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第3章 沖縄防衛戦

第18話 九州防衛作戦

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 第一三艦隊はアメリカ軍の潜水艦を多数撃沈して日本本土に近づいていた。
 本隊を離れてから四日後の三月十日、小笠原諸島に入ったタイミングで旗艦『紀伊』から電文が入った。

「司令!本隊電文です」
「読め」

 第一三艦隊司令官の伊崎俊二中佐は海図を見ながら通信兵に答えた。
 
「『アテ、一三艦隊へ、米軍ノ通信カラ四日後、九州ヘノ空襲ガ始マル、増援トシテ航空輸送艦四隻、空母二隻ノ艦隊ヲオクル』との事です」
「『紀伊』に返答、『了解シタ。現在小笠原諸島近海、母島沖ニ停泊シ、増援ヲ待ツ』」
「了解。すぐに返信します」

 通信兵が艦橋から通信室にメモを持って走っていく。
    
「各艦に連絡!停止せよ。ここで増援部隊を待つ。伊吹と秋月型四隻は横須賀を目指して引き続き航行せよ」
「了解!伊吹と秋月型四隻はそのまま先行。それ以外の艦船は停船せよ」

 艦橋に備え付けられたいる探照灯で発光信号が送られ、停船する艦橋と艦隊から離れていく艦に分かれる。
 なぜ無線を使わないなか、それは無線封鎖をしているため、必要最低限の通信はするがそれ以外は発光信号で連絡を取り合っている。

 本隊である第一三艦隊はその場に停船し、機関を停止させた。従来の艦船ならそうした場合機関の始動に半日はかかるが大型の空母や一部戦艦以外は機関をガスタービンに換装しているため、機関を停止してもすぐに始動出来る。

 通信兵が去ったあとに艦橋の参謀と九州への空襲について話した。

「九州への空襲、敵の狙いは」
「本土の残存艦艇、工場への攻撃と航空戦力の一時的な無力化だろう」
「つまり敵の狙いは・・・・沖縄?」
「その可能性が高い」

 司令官の言葉に千歳の艦橋内は重い空気に包まれた。
    
「電探に感あり!機数1、11時の方向」

 艦内無線から電探員の声が響き、その方向を見た。



 霞ヶ浦基地から出撃した一式陸上攻撃機は小笠原諸島の偵察に出ていた。

「硫黄島は陥落してないですかね?」
「分からん。無線はアメリカ軍の攻撃があったのを最後に繋がらんし、大型爆撃機や艦載機の攻撃も減っている事を考えるとまだ、陥落していないってことだろ?」

 中国戦線で登洋爆撃を行っていたベテラン搭乗員でもある国志保大尉は、新入りの羽瀬少尉の質問に答えた。

「大尉!2時の方向に艦船です」

 右翼側の銃手が機内無線で報告して来た。
 その方向に旋回し、右に機体を傾けると停泊している艦隊が目に入った。

「何処の部隊だ?こんな所にこれだけの数、それに空母が四隻も」
「大尉、艦隊から通信です」
「なんだ?」
「これを聞いてください」

 通信手は付けていたヘッドセットを渡した。それを片耳に近づけて内容を聞いた。

『・・こちら・・・日・・国・・しょ・・我が方に・・・意思なし・・』

 無線機の感度が低いのか、雑音ばかりで、そこに途切れ途切れに声が聞こえるだけで何が言いたいのか分からなかった。

「アメリカ軍のものでは無いです。使われていた周波数も我が軍の物でした」
「向こう側の出力が高いのは分かるが、こちらの感度が低すぎるのもあってほとんど使い物にならん」

 通信手と話していると前方銃手から声が上がった。

「前方に機影!数4!こちらに向かって・・・いえ、バンクを振りました。敵機ではないようです」

 その方向を向くと緑の塗装がされた大型の戦闘機が前から飛んできて、すぐ上を通り過ぎてから左右に並走した。すると1機が直ぐ側までよって来て、風防を開けて、手信号で話してきた。

『我々は神国所属、第一三艦隊。貴国に使者を乗せて航行中、すぐに帰還して報告せよ』

 聞いたことも無い国名に動揺したが状況的にもこちらが圧倒的に不利なのは変わらない。大人しく従い

『了解した』

 そう返信して機体を反転させ、帰投した。


「去って行きましたね」
「直衛隊が手信号で伝えてくれたようだな。こちらの無線に応答が無いことを考えるとよほど感度の悪い無線機を積んでいるのだろう」

 千代田の艦橋でその様子を見ていた司令部は、機体の様子と無線機の質の悪さに言葉を発した。
 この頃の無線機と言うものは、近距離で電波が強ければ声が入るが距離が離れたり、無線機の質が悪かったりすると雑音塗れで聞き取ることは、まず、不可能で遠距離の際はモールス信号で通信を行っていた。
 あるいは、紅の○の様のワンシーンの様に手信号で連絡を取るなどしていた。


 艦隊から離れた5隻の小艦隊は、翌朝、大島の隣まで来ていた。

「徳川熈様、前方より駆逐艦4隻向かってきます」
「発光信号を送れ」
「はっ!」


 偵察機からの報告を受けて横須賀に存在する数少ない無傷の駆逐艦、『響』、『雪風』、『冬月』、『潮』は、東京湾に進行してくる所属不明の艦船に向けて出向した。『響』艦長の工藤俊作中佐は、警戒しながらも直感で敵では無いと思えて仕方がない。

「艦長、所属不明艦より発光信号です!」

 見張り員からの報告に旗艦と思われる巡洋艦に双眼鏡を向ける。

『我ニ敵対ノ意思ハナイ。交渉ノ為ニ来訪シタ』

 交渉だと、誰もが疑問を浮かべた。

「全艦に通達!艦隊を囲む様に展開し、横須賀港まで案内せよ」

 4隻の駆逐艦は囲うように分かれ、神国の艦隊を取り囲む様に船を動かした。
 『響』は先頭になり、発光信号を送くって港まで航行した。
 そのまま、何事もなく横須賀港に入港し、徳川熈大佐は、参謀と護衛の兵士を含めた6人で下船した。港には海軍の兵士と憲兵隊が待ち構えていたが、徳川熈こ名前を聞いて、動揺し、何処かに連絡を取ったり、急いで身だしなみを確認したりと慌てていた。
 その後、車が前に到着してそれに乗り込んだ。その際に帝都近くの町並みは、焼け野原とそれを免れ、1軒2軒と立つ町並みだった。隣に座った参謀は、歯を食いしばり、手から血が出そうなくらいに手を握っていた。

「これが一般市民にやることか!」
「信じられんかもしれんが現実だ」

 参謀が絞り出した言葉に事実を認めるしか無かった。
 大本営の建物の前につくと中に案内された部屋の中に入ると見覚えのある人物が2人いた。1人は東條英機、もう1人は小沢治三郎の2人だ。

「さて、貴方は一体何者ですか?私の記憶が確かなら徳川熈は、三年前に戦死しているはずだが?」

 ソファーに対面して座ると開口一番に東條英機が確信に迫る勢いで聞いてきた。

「失礼、まだ名乗っていませんでした。日本神国海軍所属、連合艦隊隷下第一三艦隊副司令徳川熈です!」

 ソファーから立ち上がり、海軍式の敬礼をして名乗りを上げた。二人は何とも言えない顔をしたが事情を説明し、アメリカ軍が沖縄攻略を考えている事を伝え、増援に航空機輸送艦4隻が向かっている事を伝えると空いてい飛行場の場所を急いで確認し、九州と四国、中国地方に数か所、飛行場を確保してくれた。
 それと中国にいる日本軍に対しては、一般市民を速やかに安全地域まで撤退させるように要請した。何故かと、理由を聞かれた際にソ連の通信を傍受した際に満洲国に攻め入ると言う単語が入っていたためであった。
 一通りの会談を終え、急いで伊吹に戻り本隊に無線を入れ、輸送隊は4箇所に別れて、行動を開始した。
 加持型航空機輸送艦は、一隻に百十機の航空機(戦闘機)を輸送でき、船内には整備工場に搭乗員や整備員の船室が備えられており、一隻で飛行場の戦力を整える事が出来る。
 そのため、全長351メートル、全幅57メートル、全高40メートル、排水量105931トンの大型船で神国で建造された船の中でも最大で元々は中国との輸送で使用され、それを海軍が買い取り、航空機輸送艦に改装し、運用している。特徴としては船倉をいくつかに分けて積載しているので、一箇所に被雷しても中々沈まず、格納扉も三層にする事で爆弾が直撃しても貫通しない仕組みになっており、共産党の250キロ爆弾が命中しても内部は無傷な程の防御力を備えている。
 
 無線機から本隊の返信が帰ってきた。

『増援部隊ハ翌日ニハ到着ス、各飛行場ノ場所ヲオクレ』

 と伝えられ、それぞれ近くの港の位置を送り、本隊へと出向した。

 


 


 
 
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