ。

…………だが、今の一撃で彼の能力が分かった」

ワイズの言葉にサスケの目元がピクリと動いた。

『サスケの能力が分かった?』

「あぁ。からくりは簡単だ。

だが、からくりが分かった所で避けることができない。素晴らしい……いや性の悪い能力だ」






        
「彼の能力は

霞のかかる範囲内。つまりは彼の結界領域内で、彼の刀の刀身だけを瞬間移動させるもの。」

ワイズが正面からの攻撃と誤り背後からの一撃を受けた時。

サスケは実際にはワイズの読み通りに正面にいたのだ。

そして自らの存在をあえてワイズに悟らせながら、防御できるように刀を降り下ろす。

その瞬間、刀の刀身のみをワイズの背中へ瞬間移動させる。

目の前でサスケは確かに刀を振るっているが、ワイズに防御の手応えはなく。

背後から降り下ろされる刃はみすみすとワイズの無防備な背中を切ってみせた。

「霞は普段から目の見えない君に有利な目隠しであると共に、君の攻撃自体を瞬間移動させる空間移動魔術だったということだ。

そうだろう?」

「ふっ……名答だ。

だが何故分かった?」

サスケは一旦刀を鞘に納めた。

ワイズは未だ血の止まらない右肩を見た。

「最後の攻撃。君は僕との闘いにけりをつけるために、今までの攻撃とは違うことをした。」

『今までの攻撃とは違うこと?』

「ああ。

それまでの攻撃は全て、サスケ自身も僕に近づき自らの気配を囮に、刀を僕の死角に放っていた。

だが最後の攻撃は明らかに僕の迎撃範囲外。それどころか、君の居合いの間合いより外に君はいて、刀だけを瞬間移動させた。

これにより、僕は君の気配を誤認していたんじゃないことが確信され、君の能力が遠隔的なものであることを示唆した」

黙して聞いていたオーディンの口がゆるむ。

「君の刀、何か不自然なことはないかな?」

「なにっ!?」

サスケは自らの刀に触れる。

『ふむ、やりおる』

そしてサスケより早くにオーディンはワイズの策略に気づいた。

刀身にゆっくりと触れ、サスケは切っ先に何の手応えもないことが分かった。

「ーーこれは、錆どころか貴様の血すらも付着していない?

いったい」

サスケの知略に満悦そうなオーディンが口を開く。

『小僧の刀に付着した自らの血を風で乾かし、錆となる前に刀から結晶化した血を剥ぎ取り回収したのだ。

主ほどの風の操作能力があれば刀に風を巻き付け、それがサスケの元へ戻った後に自らの手に戻るよう遠隔操作することも可能だろう。

遠隔操作され結晶化した血が手元に戻ると言うことは、小僧の力が斬激を飛ばしたりする能力ではなく、刀による直接攻撃であることが確かとなり、
貴様の察知範囲外からの直接攻撃となれば、それは刀身自体が遠くから運ばれること以外にはありえない。

ということだな?』

「その通り。さすがだね」

『だが貴様は小僧の能力のからくりと共にもう一つの事実にも気付いたのだろう?』

ワイズの表情がここへきて初めて曇りを見せていた。

オーディンは残酷な事実を突きつける。

『霞がなくても速力で劣る貴様が、この霞に包まれた空間で死角から放たれる攻撃を防ぐことは不可能

驚異的な反射で生き永らえども、貴様に小僧に勝つ術はない』



ワイズは小さく笑った。

「確かに今のままではその通りだ。
だけど忘れてはいないかな?僕が大陸王だということを」

ワイズの魔力が溢れだす。

洗練された魔力は清らかな風を産み出し、奔放に遊ぶように部屋を駆け抜け、そしてワイズの元に収束する。

「見るが良い、これが僕のオーパーツ『憂いの緑翼』さ」

『翡翠色の風?』

エメラルドの様に輝く風が翼を形取りワイズの背に生えた。

「綺麗だな」

サスケが呟く。

「盲目だと言っていたね、見えるのかい?」

「不粋なかとを聞くな大陸王。

これほどに洗練された魔力が形取る物が美しくないわけがなかろう」

サスケはゆっくりと柄に手をかける。

殺意とは違う、研ぎ澄まされた戦意がサスケが本気になったことをワイズに告げていた。

「いくよ。

『雷雨の円舞曲』」

雷の様に激しく、雨の様に不可避に荒れ狂う翡翠の風。

瞬く間にサスケを取り囲む。

「これは……」

この時初めてサスケは回避の為に居合い抜きを使う。

縮地法により部屋の隅から隅へと移動。

しかし、まるで追尾するかの様に翡翠の風はサスケを呑み込もうとしていた。

「小癪な……致し方がない」

サスケはこれまでの力を抜いた構えから深く力を込めた構えを取った。

速力を捨て、攻撃力に特化した構えだ。

「静まれ『大蛇一閃』」

全霊を込めた中段横一閃。

荒れ狂う風の牙を悉く切り裂き、風が止んだ。

サスケの霞にはワイズの解き明かした能力とは別にある能力が備わっていた。

とはいえワイズが想像だにしていなかったものではなく、ただ解明するに足りないものであったし、サスケにしてみれば日常生活で培われた第六感を補足する為だけのものであった。

その能力とは霞に触れる対象の動きを感知すること。

大蛇一閃の為に全身全霊を攻撃に当てたことで第六感はおろか、霞による感知さえもサスケはできない状態にあった。

それは時間にすれば一秒にも満たないもので、本来ならば命をかけた闘いであっても支障のないものであった。

はずだった。


「やっと捕らえたよ、サスケ」

サスケの眼前に迫るワイズ。

ワイズがサスケの前で手を空で切ると、サスケは翡翠の風に呑み込まれた。

「ぐっ、ぐぁぁぁあ」

この闘いで初めてワイズの攻撃がサスケに届く。

「こんな物で拙者を倒せるとでも思ったのか!!」

サスケの太刀は悠々とワイズの風を切り裂く。

サスケの右腕から小さく血が滴っていた。



サスケの右腕からの出血。

パタッと小さな音をたてて一滴の血が地面を突いた。

「あれをくらってかすり傷かい?

嫌になるね、全く」

ワイズは半ば呆れたかのような声を出した。

しかし、サスケの胸中は穏やかではなかった。

「拙者にに傷をつけるだと?

許さぬぞ!」

「なっーー!?」

音もなく忍びよるサスケの縮地とは違う。

あまりの脚力に畳が弾け飛ぶ。

一瞬にしてワイズの前に現れたサスケ。

ワイズは反射的に翡翠の翼を纏い盾を作っていた。

もし、冷静なままのサスケであったら翡翠の翼を見て即座に攻撃を中止し、他方向から隙を作ることを選んでいただろう。

「な、なんだこの力は!」

だが、サスケは翡翠の翼の上から日本刀を叩きつけた。

いつの間にか霞も晴れている。

霞に回していた微力な魔力さえもを自らの攻撃力を増加させることに費やすサスケのそれは、今までの比ではなかった。

「ぐっ、がぁぁぁあっ」

強力な風の翼は日本刀を通しはしないが、決定的な力量の差がミシミシと音をたてながらワイズを地面にめり込ませていく。

『嘘よ。こんな力任せの攻撃で……


ワイズが押されるわけ』

「くっーーーー」

大きな土埃をたてながらワイズが地面に叩きつけられた。

『ワイズ!!!』

仰向けで地面にめり込むワイズの頭上で、冷徹な瞳でサスケが立っていた。

ゆっくりと刀が振り上げられていく。

「山の様に静かな男だと思っていたが、その皮の中は火のように全てを蹴散らす化物か」

サスケは冷たい目でワイズを笑う。

「終わりだな大陸王。

我が愛刀の錆となれ」

無情に降り下ろされる刃。

『ワイズ!!

逃げてワイズ!!!』

身体ごと地面に打ち付けられたワイズにサスケの刃から逃れる方法は一つも無かった。

「シルクーーすまない」

そう、ワイズが呟いた刹那。

目映い光がサスケを撃ち抜いた。




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最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

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