万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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モンブランの悪魔4

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 SideT

「こちら立花。……異常なし」


「了解。引き続き見張りをお願いするわね」

 おもちゃみたいなトランシーバーに問いかけると、かなりノイズがかかった応答が返ってきた。

 ここからは見える位置にはいないけど、応答をしてくれた奏ちゃんは舞台袖にいる。

 ドローンの操作を担当する翔は、こちらと観客席全体を見渡せる位置にいるはずだ。


 前のクラスの出し物も終わり、いよいよ里奈ちゃんクラス、1-Cの演劇が幕を開けようとしていた。


 照明が落ちる前に、要の最後にドローンと、取り付けられた五頭竜の様子を確認してみた。……うん。異常はねーな。

 練習通りにやれば、観衆が盛り上がること間違いなしだ。

 後で愛華には怒られるだろうが、それはそれで俺にとってはご褒美のようなものでもある。……本気で怒らせたらちょっと怖いけどな。

「さてと……いっちょ気合入れないとな」


 キャットウォークから階下に目を向けると、舞台から見て後列側から徐々に照明が消されていっていく。

 そんな様子を眺めていると、唐突に体が身震いをしやがった。

 ……こんな時に急にしょんべんがしたくなってきた。

 俺が演じる訳でもないのに、妙な緊張感を覚えたからか?それとも里奈ちゃんのお父さんが差し入れてくれたお茶をガバガバ飲んでしまったせいか……

 そして━━━━全ての照明が消え、スポットライトが舞台幕に向けられると、アナウンスが響き渡る。

「次の演目は、1年Cクラスよる演劇です。この腰越高校がある腰越にも深く関係してくる、『五頭竜と弁天様』江の島に伝わる伝承。二人の恋のお話です」

 ざわついていた観衆の目が舞台へ向き、たくさん人がいたはずなのに、体育館はシンと静まりかえる。

 

 ブザーが鳴り響くと共に、舞台が幕を開けた━━━━


 五頭竜の出番まではまだ十五分ほどあったはずだ。

「……背に腹は変えられねえ」

 俺は慌ててキャットウォークと観客席とを結ぶハシゴを目指した。

 そして半ば落ちるように下ると、急いで体育館を飛び出した。
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