48 / 50
3
モンブランの悪魔14
しおりを挟む
立花くんが私の腕を引いて向かったのは、部活棟。
文化系の部活動が集められた場所。
在学時に私があまり足を踏み入れた事がなかった場所だ。
本校舎よりは少しジメッとした印象を覚える。節電のためなのか、途中途中の電灯が切れてしまっているのがマイナスの印象に拍車をかける。
ここは部活棟とは呼ばれてはいるけれど、本校舎が作られる前に本校舎だった場所。
まだ使えるからと、取り壊される事はなく、敷地内の端に残された僻地みたいな所だ。
メインの特別教室が埋まっている時に臨時で何度か使った覚えはあったけれど、それも年に2度か3度の話し。
文化系の部活動に所属したことのない私からしてみれば、勝手知らない場所なのだ。
立花くんも部活には所属していなかったから、あまり部活棟には詳しくないはずなのに、迷いなく経年劣化で所々がひび割れているリノリウム張りの廊下をツカツカと進む。
「ちょっと待って」
無理に手を引く立花くんの手を振りほどき、私は声をあげた。
立花くんは振り返ると、そんな私を不思議そうに見ていた。
「あ、どうした?」
「立花くんは誰から連絡を受けて、ここに私を連れてきたわけ?」
元から考えればおかしな話なのだ。
体育館に連れて行かれた時も、立花くんはいったい誰から連絡を受けたの?
五頭竜を目撃したのは1-Cの関係者でもない生徒だった。
近くに1-Cの生徒が居たという訳でもない。
「……奏ちゃんだよ」
少し躊躇いのような間を開けて、立花くんは口を開いた。
「汐音が?」
どうしてここで汐音の名前が出てくるの?
1-Cの件には絡んでいるとはいえ、体育館で起こった件を知るすべはあったのだろうか?
そもそもそんな面白そうな事が起こっていたら、顔を出さずに済ませるだろうか?
少し考え込んで疑念を深めていると、唐突に話しかけられた。
「あの、もしかして、あんたたちが探偵さんっすか?」
立花くんの背後からのものだった。
そちらに目を向けると、見知った顔があった。
なんというか、文化系の部活動とはより遠く感じる人物に少し困惑を覚える。
「……たしか、天屯君だったかしら?」
「そうっす!ってあれ?探偵ってあの時の人だったっすか!」
彼は私の名前を覚えていないし、覚える気もないようだ。むしろ体育会系らしく清々しいも思える。
彼の云うあの時━━━━つまり、彼の兄である天屯義男が起こした脅迫状事件の事を指すのであろうけれど、それも彼が正しく認識しているとは思えない。
彼からしてみれば、サッカー部の先輩、コーチである佐渡晃に紹介された家業について聞いてくるよくわからん女。そんな所だろう。
「天屯君が私達に声をかけてくる、という事は、五頭竜の目撃者はあなたって事で良いのかしら?」
部活棟には似つかわしくないギラギラとして笑顔を称えて天屯は頷く。
「そうっす!でもまあ、直接見たのは自分ってわけじゃないんすけどね!」
天屯は少し引っかかる事を言った。私達を出迎えに来たのに関わらず、『直接は見ていない』そう言ったのだ。
「……直接、あなたは見ていないの?」
「うっす!見てないっす。美波ちゃんが見たんすよ!かなり驚いた様子で宥めるのが大変だったす」
大変と言う割には、ニヤニヤと表情が和らいでいるのはなんでだろうか?
「その、ミナミちゃん?彼女はどこにいるのかしら?詳しく話を聞かせて貰いたいのだけど」
「了解っす。こっちす!」
こちらの確認を取ることもせず天屯は身を翻すと薄暗い廊下を奥へ奥へと歩き始める。
その後に続いて、立花くんと私も続く。
いったい彼はどこへ案内しようと言うのだろうか。まあ、こっちには立花くんがいるから安心だけど。
そう思いながら横を歩く立花くんの方へ視線を向けると、少しイラついているのか険しい表情をしていた。
文化系の部活動が集められた場所。
在学時に私があまり足を踏み入れた事がなかった場所だ。
本校舎よりは少しジメッとした印象を覚える。節電のためなのか、途中途中の電灯が切れてしまっているのがマイナスの印象に拍車をかける。
ここは部活棟とは呼ばれてはいるけれど、本校舎が作られる前に本校舎だった場所。
まだ使えるからと、取り壊される事はなく、敷地内の端に残された僻地みたいな所だ。
メインの特別教室が埋まっている時に臨時で何度か使った覚えはあったけれど、それも年に2度か3度の話し。
文化系の部活動に所属したことのない私からしてみれば、勝手知らない場所なのだ。
立花くんも部活には所属していなかったから、あまり部活棟には詳しくないはずなのに、迷いなく経年劣化で所々がひび割れているリノリウム張りの廊下をツカツカと進む。
「ちょっと待って」
無理に手を引く立花くんの手を振りほどき、私は声をあげた。
立花くんは振り返ると、そんな私を不思議そうに見ていた。
「あ、どうした?」
「立花くんは誰から連絡を受けて、ここに私を連れてきたわけ?」
元から考えればおかしな話なのだ。
体育館に連れて行かれた時も、立花くんはいったい誰から連絡を受けたの?
五頭竜を目撃したのは1-Cの関係者でもない生徒だった。
近くに1-Cの生徒が居たという訳でもない。
「……奏ちゃんだよ」
少し躊躇いのような間を開けて、立花くんは口を開いた。
「汐音が?」
どうしてここで汐音の名前が出てくるの?
1-Cの件には絡んでいるとはいえ、体育館で起こった件を知るすべはあったのだろうか?
そもそもそんな面白そうな事が起こっていたら、顔を出さずに済ませるだろうか?
少し考え込んで疑念を深めていると、唐突に話しかけられた。
「あの、もしかして、あんたたちが探偵さんっすか?」
立花くんの背後からのものだった。
そちらに目を向けると、見知った顔があった。
なんというか、文化系の部活動とはより遠く感じる人物に少し困惑を覚える。
「……たしか、天屯君だったかしら?」
「そうっす!ってあれ?探偵ってあの時の人だったっすか!」
彼は私の名前を覚えていないし、覚える気もないようだ。むしろ体育会系らしく清々しいも思える。
彼の云うあの時━━━━つまり、彼の兄である天屯義男が起こした脅迫状事件の事を指すのであろうけれど、それも彼が正しく認識しているとは思えない。
彼からしてみれば、サッカー部の先輩、コーチである佐渡晃に紹介された家業について聞いてくるよくわからん女。そんな所だろう。
「天屯君が私達に声をかけてくる、という事は、五頭竜の目撃者はあなたって事で良いのかしら?」
部活棟には似つかわしくないギラギラとして笑顔を称えて天屯は頷く。
「そうっす!でもまあ、直接見たのは自分ってわけじゃないんすけどね!」
天屯は少し引っかかる事を言った。私達を出迎えに来たのに関わらず、『直接は見ていない』そう言ったのだ。
「……直接、あなたは見ていないの?」
「うっす!見てないっす。美波ちゃんが見たんすよ!かなり驚いた様子で宥めるのが大変だったす」
大変と言う割には、ニヤニヤと表情が和らいでいるのはなんでだろうか?
「その、ミナミちゃん?彼女はどこにいるのかしら?詳しく話を聞かせて貰いたいのだけど」
「了解っす。こっちす!」
こちらの確認を取ることもせず天屯は身を翻すと薄暗い廊下を奥へ奥へと歩き始める。
その後に続いて、立花くんと私も続く。
いったい彼はどこへ案内しようと言うのだろうか。まあ、こっちには立花くんがいるから安心だけど。
そう思いながら横を歩く立花くんの方へ視線を向けると、少しイラついているのか険しい表情をしていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

『神楽坂オカルト探偵事務所 〜都市伝説と禁忌の事件簿〜』
ソコニ
ミステリー
「都市伝説は嘘か真か。その答えは、禁忌の先にある。」
## 紹介文
神楽坂の路地裏に佇む一軒の古い洋館。その扉に掛かる看板には「神楽坂オカルト探偵事務所」と記されている。
所長の九条響は元刑事。オカルトを信じないと公言する彼だが、ある事件をきっかけに警察を辞め、怪異専門の探偵となった。彼には「怪異の痕跡」を感じ取る特殊な力があるが、その代償として激しい頭痛に襲われる。しかも、彼自身の記憶の一部が何者かによって封印されているらしい。
事務所には個性的な仲間たちがいる。天才ハッカーの霧島蓮、陰陽術の末裔である一ノ瀬紅葉、そして事務所に住み着いた幽霊の白石ユウ。彼らは神楽坂とその周辺で起きる不可解な事件に挑んでいく

『白夜学園~五時の影絶~』
ソコニ
ミステリー
白夜学園——その名前は美しいが、この学校には誰も知らない恐ろしい秘密がある。
毎日午後5時、校内に鐘の音が響くと、学校は"異形の世界"へと変貌する。壁から血のようなシミが浮かび上がり、教師たちは怪物じみた姿に変化し、そして最も恐ろしいことに——生徒たちの影が薄れていく
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】


幽霊探偵 白峰霊
七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし
• 連絡手段なし
• ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる
都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。
依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。
「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」
今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる