万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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夜の海岸に現れる龍の謎12

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 私、立花君。汐音、杉浦君の四人は向かい合うようにして座っている。
 
 場所は、私を除く三人の職場である『すぎうら』。

 これから私は、悪い癖である邪推を三人に披露しようとしているところだ。

「じゃあそろそろいいかしら?」

「あんまり時間もないから早くしてくれよ」

 少し焦れた感じで杉浦君が言った。

 もちろん私だって、長引かせるつもりはない。

 これが終われば、ようやくネームに本格的にとりかかれるのだ。

「まず、汐音。これはあじさいの花の色が変わってしまった事件の顛末を書いた報告書よ」

 立花君が戻ってくるまでの間に簡素に作り、コンビニでプリントしたものを汐音側に突き出した。

「おっ、さすが愛ちゃん。仕事が早いね」

 ひょいと報告書を取ると、汐音はふむふむと唸りながら読み始めた。


「じゃあまず、単刀直入に聞くわ。五頭竜が由比ヶ浜に現れるから調査してくれって言った依頼者はどこの誰になるのかしら?」

 汐音は報告書から目だけを逸らし、こちらを覗き込むようにして、盗み見た。

 杉浦君は腕組みをして、目をつぶる。

「えっ愛華。どういうことだよ!?」

 慌てる立花君を目で制して、から一つお願いをする。

「最初に汐音から渡された依頼書。今、持っている?」

「お、おう」


 立花君はおしりのポケットを漁って、しわくちゃになってしまった一枚の紙を取り出した。

「なによこれ」

「なにって愛華が欲しがった依頼書だよ」

 これは教育する必要がありそうね。

 無言で立花君から依頼書を受け取ると、丁寧に伸ばしてそれをテーブルの中央に置いた。

 そして、私が持っていたもう一枚の依頼書をクリアファイルから取り出してその横に置いた。

「私が汐音から渡された依頼書には、依頼書の名前だけでなく、しっかりと住所、連絡先まで書かれているわ。でも、立花君が渡された方の依頼書はどうかしら?」

 そこには五頭竜が現れただの、不吉だのとかの文言が踊るように記されているけれど、依頼書に関する情報は一切記されていない。

「それは、書き忘れただけだよ。匿名のお客様だから」

 汐音は慌てる様子もなく淡々と答える。

 匿名のお客さんね。たしかにそういった訳アリのお客さんがいるのかもしれない。
 だけど、今回の五頭竜を見たという話を匿名で依頼する意味があるかしら?
 私はそうは思わない。


 まず第一に目撃者として、私達にどこで、どんなふうに目撃したのかを説明するべきだ。

 そして二つ目。

「じゃあ汐音に聞くわ。目撃者は、夜の海岸で頭にライトを付けて歩き回るような変態だったのかしら?」

「おいおい。愛華それは酷くないか。それじゃあまるで俺が変態みたいじゃないかよ」


「ううん。そんな変な人じゃないよ。普通の人。それは私が保証するわ」


 一旦立花君の事は無視をして話を進める。立花君はうなだれるようにして、「ひどくない」とつぶやいた。

「そう。だったら懐中電灯の類はまったく持っていなかった。それで間違いないわね?」

「うん」

 汐音は頷きながらと肯定した。

「依頼書にはこう書かれているわ」

『由比ヶ浜付近に五頭龍ごずりゅうと見られる飛翔体ひしょうたいが夜に目撃された。

 大きさなどは不明。由比ヶ浜から陸地の方へ消えていった。

 伝承でんしょうにある龍なのではないか、なにかの前触れなのではないかと心配している。

 だから、念の為、飛翔体の正体をあばいてほしい。』


 私は夜の部分を指し示しながら立花君の方に向き直る。

「何度も現場で張り込みをしていた立花君に伺うわ。現場は夜にライトなしで周囲を見渡せる感じだった?例えば頭上を飛び去っていく何かをに認識することはできたかしら?」

 立花君は顎に手を当てて、少し考えるような素振りを見せてから答えた。

「うーん難しいんじゃないか。俺が鳥目ってのもあるけどさ、なにか飛んでいったってのはわかったとしても、それが何だったのかまではわからないと思う」

 そう。立花君が夜盲症と言えど、基本的に人間は夜目が効かない。
 明かりなしに、飛翔体を目撃することなんて不可能なのだ。
 しかも、それを正確に五頭竜だったと言い切れるものだろうか?


「だそうよ。汐音はこれをどう説明する?」

「たしかに。そうなのかもね。私も正確に依頼者の人に確認したわけじゃないからわからないかなー」

 笑顔は崩さずに、汐音はそう答えた。私の親友とは言えどなかなかの食わせ物ね。
 おかしくて思わず顔がニヤけてしまう。

「そう。だったら角度を変えて考えてみましょう」

 続けて私が提示するのはある可能性だ。


「さっき立花君に確認してもらったのだけど、里奈ちゃんのクラスで披露する演劇のセット。『五頭竜』を制作していたそうじゃない」

 汐音は一度立花君の方に視線を向けた後、苦笑いのような物を浮かべながら頷いた。

「その五頭竜。今はどこにあるのかしら?」

「どうだろう?学校かな?」

 とぼけた様子で杉浦君の方に視線を向けた。まるで助けを求めるかのように。

「ここにあるんじゃないの?」

「ここってどこの事?」

「何でも屋『すぎうら』によ」
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