万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

文字の大きさ
上 下
30 / 50
2

夜の海岸に現れる龍の謎10

しおりを挟む
「あなた達は佐々木さんに感謝なさいよ。親を呼ばれたり、学校に連絡されてもおかしく無かったのだから」

「そうだぞ!」

 偉そうに私の横に並び立つのは、厨二病全開な謎の英字のプリントが施されたパーカーを羽織る180センチ近い大男だ。

 ジャージの三人組はかなり威圧感を覚えているようで、立花君にペコペコと頭を下げている。

「あなたねぇ。恥ずかしくないの?」

「そうだぞ!恥ずかしくないのか!?」

 私の視線の行方を確認せずに、厨二病大男はジャージ三人組に恫喝を続ける。

「あのね立花君。私はあなたに向かって言っているのだけれど」

「えっ!?なんで俺に」

 そんな事もわからないのね。彼の処遇は後でまた考えるとして……

「とりあえず話がこじれるからあなたは話に入ってこないで。良い。StayよStay。犬にだってできるんのだから、あなたでもできるわよね」

「もちろん!」

 最大級にバカにしたつもりだったのだけれど、立花君は嬉しそうに右手を胸に当てて私の背後に回った。……まったく。心臓を捧げる必要はないのよ。

「じゃああなた達。開放する前に、何個か質問をさせてもらって良いかしら?」

 一応仕事だ。何があってこうなった。的な顛末書を制作して汐音に提出する必要があるのだ。

「はい。もちろん」

 三人の中で一番体格の大きな『しげ』と呼ばれていた子がそう答えた。

「まず、あなた達はどこの中学校に通っているのかしら?」

 体格、あどけなさの残る表情から、高校生でないことは安易に推察することができた。
 加えてお揃いのジャージを来ている所から、小学生ではないことが分かった。
 なんせ私の通っていた公立の小学校には指定ジャージなんてなかったもの。

「はい。僕たちは由比ヶ浜中学に通っている二年生です」

 由比ヶ浜中学。私が通っていた中学校から見たら隣の中学校だ。汐音に連れられてボランティアに参加したときに、交流した覚えのある名前だった。

「今回、なぜあなた達は犯行に及んだのですか?あ、これ別に任意だから答えたくなければ答えなくても良いわ」


「えっと、それは自分が答えます」

 三人の中では一番体格の小さい『やま』と呼ばれていた人物が遠慮がちに右手をあげる。

「はい。どうぞ」

「最初は釣りエサ。青イソメを買っていたんです。でも、あれ一回で五百円ほどするので、三人で割っても、頻繁に釣りをしていると、一瞬でお小遣いがなくなってしまいます。『テル』がミミズでも釣れるんじゃねって言い出したのが、最初でした。そこら辺の公園なんかで石を裏返したりして少量のミミズを捕まえていました。餌に使ってみたら実際、それで魚がつれたので、もっとミミズを、捕まえたいなってなったんです」


『しげ』が右手を上げて、言葉を続ける。

「悪いのは僕なんです。最初に佐々木さんの花壇に目をつけたのは僕でした。僕の家はすぐ近くて、僕の部屋から佐々木さんが花壇の手入れをしているのがよく見えました。手入れの行き届いた栄養価の高い土にはミミズが多く生息しているという事をネットで知って、実行に移しました。そうしたら簡単にミミズが手に入ってしまったので、悪いことだと言う意識が薄れて繰り返してしまいました。本当に反省しています」

「そう」


 正直反省しているだとか、そういう言はどうでも良くて、私が知りたいのは顛末だけなのだ。
 だから褒めもしないし、しかりもしない。

「一度家に帰って、親……両親にも話して、改めて謝りに行こうと思っています」

「はあ?」

『しげ』の発言に物申したのは、だんまりを決め込んでいた『テル』だ。

「しげが行くなら俺だって行くよ。帰って母さんにも全て話す」

「俺だってそのつもりだよ」

『やま』もそれに続く。
 彼らは随分としっかりしているようね。自らを戒める事ができる。
 私の背後に立つ人物よりも、よっぽどデキていると言える。
 そう思った瞬間、背後から特大のくしゃみが鳴り響く。

「ヘックション!誰か噂してやがるな」

「じゃあ、立花君帰るわよ」

「ああ」

 先に歩き出した私の歩調に合わせて、私の横に着いた。

 そして、数歩歩いてからあることを思い出した。

「そう言えばあなた達、ここらで釣りをしているのよね?」

「はい」

『テル』が返事をする。

「あなた達五頭竜ってご存知かしら?最近が由比ヶ浜の海岸で目撃されているらしいんだけど、見たことない?」


「五頭竜ってあの昔話に出てくる神様ですよね?……うーん俺は見たことないですね」

『テル』が二人にも促すが、二人共首を横に振った。

 どうやら目撃はしていないと言う事らしい。

「あっ、でも、五頭竜ではないですが、珍しい物なら見ましたよ」

『しげ』がそう言った。

「珍しい物?それは何かしら?」

「若いカップルが、バカデカいドローンを飛ばしてたんですよ」

「へえ。ドローンをね……」

 ドローンと聞いて脳裏に浮かぶ顔があった。しかもバカでかいドローンですって?
 当たってみる価値はあるかもしれないわね。


「ありがとう。とても参考になったわ」

「あっそうだお前達さ」

 横に立っていた立花君が、三人に向かって唐突に声をかけた。

 もちろん三人共驚いて、固まってしまう。

 それでも気にせずに立花君は言葉を続ける。

「俺、西浜近くの『すぎうら』って何でも屋で働いてるんだけどさ、そこで釣り用のミミズ育ててるんだ」

 その責務が移ろうとしているだけで、まだ生育はしていなのではないかと言う突っ込みはしないであげた。
 だって━━━━

「もし必要なら、沢山はあげられないけど、少しなら分けてやるからよ」

「本当ですか!?あ、ありがとうございます」

 とても優しい顔をしていたから。

 三人はペコペコと立花君に頭を下げるのを繰り返す。

「じゃあ今度こそ本当に行くわよ」

「おう」

 少しでも褒めたら調子に乗りそうだから風にかき消されそうな声量で言った。

「良いところあるじゃない」

 立花君には聞こえていないはずだけど、何やら上機嫌な様子だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

このブラジャーは誰のもの?

本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。 保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。 誰が、一体、なんの為に。 この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

『神楽坂オカルト探偵事務所 〜都市伝説と禁忌の事件簿〜』

ソコニ
ミステリー
「都市伝説は嘘か真か。その答えは、禁忌の先にある。」 ## 紹介文 神楽坂の路地裏に佇む一軒の古い洋館。その扉に掛かる看板には「神楽坂オカルト探偵事務所」と記されている。 所長の九条響は元刑事。オカルトを信じないと公言する彼だが、ある事件をきっかけに警察を辞め、怪異専門の探偵となった。彼には「怪異の痕跡」を感じ取る特殊な力があるが、その代償として激しい頭痛に襲われる。しかも、彼自身の記憶の一部が何者かによって封印されているらしい。 事務所には個性的な仲間たちがいる。天才ハッカーの霧島蓮、陰陽術の末裔である一ノ瀬紅葉、そして事務所に住み着いた幽霊の白石ユウ。彼らは神楽坂とその周辺で起きる不可解な事件に挑んでいく

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 遠山未歩…和人とゆきの母親。 遠山昇 …和人とゆきの父親。 山部智人…【未来教】の元経理担当。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...