万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

文字の大きさ
上 下
43 / 50
3

モンブランの悪魔9

しおりを挟む
 SideY





 腰越祭を楽しもうと、あちらこちらを回っていた矢先、汐音に呼び出されてやってきた1-Cクラスはかなり空気が悪かった。
 
 扉を少し開いた瞬間に察知してすぐに閉めようと思ったのだけれど、必死な立花くんによってこじ開けられた。

「待ってたぜ。愛華」


「……どういう状況なわけ?」


 入りたくないなかったのだけど、入らないわけにはいかなかった。

 汐音に呼び出された瞬間から嫌な予感はしていたのだけれど、私が想像していた以上かもしれないわね。


「ちょっと面倒な事になってよ。この前みたいにちゃちゃっと解決しちゃってくれよ!」


「はあ?はあ……」


 思わずため息が漏れた。何故かと言えば察してしまったからだ。
 立花くんの言う、『この前』というのはおそらく、あじさいの件か五頭竜の件。

 つまり、なにか問題が発生して、それを私に解決してほしいという事。

 汐音が笑顔で教室の真ん中に来るように手招きをする。

 汐音を中心とするようにお揃いのクラスTシャツに身を包んだ生徒達が座っている中央だ。

 行きたくないな。嫌嫌教室の中央へ歩いていく途中、窓際のカーテンの所で腑抜けた顔で目も虚ろな杉浦君の姿も見えたけれど、そちらはあまり見ないようにして汐音の横に立った。

「みんな。聞いて、彼女は色んな事件を解決してきた名探偵なの。彼女にかかればこんな問題チョチョイのちょいだよ!」

 迷探偵の間違いなではないだろうか。
 今まではたまたま運良く解決できただけ。
 今回、なにがあったのかは知らないけれど、あまり過度な期待はさせないでもらいたいわね。

 というか、まだ受けるなんて一言も言ってないのだけどね。

「チョチョイのちょいってそんな言葉最近聞かないわよ?」

 私の突っ込みを無視するように、汐音は話を進める。

「彼女はこう見えて、作家でもあるのです。『ハツコイノオト』って小説はみんな知っているかな?」

 なぜが汐音は得意げだった。

 少し教室内がざわつく。

「『ハツコイノオト』ってあの『ハツコイノオト』か」

「知らないの?ここの卒業生だって有名な話じゃん」

「えっ本当に!?後でサイン貰わなくちゃ」

 汐音は周囲の反応に満足したのか何度か頷いた後で咳払いをしてから口を開いた。

「御存知のようね。そんな先生が来てくれたからもう安心!」


 教室中で、「それだったら任せてもいいかもな」
 とか「ぜひお願いしようよ」とか肯定的な空気が流れる。

 最初教室に入った時の空気が嘘みたいに。弛緩した、緊張感の無くなった空気に変わる。

 しかし━━━━一人の男子生徒が立ち上がると口を開いた。

「おいおい。みんな騙されんなよ。こいつらが連れてきた奴だぞ?そんな簡単に信用して良いのかよ?俺は反対だね。全部そこのおっさんに責任取ってもらえばそれでいいだろ」

 勝ち気な雰囲気の男子生徒は立花くんを指差しそう言った。

 なんとなく雰囲気でわかっていたけど、問題を起こしたのは立花くんなのね。

 まったく……懲りない人ね。

「だから、俺は何もやってないって。モンブランをすり替えちゃいないし、模型も隠しちゃいない」

 必死な様子で抗議する立花くん。

 なるほどね。こんな感じで話し合いは平行線を辿っていた。
 そういうことね。

 なんとなく理解はした。

「とりあえず……なにがあったのか説明をしてくれるかしら」

「そんな必要はない!責任を全部取ってくれればそれでいいんだ!」

 勝ち気な男子生徒は立花くんに歩み寄り、キスしてしまうじゃないかってくらいの距離まで顔を詰める。

 たじたじな様子で立花くんは後退りをする。

「ちょっと待ちなさい。日本では疑われた場合、弁護をしてもらう権利があるのよ。詳しくなにがあったのかは知らないけれど、ひとまず立花君から離れなさい」

 言って勝ち気な男子生徒を立花くんから引き離す。

「……別にあんたがそいつの弁護をするのは構わないけど、後悔するのはあんただと思うぜ」

 立花くんはバカでどうしようもないけれど、嘘だけはつかない。それを私はよく知っている。きっと何かの間違いがあって疑われているだけ。

「後悔したのならそれば、それで構わないわ。まずは詳しい話を聞かせて」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

このブラジャーは誰のもの?

本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。 保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。 誰が、一体、なんの為に。 この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

『神楽坂オカルト探偵事務所 〜都市伝説と禁忌の事件簿〜』

ソコニ
ミステリー
「都市伝説は嘘か真か。その答えは、禁忌の先にある。」 ## 紹介文 神楽坂の路地裏に佇む一軒の古い洋館。その扉に掛かる看板には「神楽坂オカルト探偵事務所」と記されている。 所長の九条響は元刑事。オカルトを信じないと公言する彼だが、ある事件をきっかけに警察を辞め、怪異専門の探偵となった。彼には「怪異の痕跡」を感じ取る特殊な力があるが、その代償として激しい頭痛に襲われる。しかも、彼自身の記憶の一部が何者かによって封印されているらしい。 事務所には個性的な仲間たちがいる。天才ハッカーの霧島蓮、陰陽術の末裔である一ノ瀬紅葉、そして事務所に住み着いた幽霊の白石ユウ。彼らは神楽坂とその周辺で起きる不可解な事件に挑んでいく

『白夜学園~五時の影絶~』

ソコニ
ミステリー
白夜学園——その名前は美しいが、この学校には誰も知らない恐ろしい秘密がある。 毎日午後5時、校内に鐘の音が響くと、学校は"異形の世界"へと変貌する。壁から血のようなシミが浮かび上がり、教師たちは怪物じみた姿に変化し、そして最も恐ろしいことに——生徒たちの影が薄れていく

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

ほのぼのミステリー

Algo Lighter
ミステリー
ほのぼのとした日常の中に隠れた、小さな謎を解く心温まるミステリー。 静かに、だけど確かに胸に響く優しい推理をお楽しみください。

幽霊探偵 白峰霊

七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし • 連絡手段なし • ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる 都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。 依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。 「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」 今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

処理中です...