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上・立夏の大陸

太陽神の剣

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ソフィアに大敗をきっしてから一月が経ち、シルクはある場所を目指していた。

『狂戦士の寝床』。

壮大に連なる連山の中央に位置する、サマー・グラウンド随一の巨山である。

「まさか一月もの間、向こうが待ってくれるとは思わなかったな。」

進む歩調に迷いはなく。

確かにシルクは戦士として成長を遂げていた。

身体には治り切らない傷跡も多々あり、壮絶な試練を乗り越えてきたのが分かる。

何よりも変わっていたのは表情である。

『シルク、私の試練をよく乗り越えました。今のあなたならどんな強大な敵とも戦えることでしょう。』

「うん、ミカエルがついてくれているしね。」

幼さが目立った頼りない顔はもうなく、強い眼差しで真っすぐに前だけを見つめていた。


狂戦士の寝床は他の山とは違っていた。

活火山を中心に持つそこは、火山の噴火による灼熱に常時包まれている為に木々が育たないのだ。

あるのは木の様にゴツゴツと固まった火山岩のみで、広大な敷地が全て漆黒の岩で埋め尽くされていた。

「凄い場所だな。活火山のせいか、地中から強い力を感じなくもないし。」

地脈から感じる力に肌が震わされる。

そこにわずかに混じる、負の魔力をシルクは感じ取っていた。

山頂にたどり着き、2人は相対する。

「よく、ここまでたどり着いたと褒めてやろうシルク・スカーレット。」

「長く待たせてしまったねゲセニア・アルボルト。」

ビリビリとする魔力の交換。

2人は互いに、初めて会った時とは隔絶された力を感じていた。

ゲセニアは心なしか愉快そうに笑った。


「まったく、訳の分からぬ輩の言葉も聞いてみるものだな。」

ゲセニアが一つ二つと岩を下る。

「まさか貴様がここまで力を付けようとは思わなかった。そうだろう?ベルゼブブ。」

ずぁぁあっ。とゲセニアの足元から煙幕の様に闇が広がる。

「輩とは……?」

シルクの言葉にゲセニアは何も答えない。

「だが、まずは試させてもらおうか。『黒墓』」

どっ。と一瞬にして闇がシルクを飲み込んだ。

次の瞬間。

カッ。と闇の中から光が飛び出し、黒墓が消滅した。

「腕試しはこんなもんで良いんですか?」

そこには大天使の羽衣を纏ったシルクの姿があった。

心なしか羽衣の輝きが以前よりも増している様に見える。


「言うじゃないか。ベルゼブブ『連獄』」


「かき消せ『聖層の槍』」

左腕から生まれた十数の光の槍。

放たれた光は闇を貫きゲセニアへと向かう。

「ふむ。」

が、ゲセニアの手前で儚く消えた。

ゲセニアはシルクをまじまじと眺める。

焦りはない。不安もない。だが慢心ではなく、ただ平常。

「おもしろい。」

ゲセニアはパチパチとコートのボタンを上から外していく。

そしてコートを脱ぐと放り投げた。

バスッ。と音をたててコートが地面に落ちる。

「おもしろいじゃあないかシルク・スカーレット。もっとだ。もっと私を……」

一瞬にして間合いを詰めたゲセニア。

豪腕を振るい上げ

「楽しませてくれたまえ!!」
――ドッ!!

「……つっ。ただのパンチがなんて威力だ。ミカエル『光波』」

放たれた光がゲセニアを捕えるその瞬間。

闇がゲセニアを覆い、光を飲み込んだ。

「効かぬよそんなものは。我がギフト『ヴァコース・テリトリー=絶対不可侵の檻=』の前にはね。」


闇がゲセニアの影へと戻っていく。

それは剣を鞘にわざわざ戻すようなことだった。

シルクはその隙を逃さない。

「『聖層の槍』!!」

「甘い『ヴァコース・テリトリー』」

光が届くよりも速く闇がゲセニアを覆う。

光の槍は闇に飲み込んまれ消える。

「絶対防御と言うやつだ。君に破る手立てがあるかな?」

「…………。」

シルクはゆっくりと目を閉じた。

深く息を吐きだし、深呼吸をする。

手足が温かく、血が全身を巡る。

細胞から滲みだした魔力が血に混じり、全身を巡っていく。

「ふむ。なかなかよい魔力ではないかね。」

溢れだした魔力がゲセニアの意識を更に鋭敏にさせる。

「大天使の羽衣――第四の力『白炎』」

シルクがゲセニアの足元を指差す。

「……?なにかね?」

すると――

「――なっ!?」

シルクに指差された部分がまばゆい光を放ったかと思うと、一瞬にして炎が立ち上ぼり燃えだした。

間一髪回避したゲセニアが顔を上げる。

シルクの指先が自らを指していることを認識した瞬間。

ボッ。と左腕に炎が巻き付いた。


ゲセニアの左腕から炎があがる。

「ベルゼブブ『ヴァコース・テリトリー』!!」

闇が燃える左腕を包み込む。

炎は消えたが、軍服の左袖がただれていた。

ゲセニアの顔が初めて歪む。

「子癪な真似を。光の使い手が『炎』を使うなど。」
「炎じゃあない。」

「なに?」

ゲセニアはただれてしまった左袖を無理矢理に破きとった。

シルクはゆっくりとゲセニアを見る。

「白炎は『光』さ。一点に焦点を絞った光熱によって炎があがるんだ。勿論魔力で底上げしているけどね。」

すっ。とシルクは右手を広げた。

「なにをしている?」

ゲセニアの問いに応えはない。

シルクは魔力を込めると、ある物をイメージする。

それは光となり、形を成し、辺りを燦然と照らしながら具象していく。


「白炎を取り込んだ光の剣『レイ・ライン=太陽神の剣=』」



「……光の剣だと?」

正に光の剣。

レイ・ライン自体が発光し辺りを照らす。

シルクがゆっくりと構える。

「いくよゲセニア。」

飛び出したシルク。

ゲセニアは全身に闇を纏った。

「レイ・ライン『光炎爆破』」

レイ・ラインがゲセニアの闇を斬り付けると、その部分が大爆発を起こす。

その光すらも闇に飲み込まれたが、初めて闇が歪(いびつ)に揺れた。

「なるほど。絶対防御も破れなくはなさそうだ。」

何度も闇を斬り付けるシルク。

その手に手応えはないが、確かに闇がわずかにぶれているのが目で確認できた。

『なんと強靱な魔力でしょう。シルク注意してください。ゲセニアの力、こんなものではないはずです。』

「分かってるよミカエル。でも……いくだけいかなきゃね!」

上下、左右、所構わずレイ・ラインで斬り付けるシルク。

斬り付けられた部分が強力な光を発しては、闇がそれを飲み込む。


「はぁぁぁぁぁあっ!」

思い切り振り上げた刃をシルクが振り抜こうとした時だった。

「あまり調子に乗るなよ……小僧。」

何かいい知れぬ違和感を感じ取ったシルクが、攻撃の手を止めて後ろに飛んだ。

次の瞬間。


何かがシルクの居た場所を食らい飲み込んだ。

その計り知れぬ魔力にシルクの額から汗がこぼれた。

「なんだね。見るのは初めてかね?いや、存在そのものすらも精霊から聞いていなかったかな?」

ギフトから感じた魔力とは比べものにならないほど強大で、邪悪な魔力。

シルクは更に間合いをとるために後方に下がる。

「これが私のオーパーツ。『闇土竜=ヤミモグラ=』」

巨大な闇。

そうとしか表現できない巨大な物体がゲセニアの後ろに現れた。

「オーパーツ……?」

シルクの表情を見て、ゲセニアが笑う。

「やはり知らなんだか。そうだろう貴様のその矮小な魔力では到底この域には遠い。」

ゲセニアは両手を広げると愉快そうに笑った。

シルクを見下し、蔑み、哀れむかの様に。

「オーパーツとはギフトの遥か上の力。精霊をこの世界に具象できるだけの魔力を得た者だけがたどり着く力なのだ!!」
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