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餼羊編

ep16 男と兵団

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東真side


「今度は右かッッ………… !」


そう誠士郎は声を上げて 
小刀で右側に居たゾンビに向かって一閃する


ズバシャッ…………!!


誠士郎が振っている小刀の切れ味は鋭いようだ
ゾンビの首が切断されるとともに体液が噴き出ていた
これで誠士郎は12体のゾンビを倒したが


(それでも一向に数が減らないッ……!
どれだけのゾンビ共をこの山に集結させてたんだ…
弾っていうボスはよ……………)


独り地面に降りて戦う誠士郎を見守りながら
俺は木の上から動いているゾンビを探す


「このままじゃ………… ジリ貧だ……」


俺はそう声に出しながら
銃口をゾンビへと向け銃の引き金を素早く引いた


ジャキィ……パァンッ………!!


反動により痛みが両手に残るなか
狙ったゾンビの頭に命中して倒すことができた


(かなり反動には慣れてきたな、、)


ゾンビが倒れたことを確認してすぐに誠士郎を探す
誠士郎は大量のゾンビ相手に善戦しているが 
彼の体力はジリジリと消耗しているのだろう


「はぁッ………!!」


彼が鋭い声を上げつつ前進し
大型ナイフをゾンビの首に刺した後に薙ぎ払った


グジャッッ…………!!


そして倒れていくゾンビに構わずに
素早く後退し次の標的を見つけては駆けていく
その様子を俺は上から睥睨へいげいしながら


「なるほど… 」


彼の戦い方を理解しつい関心してしまう
常に1対1の形を取るように意識して立ち回っていた
そして殺したあとには警戒しつつその場から下がり
敵を目視しては再度1対1の状況を作っている


(敵の性質と地形を活かし
そして日々の努力が生む戦い方………… )


彼は状況や自身の強みをよく理解しているのだろう
常に情報収集を優先していたことも思い出した
彼の性格そのものを体現した戦術を観察していると


「喰らえッ………… !! 」


そう叫んで木刀を投げてゾンビを転倒させる
そして即座に接近しつつ木刀を拾いあげ


メシャッ………!!


上段の構えから思いっきりソレを振り下ろした
彼に迫られたゾンビは首を切断され痙攣している
再度周りを確認しつつバックステップ踏み


「次ッ………!! 」


声を荒げながら前進し片腕を失ったゾンビに迫り
下段の構えから木刀を振り上げる


ゴシャッ…………!!


片腕を失いバランス感覚が狂っている所を狙ったのか
ソレを顔面に食らったゾンビは勢いよく転倒する 
仰向けになったところを彼はナイフで仕留めた



ズブリッッ……!!


彼は付近にゾンビが居ないことを確認し
大型ナイフを素早く振ることで付着した体液を飛ばす 
左手に小刀、右手にナイフを装備して歩きだす


「次……………… 」


静かに呟いてゾンビを次々と殺していくその姿に
俺は畏敬の念を抱いていた 
ゾンビによるドミノを成功させたことで
多数いる奴らの殆どが手負いの状態のようだった
ソレを見越していたのか彼は大胆に突っ込んで行く


(いったい誠士郎からは 
どんな景色が見えているのだろうか………? )


~~~~~~~~
 

誠士郎side


「次………………… 」


まるで機械のように身体が動いている
周りのゾンビを殺す為に生まれた機械のようだ 
そう思いつつゾンビの頭に突き刺した小刀を引き抜く



結局10体目を殺してから数えるのを辞めた



何も考えずとも勝手に身体が動いて奴らを殺している
そんな一種の催眠のようなものから 
自分を解放してくれたのは生々しい音だった



ドッ、、ドッ、、ドッ、、ドッ、、
ドッ、、ドッ、、ドッ、、ドッ……………!!



遠くで彷徨っているゾンビ達が一斉によろめいた
そしてその場から動くことはなく倒れている


「何が起きてる……………? 」


ボンヤリとした視界から正気に戻り自分は驚愕する
周りを彷徨っていたゾンビらが一斉に倒れた理由は



奴らの死骸には
槍、剣、矛 などが刺さっていたからである



十数体ほどのゾンビが集団によって殺されたのだ
見渡す限りのゾンビの死骸に囲まれているなか 
次に自分は山の麓から男の声を聞いた 



「 皆聞こえるかッ………! 
動いている者共は全て殺せッッ………!! 」



その非常に短く端的な命令と共に
麓の木々の間から藍色の防護服を着用した剣士達が
山の中腹へつまりコチラへ素早く走って来ている
迫ってきているといったほうが適切なほどに

 

(この人達は……敵味方どっちだッ………!? )



この世界で初めて目にする人間の集団に戸惑うが
向こうは悩む気なんてさらさらない様だ 
失速する様子はなく自分の方へ迫ってきている
各々が着ている防護服に帯刀しているのが見えた


(生き延びるには…戦うしかないッ………!! )


高所に位置しているためまだ活路は残っているはず
自分は大型ナイフを彼らに向けながら構えつつ 
目を閉じて呼吸を一度整えた


(先頭の奴をこの小刀を用いて一撃で仕留める……
ソレに恐れた後ろの奴にナイフを投げて撹乱し
再度小刀での薙ぎ払い…士気を下げてやるッ……!
東真と脱出を試みるのはその後………………)


一通り流れをイメージし頭のなかで描いたあと
静かに目を開けて覚悟を決めた



「ぅ"あ"あ"あ"ッッ………!! 」



そう叫んで走りだした瞬間に


「誠士郎ッッ!そいつらは敵じゃないッ……!!
落ち着けッッ………!! 」


東真から名前を呼ばれそう叫ばれる
予想外のことに頭が真っ白になっていくなかで 


(えッ…………ちょ………………!)


ここで漸く脳が東真の言葉を読み込み始めていた
覚悟を決めてからそんなこと言われても困る 
慌てて自分は止まるとその側を剣士たちは素通りして

 

ズジャッ…………!!


倒れ痙攣していたゾンビの首を跳ねる先頭に続き
後続は左右に展開し次々とゾンビを駆逐していった
20人ほどの兵士が残党を狩り尽くしている


(あいつらは…………何者だ、、? )


自分はそう思いながら彼らを観察していると
東真が自分の方へ駆け寄りながら声を掛ける


「誠士郎! よかった…………」


「東真………とりあえずお疲れ様
何故あいつらが敵ではないと知ってたんだ…?? 」


「誠士郎こそ凄かったよ、あぁ…それは…… 」


お互い疲労が蓄積しており会話中も呼吸が荒くなる
しかし達成感もあるなか東真が答えようとすると



「少年………元気にしていたか? 」



低い声が背後から聞こえ振り向くと
兵士達と同じ藍色の防護服を着た男が立っていた


~ ep16完 ~

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