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夜の海岸に現れる龍の謎9
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SideY
「そこに直りなさい!」
「ぐべば」
私に放り投げられた立花君は顔から着地して、某世紀末漫画のヤラレ役のような声をあげる。
花壇に座り込む三人の人影は、肩をビクつかせて動きをピタリと止めた。
「あなた達のやっていることは器物損壊、そして、窃盗にも当たりますよ!」
実際のところ、花の色が変わってしまったことが器物損壊罪、ミミズの持ち去りが窃盗罪に当たるのかどうかは微妙な所だけれど、水の方は立派な窃盗よね。
すると……
「ちげが最初に言ったんだから、ちげのせいだろ」
「はあ?ヤマだって小遣い少ないから助かるって言ってたじゃないかよ」
「俺はただ着いてきただけだし」
「テルそれはねえだろ。お前が今手に持っている物はなんだよ!?」
三人組は言い争いを始めてしまった。だれが悪いのかの押し付け合いを始めたのだ。
しかし、そんなのはこちらとしてはどうでも良いこと。一つ咳払いをして、いつもより低い声を出すことを意識しながらなるべく威圧感を与えるように言った。
「いいから三人とも。そこに正座なさい。三秒以内にね。でなければ、どうなるかわかっているでしょうね?」
「は、はい」
すぐに三人はタイル張りの玄関に正座をする。
立花君もその横に座っていた。上着の柄的に同世代に見えて少しおかしくなった。
何故か彼はちょっと嬉しそうだった。
「あなたはこっちがわでしょ」
「おっ、おう。そうだった。いつもの癖で」
「そう言うのはやめてちょうだい。私が普段からあなたの事を調教してるみたいじゃない」
「んー、まあそんなもんかなと思ってたけど」
睨めつけるような視線を向けると、立花君は黙って立ち上がり私の横にたった。
それでいいのよ。最初からそうしなさい。
「ミミズ泥棒をしていたのはあなた達三人組で間違いないわね?」
三人がそれぞれ視線を合わせて目配せのような物をしてから、声を合わせて「そうです」と返事をした。
どうやら観念したみたいね。
「あらあらなんの騒ぎ?」
騒動を聞きつけたおばあちゃま、今回の依頼主である佐々木さんが玄関先に駆けつけて来た。
ジャージ姿の三人組とその前に立ちはだかる私達を見て、目を丸くしている。
「今回の花の色が変わってしまった原因になった犯人を捕まえました」
「彼らが……?」
「擁護する訳ではありませんが、厳密に言えば彼らの行動はきっかけに過ぎません。彼らも意図していない所だとおもうのですけどね」
「どういう事なの?」
ジャージ三人組もなにが起こっているのかわからないと、不安気な視線を私に向けた。
「彼らはこの花壇から大量にミミズを盗みました。それは間違いないわよね?」
先ほどとは違い、ジャージ三人組は「はい」と消沈気味に犯行を認めた。
「先ほど、佐々木さんには説明をさせて頂きましたが、元々この花壇の土壌はアルカリ性でした。では、なぜ、アルカリ性だったのか、その理由が大量のミミズにあります。余談にはなりますが元々、日本では、酸性の土地が多いんです。なぜかと言えば、日本では雨が多いせいなのですが、それはまた別の話になってしまうので、今回はそちらの説明は省かせて頂きます」
「はあ。ミミズとアルカリ性。なんの関係があるっていうの?」
よくわからないと、おばあちゃまは疑問の声をあげた。
「ミミズは体からアルカリ性の物質を分泌します。数が多くなければ酸性の土地を中和をして、自らが住みやすい弱酸性になる程度の、それほど強いアルカリ性ではありません。しかし━━━━」
花壇の上でウネウネと動くミミズを一瞥してから言葉を続ける。
「広さの割に、その数が多すぎれば土壌はアルカリへと傾きます。その結果あじさいの花はピンクに色づきます。それが今までです。━━━━そして今、花壇内のミミズが減り、土壌は酸性に傾き、花は青色に変化した。それが今回の顛末です」
「そうだったの。けれども、それだと一つわからない事があるわ」
「何でしょう?」
「彼らはどうやって大量のミミズを取り出す事ができたのかしら?土を掘り起こしたような跡もない。掘り起こしたような跡があれば、素人の私だって気がつくわ」
「あー、それは単純な事です」
すぐに花壇横に設置された散水用のホース前まで移動すると、それを手に取った。
「ホース?それが何だって言うの?」
ジャージ三人組は俯いて何も言葉を発さない。
「雨が降った後って、ミミズをよく見かけたりしますよね」
「ええ。そうね」
おばあちゃまはコクリと一つ頷いて、私の話しを肯定する。
「雨降りに、ミミズが這い出して来る理由。それは知っていますか?立花君」
自分には関係ないと、そっぽを向いていた彼に話しを投げかける。
「なぜ……?考えた事も無かったな。うーん。カタツムリみたいに雨が好き……とか?」
「残念。外れ。じゃあ、ジャージの一番大きい子」
『ちげ』と呼ばれていた短髪の少年を指名して答えさせる。
三人の話しの流れから首謀者っぽいし、きっと、彼は知っているはず。
彼は恐る恐ると言った感じで顔をあげると、一言だけ発した。
「酸欠……ですよね」
「御名答」
「はっ?でも、今日は雨なんて降ってないだろ?なんでミミズがこんなに飛び出して来てるんだよ」
察しの悪い立花君は、まだその原因がわからないらしい。
まったく。全部説明しなければならないのね。
「擬似的に雨降りの状況を作ってやればいいのよ。さっき立花君が花壇に突っ込んだ時、泥でパーカーが汚れてしまったわよね?」
そこまで説明すると立花君は「なるほど。わかったぞ。お前達、ホースを使って水を大量に撒いたんだな!」と大声をあげる。
わかっていなかったのはきっとあなただけよ。少し呆れながら話を元に戻す。
「……そうよ。佐々木さん。これが今回のおはなしの顛末になります」
おばあちゃまの方に向き直り、そう真実を告げる。
「そうだったの」
「ですので、以前のようにミミズの数が増えて土壌がアルカリ化すれば、また以前と同じように、ピンクの花をつけると思いますよ」
「そう。それなら良かったわ」
安堵の表情を見せるおばあちゃま。だけど、これで終わりではない。
「彼らの処遇はどうしますか?」
言いながらジャージ姿の三人に視線を戻した瞬間、ほぼ同時に肩がピクリと跳ねた。
だけど、誰一人減刑を求める声は発さなかった。
それを見てか、優しい笑顔を浮かべたまま、おばあちゃまは答えた。
「もう、うちの花壇に手出しをしない約束をしてくれるなら、今回は不問にするわ」
すると、申し合わせるわけでもなく、ジャージ姿の三人は同時に頭を下げて、おばあちゃまに謝罪の事座を告げた。
「本当にすみませんでした」と
「そこに直りなさい!」
「ぐべば」
私に放り投げられた立花君は顔から着地して、某世紀末漫画のヤラレ役のような声をあげる。
花壇に座り込む三人の人影は、肩をビクつかせて動きをピタリと止めた。
「あなた達のやっていることは器物損壊、そして、窃盗にも当たりますよ!」
実際のところ、花の色が変わってしまったことが器物損壊罪、ミミズの持ち去りが窃盗罪に当たるのかどうかは微妙な所だけれど、水の方は立派な窃盗よね。
すると……
「ちげが最初に言ったんだから、ちげのせいだろ」
「はあ?ヤマだって小遣い少ないから助かるって言ってたじゃないかよ」
「俺はただ着いてきただけだし」
「テルそれはねえだろ。お前が今手に持っている物はなんだよ!?」
三人組は言い争いを始めてしまった。だれが悪いのかの押し付け合いを始めたのだ。
しかし、そんなのはこちらとしてはどうでも良いこと。一つ咳払いをして、いつもより低い声を出すことを意識しながらなるべく威圧感を与えるように言った。
「いいから三人とも。そこに正座なさい。三秒以内にね。でなければ、どうなるかわかっているでしょうね?」
「は、はい」
すぐに三人はタイル張りの玄関に正座をする。
立花君もその横に座っていた。上着の柄的に同世代に見えて少しおかしくなった。
何故か彼はちょっと嬉しそうだった。
「あなたはこっちがわでしょ」
「おっ、おう。そうだった。いつもの癖で」
「そう言うのはやめてちょうだい。私が普段からあなたの事を調教してるみたいじゃない」
「んー、まあそんなもんかなと思ってたけど」
睨めつけるような視線を向けると、立花君は黙って立ち上がり私の横にたった。
それでいいのよ。最初からそうしなさい。
「ミミズ泥棒をしていたのはあなた達三人組で間違いないわね?」
三人がそれぞれ視線を合わせて目配せのような物をしてから、声を合わせて「そうです」と返事をした。
どうやら観念したみたいね。
「あらあらなんの騒ぎ?」
騒動を聞きつけたおばあちゃま、今回の依頼主である佐々木さんが玄関先に駆けつけて来た。
ジャージ姿の三人組とその前に立ちはだかる私達を見て、目を丸くしている。
「今回の花の色が変わってしまった原因になった犯人を捕まえました」
「彼らが……?」
「擁護する訳ではありませんが、厳密に言えば彼らの行動はきっかけに過ぎません。彼らも意図していない所だとおもうのですけどね」
「どういう事なの?」
ジャージ三人組もなにが起こっているのかわからないと、不安気な視線を私に向けた。
「彼らはこの花壇から大量にミミズを盗みました。それは間違いないわよね?」
先ほどとは違い、ジャージ三人組は「はい」と消沈気味に犯行を認めた。
「先ほど、佐々木さんには説明をさせて頂きましたが、元々この花壇の土壌はアルカリ性でした。では、なぜ、アルカリ性だったのか、その理由が大量のミミズにあります。余談にはなりますが元々、日本では、酸性の土地が多いんです。なぜかと言えば、日本では雨が多いせいなのですが、それはまた別の話になってしまうので、今回はそちらの説明は省かせて頂きます」
「はあ。ミミズとアルカリ性。なんの関係があるっていうの?」
よくわからないと、おばあちゃまは疑問の声をあげた。
「ミミズは体からアルカリ性の物質を分泌します。数が多くなければ酸性の土地を中和をして、自らが住みやすい弱酸性になる程度の、それほど強いアルカリ性ではありません。しかし━━━━」
花壇の上でウネウネと動くミミズを一瞥してから言葉を続ける。
「広さの割に、その数が多すぎれば土壌はアルカリへと傾きます。その結果あじさいの花はピンクに色づきます。それが今までです。━━━━そして今、花壇内のミミズが減り、土壌は酸性に傾き、花は青色に変化した。それが今回の顛末です」
「そうだったの。けれども、それだと一つわからない事があるわ」
「何でしょう?」
「彼らはどうやって大量のミミズを取り出す事ができたのかしら?土を掘り起こしたような跡もない。掘り起こしたような跡があれば、素人の私だって気がつくわ」
「あー、それは単純な事です」
すぐに花壇横に設置された散水用のホース前まで移動すると、それを手に取った。
「ホース?それが何だって言うの?」
ジャージ三人組は俯いて何も言葉を発さない。
「雨が降った後って、ミミズをよく見かけたりしますよね」
「ええ。そうね」
おばあちゃまはコクリと一つ頷いて、私の話しを肯定する。
「雨降りに、ミミズが這い出して来る理由。それは知っていますか?立花君」
自分には関係ないと、そっぽを向いていた彼に話しを投げかける。
「なぜ……?考えた事も無かったな。うーん。カタツムリみたいに雨が好き……とか?」
「残念。外れ。じゃあ、ジャージの一番大きい子」
『ちげ』と呼ばれていた短髪の少年を指名して答えさせる。
三人の話しの流れから首謀者っぽいし、きっと、彼は知っているはず。
彼は恐る恐ると言った感じで顔をあげると、一言だけ発した。
「酸欠……ですよね」
「御名答」
「はっ?でも、今日は雨なんて降ってないだろ?なんでミミズがこんなに飛び出して来てるんだよ」
察しの悪い立花君は、まだその原因がわからないらしい。
まったく。全部説明しなければならないのね。
「擬似的に雨降りの状況を作ってやればいいのよ。さっき立花君が花壇に突っ込んだ時、泥でパーカーが汚れてしまったわよね?」
そこまで説明すると立花君は「なるほど。わかったぞ。お前達、ホースを使って水を大量に撒いたんだな!」と大声をあげる。
わかっていなかったのはきっとあなただけよ。少し呆れながら話を元に戻す。
「……そうよ。佐々木さん。これが今回のおはなしの顛末になります」
おばあちゃまの方に向き直り、そう真実を告げる。
「そうだったの」
「ですので、以前のようにミミズの数が増えて土壌がアルカリ化すれば、また以前と同じように、ピンクの花をつけると思いますよ」
「そう。それなら良かったわ」
安堵の表情を見せるおばあちゃま。だけど、これで終わりではない。
「彼らの処遇はどうしますか?」
言いながらジャージ姿の三人に視線を戻した瞬間、ほぼ同時に肩がピクリと跳ねた。
だけど、誰一人減刑を求める声は発さなかった。
それを見てか、優しい笑顔を浮かべたまま、おばあちゃまは答えた。
「もう、うちの花壇に手出しをしない約束をしてくれるなら、今回は不問にするわ」
すると、申し合わせるわけでもなく、ジャージ姿の三人は同時に頭を下げて、おばあちゃまに謝罪の事座を告げた。
「本当にすみませんでした」と
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