万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

文字の大きさ
上 下
38 / 50
3

モンブランの悪魔4

しおりを挟む
 SideT

「こちら立花。……異常なし」


「了解。引き続き見張りをお願いするわね」

 おもちゃみたいなトランシーバーに問いかけると、かなりノイズがかかった応答が返ってきた。

 ここからは見える位置にはいないけど、応答をしてくれた奏ちゃんは舞台袖にいる。

 ドローンの操作を担当する翔は、こちらと観客席全体を見渡せる位置にいるはずだ。


 前のクラスの出し物も終わり、いよいよ里奈ちゃんクラス、1-Cの演劇が幕を開けようとしていた。


 照明が落ちる前に、要の最後にドローンと、取り付けられた五頭竜の様子を確認してみた。……うん。異常はねーな。

 練習通りにやれば、観衆が盛り上がること間違いなしだ。

 後で愛華には怒られるだろうが、それはそれで俺にとってはご褒美のようなものでもある。……本気で怒らせたらちょっと怖いけどな。

「さてと……いっちょ気合入れないとな」


 キャットウォークから階下に目を向けると、舞台から見て後列側から徐々に照明が消されていっていく。

 そんな様子を眺めていると、唐突に体が身震いをしやがった。

 ……こんな時に急にしょんべんがしたくなってきた。

 俺が演じる訳でもないのに、妙な緊張感を覚えたからか?それとも里奈ちゃんのお父さんが差し入れてくれたお茶をガバガバ飲んでしまったせいか……

 そして━━━━全ての照明が消え、スポットライトが舞台幕に向けられると、アナウンスが響き渡る。

「次の演目は、1年Cクラスよる演劇です。この腰越高校がある腰越にも深く関係してくる、『五頭竜と弁天様』江の島に伝わる伝承。二人の恋のお話です」

 ざわついていた観衆の目が舞台へ向き、たくさん人がいたはずなのに、体育館はシンと静まりかえる。

 

 ブザーが鳴り響くと共に、舞台が幕を開けた━━━━


 五頭竜の出番まではまだ十五分ほどあったはずだ。

「……背に腹は変えられねえ」

 俺は慌ててキャットウォークと観客席とを結ぶハシゴを目指した。

 そして半ば落ちるように下ると、急いで体育館を飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

このブラジャーは誰のもの?

本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。 保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。 誰が、一体、なんの為に。 この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~

七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。 彼女は香住真理。 東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。 その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。 その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。 「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」 同時期に持ち込まれた二件の品物。 その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

言霊の手記

かざみはら まなか
ミステリー
探偵は、中学一年生女子。 依頼人は、こっそりひっそりとSOSを出した女子中学生。 『ある公立中学校の校門前から中学一年生女子が消息をたった。 その中学校では、校門前に監視カメラをつける要望が生徒と保護者から相次いでいたが、周辺住民の反対で頓挫した。』 という旨が書いてある手記は。 私立中学校に通う中学一年生女子の大蔵奈美の手に渡った。 中学一年生の奈美は、同じく中学一年生の少女萃(すい)と透雲(とおも)と一緒に手記の謎を解き明かす。 人目を忍んで発信された、知らない中学校に通う女子中学生からのSOSだ。 奈美、萃、透雲は、助けを求めるSOSを出した女子中学生を助けると決めた。 奈美:私立中学校 萃:私立中学校 透雲:公立中学校 依頼人の女子中学生:公立中学校 中学一年生女子は、依頼人も探偵も、全員、別々の中学校に通っている。 それぞれ、家族関係で問題を抱えている。 手記にまつわる問題と中学一年生女子の家族の問題を軸に展開。

幽霊探偵 白峰霊

七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし • 連絡手段なし • ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる 都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。 依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。 「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」 今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。

Arachne 2 ~激闘! 敵はタレイアにあり~

ミステリー
学習支援サイト「Arachne」でのアルバイトを経て、正社員に採用された鳥辺野ソラ。今度は彼自身がアルバイトスタッフを指導する立場となる。さっそく募集をかけてみたところ、面接に現れたのは金髪ギャルの女子高生だった! 年下の女性の扱いに苦戦しつつ、自身の業務にも奮闘するソラ。そんな折、下世話なゴシップ記事を書く週刊誌「タレイア」に仲間が狙われるようになって……? やけに情報通な記者の正体とは? なぜアラクネをターゲットにするのか? 日常に沸き起こるトラブルを解決しながら、大きな謎を解いていく連作短編集ミステリ。 ※前作「Arachne ~君のために垂らす蜘蛛の糸~」の続編です。  前作を読んでいなくても楽しめるように書いたつもりですが、こちらを先に読んだ場合、前作のネタバレを踏むことになります。  前作の方もネタバレなしで楽しみたい、という場合は順番にお読みください。  作者としてはどちらから読んでいただいても嬉しいです! 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 にエントリー中! 毎日投稿していく予定ですので、ぜひお気に入りボタンを押してお待ちください! ▼全話統合版(完結済)PDFはこちら https://ashikamosei.booth.pm/items/6627473 一気に読みたい、DLしてオフラインで読みたい、という方はご利用ください。

最後の灯り

つづり
ミステリー
フリーライターの『私』は「霧が濃くなると人が消える」という伝説を追って、北陸の山奥にある村を訪れる──。

『神楽坂オカルト探偵事務所 〜都市伝説と禁忌の事件簿〜』

ソコニ
ミステリー
「都市伝説は嘘か真か。その答えは、禁忌の先にある。」 ## 紹介文 神楽坂の路地裏に佇む一軒の古い洋館。その扉に掛かる看板には「神楽坂オカルト探偵事務所」と記されている。 所長の九条響は元刑事。オカルトを信じないと公言する彼だが、ある事件をきっかけに警察を辞め、怪異専門の探偵となった。彼には「怪異の痕跡」を感じ取る特殊な力があるが、その代償として激しい頭痛に襲われる。しかも、彼自身の記憶の一部が何者かによって封印されているらしい。 事務所には個性的な仲間たちがいる。天才ハッカーの霧島蓮、陰陽術の末裔である一ノ瀬紅葉、そして事務所に住み着いた幽霊の白石ユウ。彼らは神楽坂とその周辺で起きる不可解な事件に挑んでいく

処理中です...