万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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モンブランの悪魔14

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 立花くんが私の腕を引いて向かったのは、部活棟。
 文化系の部活動が集められた場所。

 在学時に私があまり足を踏み入れた事がなかった場所だ。

 本校舎よりは少しジメッとした印象を覚える。節電のためなのか、途中途中の電灯が切れてしまっているのがマイナスの印象に拍車をかける。

 ここは部活棟とは呼ばれてはいるけれど、本校舎が作られる前に本校舎だった場所。

 まだ使えるからと、取り壊される事はなく、敷地内の端に残された僻地みたいな所だ。

 メインの特別教室が埋まっている時に臨時で何度か使った覚えはあったけれど、それも年に2度か3度の話し。

 文化系の部活動に所属したことのない私からしてみれば、勝手知らない場所なのだ。

 立花くんも部活には所属していなかったから、あまり部活棟には詳しくないはずなのに、迷いなく経年劣化で所々がひび割れているリノリウム張りの廊下をツカツカと進む。

「ちょっと待って」

 無理に手を引く立花くんの手を振りほどき、私は声をあげた。

 立花くんは振り返ると、そんな私を不思議そうに見ていた。

「あ、どうした?」


「立花くんは誰から連絡を受けて、ここに私を連れてきたわけ?」

 元から考えればおかしな話なのだ。

 体育館に連れて行かれた時も、立花くんはいったい誰から連絡を受けたの?


 五頭竜を目撃したのは1-Cの関係者でもない生徒だった。
 近くに1-Cの生徒が居たという訳でもない。


「……奏ちゃんだよ」

 少し躊躇いのような間を開けて、立花くんは口を開いた。

「汐音が?」

 どうしてここで汐音の名前が出てくるの?
 1-Cの件には絡んでいるとはいえ、体育館で起こった件を知るすべはあったのだろうか?

 そもそもそんな面白そうな事が起こっていたら、顔を出さずに済ませるだろうか?

 少し考え込んで疑念を深めていると、唐突に話しかけられた。

「あの、もしかして、あんたたちが探偵さんっすか?」


 立花くんの背後からのものだった。

 そちらに目を向けると、見知った顔があった。

 なんというか、文化系の部活動とはより遠く感じる人物に少し困惑を覚える。

「……たしか、天屯たかみち君だったかしら?」


「そうっす!ってあれ?探偵ってあの時の人だったっすか!」

 彼は私の名前を覚えていないし、覚える気もないようだ。むしろ体育会系らしく清々しいも思える。

 彼の云うあの時━━━━つまり、彼の兄である天屯義男が起こした脅迫状事件の事を指すのであろうけれど、それも彼が正しく認識しているとは思えない。

 彼からしてみれば、サッカー部の先輩、コーチである佐渡晃に紹介された家業について聞いてくるよくわからん女。そんな所だろう。


「天屯君が私達に声をかけてくる、という事は、五頭竜の目撃者はあなたって事で良いのかしら?」

 部活棟には似つかわしくないギラギラとして笑顔を称えて天屯は頷く。

「そうっす!でもまあ、直接見たのは自分ってわけじゃないんすけどね!」

 天屯は少し引っかかる事を言った。私達を出迎えに来たのに関わらず、『直接は見ていない』そう言ったのだ。

「……直接、あなたは見ていないの?」

「うっす!見てないっす。美波みなみちゃんが見たんすよ!かなり驚いた様子で宥めるのが大変だったす」

 大変と言う割には、ニヤニヤと表情が和らいでいるのはなんでだろうか?

「その、ミナミちゃん?彼女はどこにいるのかしら?詳しく話を聞かせて貰いたいのだけど」


「了解っす。こっちす!」

 こちらの確認を取ることもせず天屯は身を翻すと薄暗い廊下を奥へ奥へと歩き始める。

 その後に続いて、立花くんと私も続く。

 いったい彼はどこへ案内しようと言うのだろうか。まあ、こっちには立花くんがいるから安心だけど。

 そう思いながら横を歩く立花くんの方へ視線を向けると、少しイラついているのか険しい表情をしていた。
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