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下・聖剣の大陸
各星に兵は集う
しおりを挟むメゼシエルが通達した3ヶ月まで残り1週間を切った日。
シルクは早春の大陸のとある場所にいた。
「ミカエルいよいよだね」
涼しい風の吹くその場所からは雲さえも見渡せる。
『霊山での瞑想を経てシルクの魔力も確実に増しています。今ならばルシフェルとも、あるいは……』
シルクはゆっくりと目を開けて笑った。
「気休めなんて君らしくないよミカエル。
まだ僕の魔力が他の王に追い付いていないことくらい、自覚できているつもりだよ?」
敵との戦力の差を認めながらもシルクは落ち着いていた。
『……シルクは何故、私にオーパーツを渡せと問い詰めないのですか?』
シルクはゆっくりとミカエルを見つめる。
ミカエルは少しだけ悲しそうな表情をしていた。
「何か渡せない理由があるんでしょ?
その理由がなんであれ、君が僕に必要ないと思うのなら、それは僕にとっても必要ののないものと同じだよ」
笑顔は信頼を言葉よりも確かに伝えていた。
ミカエルはふと微笑む。
柔らかい風が山の頂上をさらりと撫でた。
「……やぁ、シルク久しぶり」
するとワイズがシルクの元にやってきた。
「ワイズ王……はっ!!
流石ですね。二月前よりも魔力が遥かに洗練されている」
シルクはワイズを見て痛いほどにピリピリとした魔力を感じた。
根本の部分はそよ風の様に柔らかなワイズの魔力。
しかし、その奥底に隠された嵐の様に荒々しい魔力にシルクは精神を削られる思いだった。
ワイズはふと笑うと魔力を静める。
「わざと君に悪意を向けてみたんだが、前の君だったら耐えられなかっただろう。
素晴らしい進歩だねシルク」
ワイズの言葉にシルクは笑顔で頷いた。
「統一王戦まで残り1週間を切った。
そろそろ戦いの説明があっても良い頃だと思うのだが……」
シルクはふと思った。
そのような告示があるのなら、自分もワイズも城に居なければならないのでは?と。
しかし、そんな疑問も杞憂に終わった様だ。
ふいに目の前が神々しく輝きだし、影を写す。
輝きは次第に収まり、その中心に杖を持つ天使が現れた。
「君は……メゼシエル」
シルクに名前を呼ばれメゼシエルは微笑む。
『こんにちは早春と立夏の大陸王』
メゼシエルは2人に向かい深々と頭を下げる。
「メゼシエル、今回は何を通達しに来たのかな?」
『はい、今回はですね……』
メゼシエルが一歩踏み出した瞬間。
ワイズはシルクを隠す様にして魔力を練った。
研ぎ澄まされた魔力がメゼシエルに向けられる。
「わ、ワイズ王……?」
メゼシエルは声を出さずに笑った。
『これはどういうことですかな?早春の大陸王?』
ワイズはゆっくりと魔力を静める。
「僕は疑り深い質でね。
悪いけど、僕たちが戦闘態勢を取るのに必要な二歩と四半分。この距離を侵すことは止めてくれないか?」
ワイズの周りを飛ぶシルフィードもどことなくメゼシエルを警戒しているように見える。
メゼシエルは両手を上げる。
『ふふ……聡明なお方ですね。
分かりました。私はこれより一歩たりとも動きません。ですから……
どうかその刺すような魔力を私に向けるのは止めて頂けませんか?』
輝きは次第に収まり、その中心に杖を持つ天使が現れた。
「君は……メゼシエル」
シルクに名前を呼ばれメゼシエルは微笑む。
『こんにちは早春と立夏の大陸王』
メゼシエルは2人に向かい深々と頭を下げる。
「メゼシエル、今回は何を通達しに来たのかな?」
『はい、今回はですね……』
メゼシエルが一歩踏み出した瞬間。
ワイズはシルクを隠す様にして魔力を練った。
研ぎ澄まされた魔力がメゼシエルに向けられる。
「わ、ワイズ王……?」
メゼシエルは声を出さずに笑った。
『これはどういうことですかな?早春の大陸王?』
ワイズはゆっくりと魔力を静める。
「僕は疑り深い質でね。
悪いけど、僕たちが戦闘態勢を取るのに必要な二歩と四半分。この距離を侵すことは止めてくれないか?」
ワイズの周りを飛ぶシルフィードもどことなくメゼシエルを警戒しているように見える。
メゼシエルは両手を上げる。
『ふふ……聡明なお方ですね。
分かりました。私はこれより一歩たりとも動きません。ですから……
どうかその刺すような魔力を私に向けるのは止めて頂けませんか?』
メゼシエルを見つめるワイズ。
ゆっくりと魔力がおさまる。
それを見たメゼシエルが微笑み、話しはじめた。
『今回の王の試練ですが、もうすでにお気づきのこととは思いますが、特別なゲストを迎えようと思います』
「特別なゲスト?」
シルクがそう尋ねると、メゼシエルは両手を伸ばす。
『この度の宴で惜しくも王となれなかった参加者達にも参加して頂こうと思っています』
「つまり、再び同じ敵と戦うことがあるということか?」
『彼らには4王の下に付いてもらいます。
しかし各々が参加した宴の大陸でなければならないわけではない。
例えば立夏の大陸王、シルク王と戦ったマリア嬢が早春の大陸王であるワイズ王の元に付くことも可能ということです』
ワイズとシルクはお互いに目を見合わせた。
「それで、試練とはなんなのだ?」
メゼシエルはゆっくりと突き出した手の人差し指をたてる。
『1人……
自らの元に集った戦士と共に他の王を倒して頂きます。
4王のうち1人でも倒れた時点で試練は終了となります。
さて、何か質問はありますか?』
「質問はない。」
ワイズはそう言い切った。
メゼシエルはまた微笑む。
『では、私はこれで失礼します。
それでは早春と立夏の大陸王、御武運を祈ります』
メゼシエルは光の中に消えていった。
「これまでに戦った者を配下に……か。
いったい神は何を考えているのだ?」
ワイズは西方を見渡す。
雲の切れ間から街が見えた。
「まずは仲間を集めなければならないようだね。
シルク、君は誰が力を貸してくれそうな者を知っているかい?」
シルクは力強く頷く。
「マリアさんは僕に力を貸してくれると思います」
「そうか。では僕も心当たりをあたってみることにするよ。
では、1週間後に僕の城で落ち合おう」
ワイズはそう言うと、風に消えた。
シルクはゆっくりと空を見上げる。
真っ青な空がただそこにあった。
そして、来たる王の試練の時。
シルクはマリアと共にワイズの城を訪れた。
「マリアさん、長旅で身体はキツくないですか?」
シルクの気遣いにマリアはにっこりと笑う。
「大丈夫よ。それより、この橋を渡ったらワイズ王のいる城に着くわ」
橋の先端すら見えないほどの長い橋。
下には川の流れる音がするが、水面を視認することはできない。
ただ断崖が底にまで続いている。
『シルク、マリア。ワイズのことです、何か仕掛けてきてもおかしくはありません。
気を引き締めていきますよ』
ミカエルの声に2人は頷いた。
ゆっくりと慎重にシルクは橋に足をつく。
ギギッ。と不快な音をたてて橋が気味悪く揺れる。
「大丈夫そうだ。行きましょう」
シルクの後にマリアが続く。
全貌を臨むこともできない長い橋だが、幅は二人分がやっとくらいだった。
何かに支えられているわけでもない所を見ると、ただ陸地の端と端に丸太の橋をぶら下げただけの作りになっているようだ。
「ねぇシルク。この橋おかしいわよね?」
気味悪く揺れる橋。
「……はい、これは」
シルクがマリアに何かを伝えようとした時だった。
強風が吹いたかと思うと、マリアの後ろから橋が崩れ落ちていく。
「な、なによこれ!?」
必死でかけるマリア。
シルクはふと立ち止まる。
「ちょっとシルク。何止まってるのよ、落ちるわよ!」
シルクは崩れ落ちていく橋の先を見つめる。
「マリアさん落ち着いて。
もし現実なら、橋が陸地から離れた時点で僕達は谷底に落ちていますよ」
シルクの言葉にマリアははっとした。
支えもない橋が崩れているのに、未だに立っていられる不自然。
マリアもゆっくりと後ろを向いた。
「さぁ、出ておいで」
シルクがそう言うと、辺りの空間が揺れだした。
「な、なに……?」
そして、霧が消えるように今までの景色が消えて、足元がふわっとした。
「えっ、ここってもしかして……」
赤い絨毯の上。
天井にはシャンデリアがあり、壁には名高い画家の絵が惜し気もなく飾られている。
パチパチ。と手を叩く音がして、2人はその方向を向いた。
「ようこそ2人とも。我が城へ」
そこではワイズがにこやかに2人を迎えていた。
その隣でケーキを頬張る少年。
「……今の幻術はその子の力ですか?」
シルクがその少年を指差す。
少年は気にもとめずにワイズが用意した山の様なケーキを次々と口にする。
「彼はリオン・マグガネル。精霊は悪戯好きのピクシーさ」
リオンの肩には小さな妖精が乗っていた。
ピクシーはシルク達からふいっと顔をそらす。
どうやら自分の幻術を破られてしまったのがお気に召さなかったらしい。
「本当はもう1人呼んでいるのだが、彼はまだ他の仕事があってね。
とりあえずはこの4人が王の試練に臨むパーティーとなる」
風の王ワイズ。
光の王シルク。
水を操るマリアに幻術を使うリオン。
「敵はどれだけの戦力を集めたかは分からないが、我々は戦争をするわけではない。
要は標的となる王を討てば良いのだからな」
――厳冬の大陸。
「サスケ様……」
ある少女がサスケの元を訪れた。
サスケは振り向きもしない。
「サスケ様の元には私を含め8人の精霊使いが集まりました。
この試練。サスケ様はどうぞ、お座りになって見ていてください」
サスケは何も応えない。
しかしその背中からは恐怖で身が縮むほどに研ぎ澄まされた魔力が放たれていた。
「少数精鋭だと言えば聞こえは良いが、実のところ、これが限界だった。」
「どういうことです?」
ワイズはゆっくりとリオンを見た。
「リオン、説明してやってくれ」
「えー……しょうがないなぁ」
リオンは面倒くさそうに口を尖らせてから、そう言った。
「他の参加者はみんな厳冬の大陸王についたよ」
「――なっ!?」
リオンはタルトの生地をフォークで細く削りながら、話を続ける。
「正確には服従させられてるってところかな?」
「服従?」
「そ。この王の試練てやつは、王になれなかった参加者だけが参加するわけじゃないんだよ」
「どういう意味よ?勿体ぶってないでちゃんと話なさい」
マリアの怒声に、ピクシーがあっかんべーをした。
「分からないかい?『王』と『王になれなかった者』。
宴の参加者は本当にその2つだけだったかい?もう1つあるだろう?」
リオンの言葉にシルクは気付いた。
「そうか……もう1つは……」
サスケはゆっくりと立ち上がり、その少女を見た。
「貴様は何故私につく?」
少女は冷たく笑うのだった。
「厳冬の大陸のしきたりの様なものでございます。
この世界は弱肉強食。強き者が弱き者を統べる、ごく自然なことと思いませんか?」
少女の放つ冷たい魔力が辺りを凍らせていく。
サスケはふっと笑った。
「『元大陸王』が私の下につくとは滑稽だが。良いだろう。
貴様の力、利用させてもらう」
「はいサスケ様。
このグレイシア、全霊をとしてあなた様の力となりましょう」
サスケの元に募った8人の精霊使い。
その内の1人は、氷の女王グレイシアだった。
「もう1つは『元大陸王』。
……はっ!まさかもう1人っていうのは!?」
シルクはワイズを見る。
その表情を見てワイズは笑う。
「そういうことさシルク。
我々の仲間、もう1人はフレアだ」
心強い味方の名前にシルクは無意識に握りこぶしをつくっていた。
「フレアには重大な仕事を請け負ってもらっている。
我々は少しでも早くフレアの元に駆けつけなければならない。」
「では、晩秋と厳冬、どちらを狙うのですか?」
マリアの問いにワイズは目を瞑った。
しばらく沈黙が流れ、リオンが紅茶をすする音が時折聞こえた。
「我々が狙うのは……
厳冬の大陸王、サスケだ」
「して、サスケ様。
やはり狙うなら立夏の大陸王でしょうか?」
グレイシアの言葉にサスケはやはり応じない。
「まさか早春か晩秋の大陸王を?」
返事はない。
ただ吹雪が壁をなでる音だけが響く。
「なに、私が動かずとも自ずと敵はやってくる」
サスケはそう言いながら、ゆっくりと腰にすえた刀を抜いた。
部屋の光を刄が反射する。
「さて、私を満足させてくれる獲物がやってくるかな?」
刄を舐めるサスケ。
その仕草に、その魔力にグレイシアは身の毛がよだつのを感じた。
「さぁ、宴の始まりだ」
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