万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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夜の海岸に現れる龍の謎10

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「あなた達は佐々木さんに感謝なさいよ。親を呼ばれたり、学校に連絡されてもおかしく無かったのだから」

「そうだぞ!」

 偉そうに私の横に並び立つのは、厨二病全開な謎の英字のプリントが施されたパーカーを羽織る180センチ近い大男だ。

 ジャージの三人組はかなり威圧感を覚えているようで、立花君にペコペコと頭を下げている。

「あなたねぇ。恥ずかしくないの?」

「そうだぞ!恥ずかしくないのか!?」

 私の視線の行方を確認せずに、厨二病大男はジャージ三人組に恫喝を続ける。

「あのね立花君。私はあなたに向かって言っているのだけれど」

「えっ!?なんで俺に」

 そんな事もわからないのね。彼の処遇は後でまた考えるとして……

「とりあえず話がこじれるからあなたは話に入ってこないで。良い。StayよStay。犬にだってできるんのだから、あなたでもできるわよね」

「もちろん!」

 最大級にバカにしたつもりだったのだけれど、立花君は嬉しそうに右手を胸に当てて私の背後に回った。……まったく。心臓を捧げる必要はないのよ。

「じゃああなた達。開放する前に、何個か質問をさせてもらって良いかしら?」

 一応仕事だ。何があってこうなった。的な顛末書を制作して汐音に提出する必要があるのだ。

「はい。もちろん」

 三人の中で一番体格の大きな『しげ』と呼ばれていた子がそう答えた。

「まず、あなた達はどこの中学校に通っているのかしら?」

 体格、あどけなさの残る表情から、高校生でないことは安易に推察することができた。
 加えてお揃いのジャージを来ている所から、小学生ではないことが分かった。
 なんせ私の通っていた公立の小学校には指定ジャージなんてなかったもの。

「はい。僕たちは由比ヶ浜中学に通っている二年生です」

 由比ヶ浜中学。私が通っていた中学校から見たら隣の中学校だ。汐音に連れられてボランティアに参加したときに、交流した覚えのある名前だった。

「今回、なぜあなた達は犯行に及んだのですか?あ、これ別に任意だから答えたくなければ答えなくても良いわ」


「えっと、それは自分が答えます」

 三人の中では一番体格の小さい『やま』と呼ばれていた人物が遠慮がちに右手をあげる。

「はい。どうぞ」

「最初は釣りエサ。青イソメを買っていたんです。でも、あれ一回で五百円ほどするので、三人で割っても、頻繁に釣りをしていると、一瞬でお小遣いがなくなってしまいます。『テル』がミミズでも釣れるんじゃねって言い出したのが、最初でした。そこら辺の公園なんかで石を裏返したりして少量のミミズを捕まえていました。餌に使ってみたら実際、それで魚がつれたので、もっとミミズを、捕まえたいなってなったんです」


『しげ』が右手を上げて、言葉を続ける。

「悪いのは僕なんです。最初に佐々木さんの花壇に目をつけたのは僕でした。僕の家はすぐ近くて、僕の部屋から佐々木さんが花壇の手入れをしているのがよく見えました。手入れの行き届いた栄養価の高い土にはミミズが多く生息しているという事をネットで知って、実行に移しました。そうしたら簡単にミミズが手に入ってしまったので、悪いことだと言う意識が薄れて繰り返してしまいました。本当に反省しています」

「そう」


 正直反省しているだとか、そういう言はどうでも良くて、私が知りたいのは顛末だけなのだ。
 だから褒めもしないし、しかりもしない。

「一度家に帰って、親……両親にも話して、改めて謝りに行こうと思っています」

「はあ?」

『しげ』の発言に物申したのは、だんまりを決め込んでいた『テル』だ。

「しげが行くなら俺だって行くよ。帰って母さんにも全て話す」

「俺だってそのつもりだよ」

『やま』もそれに続く。
 彼らは随分としっかりしているようね。自らを戒める事ができる。
 私の背後に立つ人物よりも、よっぽどデキていると言える。
 そう思った瞬間、背後から特大のくしゃみが鳴り響く。

「ヘックション!誰か噂してやがるな」

「じゃあ、立花君帰るわよ」

「ああ」

 先に歩き出した私の歩調に合わせて、私の横に着いた。

 そして、数歩歩いてからあることを思い出した。

「そう言えばあなた達、ここらで釣りをしているのよね?」

「はい」

『テル』が返事をする。

「あなた達五頭竜ってご存知かしら?最近が由比ヶ浜の海岸で目撃されているらしいんだけど、見たことない?」


「五頭竜ってあの昔話に出てくる神様ですよね?……うーん俺は見たことないですね」

『テル』が二人にも促すが、二人共首を横に振った。

 どうやら目撃はしていないと言う事らしい。

「あっ、でも、五頭竜ではないですが、珍しい物なら見ましたよ」

『しげ』がそう言った。

「珍しい物?それは何かしら?」

「若いカップルが、バカデカいドローンを飛ばしてたんですよ」

「へえ。ドローンをね……」

 ドローンと聞いて脳裏に浮かぶ顔があった。しかもバカでかいドローンですって?
 当たってみる価値はあるかもしれないわね。


「ありがとう。とても参考になったわ」

「あっそうだお前達さ」

 横に立っていた立花君が、三人に向かって唐突に声をかけた。

 もちろん三人共驚いて、固まってしまう。

 それでも気にせずに立花君は言葉を続ける。

「俺、西浜近くの『すぎうら』って何でも屋で働いてるんだけどさ、そこで釣り用のミミズ育ててるんだ」

 その責務が移ろうとしているだけで、まだ生育はしていなのではないかと言う突っ込みはしないであげた。
 だって━━━━

「もし必要なら、沢山はあげられないけど、少しなら分けてやるからよ」

「本当ですか!?あ、ありがとうございます」

 とても優しい顔をしていたから。

 三人はペコペコと立花君に頭を下げるのを繰り返す。

「じゃあ今度こそ本当に行くわよ」

「おう」

 少しでも褒めたら調子に乗りそうだから風にかき消されそうな声量で言った。

「良いところあるじゃない」

 立花君には聞こえていないはずだけど、何やら上機嫌な様子だった。
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