刺激を求めていたオレが念願の異世界転生を果たすも、そこはラスボス手前のセーブポイントだった件!

小鉢 龍(こばち りゅう)

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魔神王討伐編

作戦会議

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ふいに意識が戻った。

「ーーはっ!ここは?」

辺りを見渡すとそこは薄暗い空間で、生き物の様に脈打つ地面は不快な感触でぬめっていた。オレは無意識に首筋を触ってし”確認”をした。

「首ついてる・・・・・・熱く、ってあれ?」

首筋の違和感を意識した瞬間に、身体の底からあの時の感覚がよみがえってきた。首を通る冷たい手の感触。焼けただれるような感覚を首筋に感じた時には、世界がゆっくりと落下していった。自分の頭が地面に落ちて転がる音。

「う、おえっっ」 込み上げてきたモノを我慢することなどできずに、オレは思い切り胃液を吐き出した。

「死んだ?死んだのか?そっか・・・・・・あれが、死ぬっていう事なのか」

思い出した恐怖で全身から汗が噴き出した。命が途切れ世界から引き剥がされる絶望感と無常さに涙が溢れてきた。無意識に何度も何度も首を触って、自分の頭が胴体とつなっがていることを確認した。涙を垂れ流しながら。

そうして確認をしばらく続けていると気持ちがゆっくりと落ち着いてきた。生きている。いや、確かにオレはあの時に殺された、誰に?

「ティケルヘリア・・・・・・」

そうだ、ヴァンパイアの王と名乗った白髪の吸血鬼によって殺された。場所はーーそう、今いる場所にある扉を抜けた先の幽門の間だった。そうだ!

「インデックス、いるんだろインデックス!」
『転生者よ、よくぞこの世界へ参られた。ーー我が名を呼んだのか?』

なんだろう引っ掛かる反応だな。

『つかぬことを聞くが転生者よ、なぜ汝は我の名を知っている?』

なんで知ってるって・・・・・・さっき自分で名乗ったからだろ?

『それは道理に合わない。我が汝の前に姿を現すのは初めてであるし、名を名乗ったことは無い』
「ーーえ?」

インデックスと話すのはこれが初めて?そんなはずはない、ついさっきステータスのことや、イスカの魔法について、それから戦闘区域からの離脱の方法を教えてもらった記憶がある。でも、インデックスが冗談を言ったり、ましてやふざけているなんてことは無いと分かる。

つまり、これは・・・・・・インデックスをも含めたこの世界の住人は、パーティーの全滅によってあの時の経験と記憶が消去されて、外の世界の住人であるオレにはなぜか記憶が残った。ということか?

「いや、そうだという確証は今のところない。それに、こんなあからさまな・・・・・・」

主人公補正のようなご都合主義な展開があるのだろうか?とはいえ、これがたまたま起きた不具合の様なものと考えることにも無理があるように感じた。

とにかく、現状を確認すると・・・・・・意識が戻る前にオレはこのパーティーと共にあの扉の先へ向かった。中に居た三匹の魔族の圧倒的な強さの前に成す術もなく全滅させられて、このセーブポイントのオブジェの前に戻された。この世界ではセーブポイントに戻る際には記憶と経験が削除されるけれど、今回はなぜかオレには記憶が戻っている。

「つまり、皆はセーブポイントで蘇ったけれど、オレは転生した瞬間に”死に戻った”と考えるのが妥当か?ようやく異世界転生らしくなってきたじゃないか」

とはいえ、死の瞬間があれほど生々しいのであれば、死に戻れるとしてもこれ以降はごめんこうむりたいけど。

「よし、とりあえずこれで現状は把握できたな」

けど、問題はここからなんだよなーー


「……大丈夫か?」

その時、オレの肩をとても大きな手がぽんと叩いた。振り向くとそこにはアレックスが立っていた。

「・・・・・・これから向かう場所を思えば震えもするよな。だが、大丈夫だ。お前にはオレ達がついている、そうだろ?」
「ありがとうアレックス。皆を信じているよ」

アレックスはそうオレのことを鼓舞して、また皆の元へと戻っていく。青く澄んだ瞳の内側には炎が宿どり、そこに確かに勇気を見た気がした。

あの大きな手が震えていたのか?あの気高い瞳が震えていたのか?あの時のアレックスにいったい何が起きていたというのか。

ダラダラと考えている時間はないな。けど、今やるべきこと、やれることは意外とはっきりしている。さっきの失敗で感じた違和感を一つずつ払っていくしかない。

「インデックス話を中断してすまない、オレの名はツバサ。インデックス、まずはオレの今のジョブと装備を知りたい。あと、各属性耐性値もよろしく頼む」

『汝の名はツバサだな。ツバサ……汝のレベルは現在『Lv185/300』。
ジョブは『ソリッドアーチャー(熟練度MAX)』
装備は
頭:吟遊詩人の帽子
銅:根無し草のマント
靴:宵闇の影
武器:世界樹の弓-閃光の矢(無限)  

各属性耐性値は装備やスキル補正込みで炎属性プラス70%、水属性プラス55%、木属性プラス85%(最高値)、雷属性プラス5%、地属性マイナス10%。
光属性プラス47%、闇属性プラス63%となっておる』

ふむ。ジョブ、レベル、各属性耐性値もさっきと変わらずか。やはりセーブポイントに辿り着いた時の状態に基づいて蘇生する仕組みになっているようだ。オレはふとイスカに目が止まった。そして、あの瘴気によるダメージで感じた違和感を思い出していた。

……ここは、念には念を入れておくか。

「インデックス、闇属性耐性値を装備やスキルをいじって今可能な最大値に上げてもらってもいいか?」

『承知した。では装備を1つ変更し
胴『根無し草のマント』→『厄災の鎧』
に変更することを勧める。

これにより闇属性耐性値は63%から78%へと15ポイント上昇、代わりに魔法防御力マイナス250ポイント、物理防御力プラス57ポイントとなるが良いか?』

ふむ、あの魔族三匹はどちらかと言えば武闘派だったように見えたし、物理防御力が高まるのであれば一石二鳥か。何より、これで少しでもイスカへの負担が軽くなるのなら一先ずはそれでいい。

「うん、装備の変更を頼む」
『承知した』

そうインデックスが言った途端に、マントが淡く光り輝いたかと思うと、収束した光から姿を現したのは髑髏をあしらった奇妙な鎧だった。

なんかこれあれだな・・・・・・呪われてそう!!!これ呪われてるよね?ねぇ、インデックスさん!?

『厄災の鎧に呪いはない。そもそも”厄災を払う鎧”として名匠によって造られたものだ。ただ、この世界には呪いを帯びた装備があることは確かである』

呪いの武器もあるのか。まぁ、今のところは特に用はないかな。さて、これで少し説得力を持って話ができるな。オレはパーティーメンバーの元へと歩いていく。



「…………やぁやぁ、皆さん。不躾で悪いんだけどさ、これからの戦いに備えてなんだけど、まさか闇耐性積むの忘れてる人いないですよね?」 そう言ったオレに皆の視線が集まる。ピリっとした空気が流れたのを肌で感じたが、そんなことで引き下がるわけにはいかない。

まず解決すべき問題点として、イスカの『ウェア・チャーチ』での被ダメージがある。

あの魔法は個々の闇属性耐性値から被ダメージが算出され、その値をそれぞれ1/3にしたものの合計をイスカが肩代わりするというものだ。扉を抜ける時のイスカの苦しみ方は尋常ではなかった・・・・・・ミスか故意かは分からないが、闇属性耐性値が極端に低いやつがいるはずだ。

元々、ある程度闇属性耐性値を積んでいたオレが装備やスキル構成を見直しても、恐らく大きな効果は期待できない。そう、その人物に装備やスキルの修正をしてもらわなければ、この問題は解決しないのだ。

「おいおい、ツバサぁ。新参者のお前がよく先達のあたしらにそんな口聞けたな?あ?」

大きな反応を2つ確認。ミーアは厄災の鎧の首元を覆う毛皮を乱暴に掴んで、オレを睨みつける。分かりやすい反応で助かるけれど恐らくこれは奢りや慢心による威嚇じゃないな。

しっかりと準備はしてきたことへの疑いに対して、それについての憤りの様なものだろう。ミーアは一見して露出度も高いし魔法耐性なんか積んでそうもないけれど、しっかりと準備出来ているということだろう。つまり闇属性耐性が低い人物は他にいる。

となると、怪しいのはもう1人の方か……

ミーアはギリギリと掴んだ手の力を強めていく。おいおい、怒りで獣化が出てきてますけど。

「やだなぁ、ミーア先輩。オレは一応の確認として言ってみただけじゃないですか?ねぇ?アレックス」

ミーアの反応から新しい情報も出てきた。数あるパーティーの中で1位のランクにいるこのパーティーにおいても、古参と新参とがあるということ。つまり、最初からこの6人が集まったパーティーではなく、何人かはどこかのタイミングで合流をしたということだ。現時点での確定事項としては、オレは後からパーティーに参加した新参組の一人ということだ。

これも何か意味がありそうな気がするな。

さて、ミーア先輩の行動に隠れて皆の注目から逃れているようだけれど、もう1人が特に何か行動を起こしている様子は伺えない。まさか、このまま隠し通してイスカへのダメージを再現するつもりなのか?だとしたら故意に闇耐性値を低くしている可能性が出てくるけど、狙いはなんだ?

「そうだな、慢心とは怖いものだ。イスカの補助魔法があるとは言え、各自の装備やスキルの見直しも必要だろう。今から2分で各自改めて確認をしてくれ。

さあ、もういいだろミーア、その手を離すんだ」
「ちっ。分かったよ勇者様」

アレックスの一声で解放された。ミーアは恨めしそうにこちらを見ている。どうやらアレックスはうまく手綱を握っているらしい。

一旦、それぞれが各自のスキルセットや装備の確認を行うことになった。とはいえパーティー内と言えども他人の装備やスキルセットは見ることができない。ここはあの人を信じるしかないな。

しかし、どうしてあの人が?

もしこれで門をくぐる時にイスカが請け負う瘴気のダメージが変わらないようなら、残念だけれどあの人を疑う他なくなる。そう思いながら皆が準備をしている姿を見つめるオレのことを、鋭い視線で監視する人がいたことに、その時のオレはまだ気づいていなかった。


そしてアレックスが準備の為に設けた2分が経った。方々に散って装備とスキル構成を見直したメンバーがまた扉の前に集まってくる。

オレのようにあからさまに装備を変えている人はいないか。さて、あの時にミーアと一緒に大きな反応をしたあの人は、素直にスキル構成を見直してくれただろうか。あるいは……

オレたちはアレックスの周りに円を組むように集まった。

「では、最終確認をするぞ?我々は今から幽門の扉をくぐり、ティケルヘリアを打ち倒し『深淵の鍵』を手に入れる。単体でも相当な力を持つ敵だが、何よりも注意すべきはカミーラとノブレスと呼ばれる魔人だ」

惨敗だった初めての突入では、こっちにきたばかりでインデックスとの脳内会話に夢中になり作戦会議を聴き逃したけれど。この時点ですでにカミーラとノブレスもいることは知っていたのか。でも、ノブレスとカミーラの力量までは知らなかった?

だからこそ、幽門の間に入った時に3匹を見ても動揺はしなかったものの、想定外の力量差に作戦が瓦解したということか。

「作戦は至ってシンプルだ。まずはツバサとミネルヴァが遠距離から攻撃。相手の動きを止めて、こちらから先制攻撃をしかける」
「ええ、任せて」
「OK」

ミネルヴァお姉様とオレが返事をするとアレックスは力強く頷いた。そして話を進める。その姿はどこからどう見てもこのパーティーのリーダーにしか見えない。

「イスカはいつも通り、補助と回復に専念。2人の攻撃を突破口にしてオレとミーアでまずは厄介な能力を持つカミーラを引きはがし打ち倒す。みんなはその間、できる限りティケルヘリアとノヴレスをオレ達に近づけさせないように立ち回って欲しい」

ふむ。前回は作戦会議を聞き逃してしまったから即席で立ち回ったけれど、大筋は合っていたようだな。ただ、後方からの攻撃で相手を分断しつつ、アレックスとミーア先輩とで各個撃破を狙うのが主な作戦だったのか。しかし、これは……

「後方からの援護の手を緩めるつもりはないけれど、ティケルヘリアとノヴレスを相手に私とアーチャーだけで分断を維持出来るかしら?」

そう、あの三匹は一匹たりとも容易に分断できるとは思えない。楽観的にみてティケルヘリア単体ならば止めることは不可能ではないかもしれないが、一緒にノヴレスも抑える必要があるとなると難易度が段違いに引き上がる。

アレックスは「うむ・・・・・・」 と唸って、口を開く。

「正直な話……かなり難しいとは思う。でもオレ達は今までだって無理だと思われた魔人を皆の力で打ち倒してきた。今回もそうだ!
無論、これまでよりも相当に難しい戦況になると覚悟しておく必要はある。だから30秒だ。オレたちも命懸けで30秒でカミーラを討つから、皆にも30秒ティケルヘリアとノヴレスをどうにか抑えて欲しい。
次に同じ要領で2匹を分断し先にティケルヘリアを、そして全戦力をもってノヴレスを討つ」

30秒か。ゲームのボス戦と考えたら30秒は決して長くはないように思える。だけど、オレは身をもってやつら三匹の力を体感してしまっている。あの化け物を相手に30秒もの時間を稼ぐことがどうにも想像できない。

「不安そうだな、ツバサ」

アレックスは穏やかな表情でオレを見ていた。不安が表情に出ていたようだ。

「あ?またお前いちゃもんつける気かよ?アレックスの作戦以上に良い案がお前にあるのか?あぁ?」

ミーアは不機嫌そうな顔でそう言った。

「ミーアはすぐにツバサにつっかかるね」

オレに詰め寄るミーアを見て柔らかく笑うイスカ。イスカのこんな表情を初めてみる。

「愛情表現が下手ね、まったく」
「はあ?誰が誰に愛情表現してるってのさミネルヴァ!」

これから魔神王の元に向かおうとしているのに穏やかな空気が流れている。そんな皆のことをアレックスは優しいまなざしで見つめていた。そして、場の空気を引き締める為に咳ばらいをして話し始める。

「まぁ、今回も不測の事態は起きるだろうし、その時々で皆には臨機応変に行動してもらうことになることだろう。つまるところ皆を信じて頑張るしかないわけだけど、オレたちはそうして現在1位のパーティーとして魔王城の最奥にまで足を踏み入れている。

このパーティーだからここまで来れた。このパーティーだから魔神王にも刃が届き得ると思っている。さぁ、いくぞ」

アレックスはそう言って立ち上がり、業火の様な大剣を円陣の中央に向けてかざす。

アレックスか大剣を突き出して、ミーアが「にしし」っと笑いながら右の拳を大剣に重ねた。ミネルヴァお姉様が杖を重ねるとあしらわれた宝石が輝き、赤い光が剣に反射して揺れた。イスカは首から下げた十字架を握り締め祈りを捧げながら聖典を開いて重ねる。

そしてオレもゆっくりと弓を重ね、最後にアサシンが無言で暗器だろうか?小刀を重ねる。皆がエモノを重ねたのを見て、アレックスが洞窟にこだまする程に高らかに声を張り上げる。

「ゆくぞ!魔神王を我らの手で葬り去ろう!!」

「「「うぉぉぉおっお!!!」」」

ーーーーさぁ、2度目の挑戦の始まりだ。

「じゃあ皆、集まって」

扉の前まで移動するとイスカが詠唱を始めた。聖典からあふれ出した光が、イスカの言霊に呼応するように辺りに広がっていく。その光の粒が弾け、合わさりながらパーティーメンバーの身体を優しく覆っていく。

その光はとても温かく、肌に触れると溶けて身体の奥へと染み込んでいくのが分かった。

「此の者達に聖なる加護を「リフレクト・ゾーン」!更なる恩寵の光を「ウェア・チャーチ」!」

これで瘴気の破片によるダメージはリフレクト・ゾーンによって無効化され、瘴気の源泉によるダメージはウェア・チャーチによってイスカと共有されるようになった。イスカは力強く頷いていたが、オレの不安は解消されないままだった。

どうかこのまま何事もなく終わって欲しい。でも、これで幽門の扉を抜ける時にイスカに強く負担がかかるようなら、あの人への疑念が確証に変わってしまうことになる。

円陣を組んだ時の心強さは本物だった。穏やかな空気だって偽りだったとはどうしても思えない。どうか、どうかオレの杞憂に終わってくれよな。

「では、いくぞ」

アレックスがそう言って、懐から鍵を取り出した。漆黒の門は固く閉ざされていて鍵穴など見当たらない。アレックスはおもむろに鍵を差し出す。

すると何もなかったはずのアレックスの目の前に、鋭い牙を見せつけるように口を開けた骸骨が浮かび上がる。その骸骨は差し出された鍵をアレックスの腕ごと口に入れたが、鍵だけを飲み込んで口を閉じた。骸骨は「ケタケタ」と笑って、また扉の中に戻っていく。

鍵を飲み込んだ扉はウゾウゾと蠢いて、装飾されていた髑髏がけたたましく笑い、埋め込まれていた人間は悲鳴をあげ、扉が少しずつ開く度に骨が軋んでいる音が不快に響いた。

「悪趣味な・・・・・・」 思わずそうオレはこぼしていた。

ひとりでに開いていく扉の先に見えたのは、異空間へと続くブラックホールの様な渦巻く入り口だった。門は最大まで開くと断末魔と笑い声が消えた。

「行くぞ」 と低い声で合図をして、アレックスが先頭になり異空間へと入っていった。ミーアがそれに続き、アサシン、ミネルヴァお姉さま、イスカ、オレは最後に異空間へと足を踏み入れた。

再び足を踏み入れた扉の中に広がる異空間、その漆黒の渦の中は扉が侵入を拒んでいた次の部屋ではなく、薄暗い淋しい空間を経由している。視界は悪く、前をゆく人影だけが薄っすらと認識できる程度。

肌をなめる不快感は慣れるものではなく、重度の乗り物酔いをしたかのような吐き気を通り越して意識が飛びそうになる。酸素が薄いのか、瘴気による毒素のようなものなのか、息を吸うと否応なく不快感が器官を通して身体を犯していく。

せりあがってくる胃液をどうにか体内に留めながら足早に進もうとするけれど。どれだけ必死に足を動かしても景色が変わらず、自分が進んでいるのか、留まっているのか、はたまた退いているのかすらも分からない奇妙な感覚だ。

「さてと・・・・・・前にいるのはイスカだったはず。どうなっているかな?」

不快感は和らいでいないけれど、瘴気によるダメージがオレにはほとんどないことからして、イスカの補助魔法はしっかりと機能している。これでイスカが苦しんでいなければ、オレの疑惑は払しょくされて待っている戦闘に専念できる。

「きっと大丈夫さ・・・・・・」 そう呟きながら、オレは必死で足を動かし、僅かでも早く進もうとしていた。労力分の成果があったのかは分からないが、次第に前を歩くイスカとの距離が縮み始め、いよいよ肩が並んだ。

異空間は依然として歪み、渦巻き、僅かな光を放ちながらもそれを飲み込んでいる。

そしてイスカより数歩手前に出て「大丈夫だよな・・・・・・?」 と、不安に感じながら、オレはイスカの様子を伺った。ずしんと胸のあたりが重くなる。

「うっ・・・・・・ぐう」 と漏らすその表情は、確認するまでもなくダメージによる苦悶をありありと物語っていた。

「くそっ・・・・・・」

これで確定してしまった。イスカへのダメージを意図的に吊り上げているのは、あの人だ。けど、やっぱり理由が分からない。なんであの人は闇耐性値を下げるなんて回りくどいやり方をして、イスカを苦しめているのだろう。

イスカに本来の力を発揮させないようにしている?メリットがない。魔神王を倒すという目的で動いているのだったらイスカの力は必要だし、そもそもパーティーメンバーを貶める意味はない。

だとしたら・・・・・・あの人は魔神王を倒すつもりがない?

「いやいやいや、だったらなんでここにいるんだよ。そうだ、きっと闇耐性を上げる装備やスキルがなかったんだ。そうさ、それが一番分かりやすいじゃないか。

そうだよ・・・・・・これは不可抗力で」

そんな風に口に出して見れば、自分の中の気持ちを誤魔化せるのではないかと思ったのだけれど、疑惑への確信はわずかばかりも薄れることは無かった。

「イスカ、もう少しで抜けるよ。頑張れ」

そう言ったオレの顔を見て、イスカはどこか哀しそうに笑ったんだ。


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