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第一章
双子の兄弟
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大組織ヴェリスト家の屋敷は木々の生い茂る山奥にあった。
長い船旅と登山を終えてたどり着いたのだが、シャーロットは手荷物を抱えながらヴェリスト邸の門の前に突っ立っていた。
「さすが、大組織…」
壮麗な門といい、小さな村が幾つか入りそうな広さの敷地といい、さすがとしか言いようがない。門の奥に広がる手入れされた庭も立派な屋敷も信じられないほど大きい。
これからここで働くのだと思うと急に頭が痛くなってきた。
「そこで何してんの?」
額を押さえながら立ち尽くしていると、不意に背後から声をかけられた。
驚きのあまり勢いよく振り返ると、シャーロットは僅かに目を瞠る。
そこには顔も服装もよく似た二人の少年が箒を片手に立っていたのだ。
「あ!もしかしてミー姉が言ってた新入り?」
「なるほど!話通りただの村娘って感じだな」
「村のためにどうしても働きたいって村長に言ったんだろ?ミーねえ感動してたよ」
……書いたのわたしじゃないので知りません。
というかそんなことを書いていたのかあのじじい。
ヴェリスト家の使用人らしい二人の少年は、箒を放り投げて駆け寄ってきた。
「あ、ちょっと!投げたら駄目じゃない。折れたらどうするの?」
村の子供たちに注意した時のように言うと、少年たちは箒を放り投げた方を見た。
「別にいいじゃん、買えばいいだけだし」
「そうそう、そんな高くないって」
シャーロットはぐっと言葉に詰まった。
さすが立派な屋敷に仕える使用人。修繕を繰り返しぼろぼろになるまで箒を使っていた村娘とは価値観が大きく違うということか。
(これは苦労しそう…)
シャーロットはため息をつくと荷物を下ろし、二人の肩を掴んで後ろを向かせた。
「とにかく拾ってきなさい」
「嫌だね、ほっといてもミーねえが拾ってくれるし」
肩越しに振り返りながら心底嫌そうな顔をする二人に呆れつつ、シャーロットは背中を強く叩いた。
「いいからさっさと拾う!」
「いてっ!」
「ちっ、わかったよ、拾えばいいんだろ拾えば」
二人はぶつぶつと文句を言いながら箒を拾いに行った。
(ちゃんと拾いに行くのね)
シャーロットは感心した。生意気だが意外に聞き分けがいいのかもしれない。
と思った矢先。
「新入り~」
「拾ったけどこれどうすんの~」
少年たちはそう言うと箒を振り回し、打ち合いを始めた。
「どうって…掃除しないならさっさと元あった場所に戻しなさい!それぐらいわかるでしょう!?」
「え~?わっかんねぇ~」
「わー!新入り怖~」
前言撤回。感心した自分が馬鹿だった。完全に遊ばれている。
二人はけらけら笑いながら、木の陰に隠れた。
シャーロットは腕を組みその木をじっと睨みつけていたが、ふと視線を感じて振り返る。しかし、近くには誰もおらず、屋敷のカーテンも全部閉まっていた。
シャーロットは首を傾げながら屋敷の方をじっと見つめる。やはり、誰もいない。
(気のせい…?)
その様子を見ていた少年たちは隠れるのをやめてシャーロットの隣に並んだ。
「どうしたんだ?」
「視線を感じた気がしたんだけど…気のせいだったみたい」
「ふうん…」
二人も屋敷を睨みつけた。
「…誰もいないし、見てないじゃん」
「見られてた、とか自意識過剰じゃねえの?新入りみたいな地味なやつが見られてるわけがな…」
シャーロットは最後まで言わせず、笑いながら失礼なことを言う少年の頭を小突いた。
「だから言ったでしょう!気のせいだって」
「いてっ!この地味女!暴力反対だぁ!」
「うーるーさい!」
シャーロットは頭を押さえ大袈裟に騒ぐ少年の額を指で弾いた。
さらに騒ぎだす少年を無視し、その様子を面白そうに見ているもう一人の少年に尋ねる。
「ねえ、あなたたちの名前を教えてくれない?生意気でも一応先輩にあたるわけだし、名前は知っておく方がいいから」
少年は頷くと、屋敷の門の前に立ってシャーロットに一礼する。
「そういや自己紹介忘れてた。俺はディル。ディル・ステイン十一歳。そこのうるさいやつが弟のディム」
「なっ…!うるさいとか言うなよディル!…まあ、見た通り俺たち双子で、ここでは六年ぐらい使用人をやってるんだ、すごいだろ?」
ディムは笑顔でそう言ったが、シャーロットはひそかに息を呑んだ。
彼らは人生の半分以上をヴェリスト家で過ごしているということになる。
彼らはヴェリストの裏の面を知っているのだろうか。命のやり取りをもしているという危険な組織である可能性を。
「…それは、すごいわね」
ただ二人はとても誇らしそうだ。裏の面を知っていようがいなかろうが、きっと二人はヴェリスト家に仕えているだろうと思う。
それが二人の笑顔から伝わってきて、シャーロットは微笑んだ。
改めて二人を見比べると、当然ながら本当によく似ている。
太陽のような赤みがかった金色の髪に同じ色の瞳。よく見るとディルの方が僅かに瞳の赤みが強いが、ぱっと見だと区別がつかない程度の差である。
見分けられるようになろうと決意し、小さく頷くと、ディルが思い立ったように尋ねてきた。
「新入り、おまえの名前は?」
「ジミーとか?」
「誰よそれ」
ディムの頭をはたき、シャーロットは二人に向き直った。
「わたしはシャーロット・カルファ。ドラムト村の出身よ」
長い船旅と登山を終えてたどり着いたのだが、シャーロットは手荷物を抱えながらヴェリスト邸の門の前に突っ立っていた。
「さすが、大組織…」
壮麗な門といい、小さな村が幾つか入りそうな広さの敷地といい、さすがとしか言いようがない。門の奥に広がる手入れされた庭も立派な屋敷も信じられないほど大きい。
これからここで働くのだと思うと急に頭が痛くなってきた。
「そこで何してんの?」
額を押さえながら立ち尽くしていると、不意に背後から声をかけられた。
驚きのあまり勢いよく振り返ると、シャーロットは僅かに目を瞠る。
そこには顔も服装もよく似た二人の少年が箒を片手に立っていたのだ。
「あ!もしかしてミー姉が言ってた新入り?」
「なるほど!話通りただの村娘って感じだな」
「村のためにどうしても働きたいって村長に言ったんだろ?ミーねえ感動してたよ」
……書いたのわたしじゃないので知りません。
というかそんなことを書いていたのかあのじじい。
ヴェリスト家の使用人らしい二人の少年は、箒を放り投げて駆け寄ってきた。
「あ、ちょっと!投げたら駄目じゃない。折れたらどうするの?」
村の子供たちに注意した時のように言うと、少年たちは箒を放り投げた方を見た。
「別にいいじゃん、買えばいいだけだし」
「そうそう、そんな高くないって」
シャーロットはぐっと言葉に詰まった。
さすが立派な屋敷に仕える使用人。修繕を繰り返しぼろぼろになるまで箒を使っていた村娘とは価値観が大きく違うということか。
(これは苦労しそう…)
シャーロットはため息をつくと荷物を下ろし、二人の肩を掴んで後ろを向かせた。
「とにかく拾ってきなさい」
「嫌だね、ほっといてもミーねえが拾ってくれるし」
肩越しに振り返りながら心底嫌そうな顔をする二人に呆れつつ、シャーロットは背中を強く叩いた。
「いいからさっさと拾う!」
「いてっ!」
「ちっ、わかったよ、拾えばいいんだろ拾えば」
二人はぶつぶつと文句を言いながら箒を拾いに行った。
(ちゃんと拾いに行くのね)
シャーロットは感心した。生意気だが意外に聞き分けがいいのかもしれない。
と思った矢先。
「新入り~」
「拾ったけどこれどうすんの~」
少年たちはそう言うと箒を振り回し、打ち合いを始めた。
「どうって…掃除しないならさっさと元あった場所に戻しなさい!それぐらいわかるでしょう!?」
「え~?わっかんねぇ~」
「わー!新入り怖~」
前言撤回。感心した自分が馬鹿だった。完全に遊ばれている。
二人はけらけら笑いながら、木の陰に隠れた。
シャーロットは腕を組みその木をじっと睨みつけていたが、ふと視線を感じて振り返る。しかし、近くには誰もおらず、屋敷のカーテンも全部閉まっていた。
シャーロットは首を傾げながら屋敷の方をじっと見つめる。やはり、誰もいない。
(気のせい…?)
その様子を見ていた少年たちは隠れるのをやめてシャーロットの隣に並んだ。
「どうしたんだ?」
「視線を感じた気がしたんだけど…気のせいだったみたい」
「ふうん…」
二人も屋敷を睨みつけた。
「…誰もいないし、見てないじゃん」
「見られてた、とか自意識過剰じゃねえの?新入りみたいな地味なやつが見られてるわけがな…」
シャーロットは最後まで言わせず、笑いながら失礼なことを言う少年の頭を小突いた。
「だから言ったでしょう!気のせいだって」
「いてっ!この地味女!暴力反対だぁ!」
「うーるーさい!」
シャーロットは頭を押さえ大袈裟に騒ぐ少年の額を指で弾いた。
さらに騒ぎだす少年を無視し、その様子を面白そうに見ているもう一人の少年に尋ねる。
「ねえ、あなたたちの名前を教えてくれない?生意気でも一応先輩にあたるわけだし、名前は知っておく方がいいから」
少年は頷くと、屋敷の門の前に立ってシャーロットに一礼する。
「そういや自己紹介忘れてた。俺はディル。ディル・ステイン十一歳。そこのうるさいやつが弟のディム」
「なっ…!うるさいとか言うなよディル!…まあ、見た通り俺たち双子で、ここでは六年ぐらい使用人をやってるんだ、すごいだろ?」
ディムは笑顔でそう言ったが、シャーロットはひそかに息を呑んだ。
彼らは人生の半分以上をヴェリスト家で過ごしているということになる。
彼らはヴェリストの裏の面を知っているのだろうか。命のやり取りをもしているという危険な組織である可能性を。
「…それは、すごいわね」
ただ二人はとても誇らしそうだ。裏の面を知っていようがいなかろうが、きっと二人はヴェリスト家に仕えているだろうと思う。
それが二人の笑顔から伝わってきて、シャーロットは微笑んだ。
改めて二人を見比べると、当然ながら本当によく似ている。
太陽のような赤みがかった金色の髪に同じ色の瞳。よく見るとディルの方が僅かに瞳の赤みが強いが、ぱっと見だと区別がつかない程度の差である。
見分けられるようになろうと決意し、小さく頷くと、ディルが思い立ったように尋ねてきた。
「新入り、おまえの名前は?」
「ジミーとか?」
「誰よそれ」
ディムの頭をはたき、シャーロットは二人に向き直った。
「わたしはシャーロット・カルファ。ドラムト村の出身よ」
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