万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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夜の海岸に現れる龍の謎8

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 SideY

「まったくあなたって人は……どうかしているわ。別行動するって言ったじゃない」

 おばあちゃまの好意で、立花君と二人、玄関先に座らせて貰っていた。

 おばあちゃまのお子様が使っていたという、少し厨二病臭い謎の文字が描かれたパーカーを羽織って立花君は吠える。

「しょうがねえだろ。だってよ。五頭竜を見ちゃったんだから」

「……ふーん五頭竜をね」

 この期に及んでそんな事を言い出すなんて、後で折檻をする必要がありそうね。
 どんな苦痛を与えるべきか考えていると、立花君は慌てた様子で言葉を紡ぐ。

「嘘じゃねえんだって。居たんだよ五頭竜は。由比ヶ浜の海岸線で釣りをしながら仕事の予習をしていたら急にプロペラ音みたいなもんが聞こえて来てよ」


「ふーん。あなたは五頭竜を探しに由比ヶ浜海岸に行っていたのに、サボって釣りをしていたという事も自白するわけね」

 これはかなりの罰を与える必要がありそうだ。電気椅子かしら、それとも……

「釣りをしていたのは、ちょっとした暇つぶしみたいなもんでよ。ただぼーっと立ってるってのも苦痛なもんだぜ!?おかしな目で見られるしよ」

 それは一理あるかもしれないわね。おそらく私もただ立ち尽くして待てと言われたら、退屈過ぎて、妄想を始めてしまうに違いないわ。

 立花君を責められた義理は無いのだなと心の奥で思いつつも、それは口に出せずに会話を続ける。

「で、五頭竜の大きさは、どこに向かっていったの?それくらいしっかり確認したんでしょうね」

「そ、それは……」

 明らかに狼狽えたような態度を見せた。うん。このパターンは何かに気を取られて、肝心なものの方を見逃したと言うことね。

 または目撃していないのに、目撃者を装っているか。

 どちらか見極める為に、私は立花君の目を真っ直ぐに見た。

「う、そんな射すくめるように見ないでくれよ」

「……」

 ただ黙って見続けると、観念したのか、ため息をついたあと話し始める。

 ため息をつきたいのはこっちの方だわ。まったく。

「同時によ、釣り竿の方に当たりがあったんだ」

「うん。それで」

「そんな笑顔で見ないでくれよ。ちょっと怖いぞ」

 それは当たり前。怖くなるようにしているのだから。

「早く続きを話しなさい」

「お、おう。飛行音を轟かせながら立ち去ろうとする五頭竜と当たりのある釣り竿。何度か見比べたあと、俺は釣り竿を握った」

「はっ!?あなたはバカなの!?」

「そ、そんなには怒るなよ。多分、また今日あたり張ってれば会えるさ」

 それはどうだろう。依頼を受けてから三日が経過しているはずだ。
 その間に五頭竜を目撃したとの報告は受けていない。

「昨日と一昨日はどうだったのかしら?」


「そ、それは、フグが数匹釣れた」

「五頭竜は?」


 立花君は少し逡巡するような仕草を見せたあと、バツが悪そうに、後頭部をポリポリとかいてから続けて言った。

「……現れてねえ」

「はあ」

 やはりそうだ。立花君が目撃したと言うのを信じるとして、ようやく現れた五頭竜を前に遊びを優先したと言うのだ。

「まったく!呆れるを通り越して殴りたくなってくるわね」

「わっ殴るのはやめてくれ」

 右手を振り上げる素振りだけを見せてすぐに引っ込めた。

「何度も苛つかせられたけど、私が立花君に手を出した事なんてあったかしら?」

「……多分ないです」

 自身なさげにそう答えるが、間違いなく私は手は出していない。精神的攻撃はするけども。

「まあいいわ。他に気がついた事はないの」

「……」

 立花君は少し考えるように虚空を見つめる。そして出た答えは。

「ないな」

「まったくあなたって人は」

「だから愛華に頼ろうと思ってここに来たんだろ」

 思わずため息を吐き出さずにはいられない。

「はあ。わかったわよ」

「そんなに嫌そうな顔するなよ」

「別に嫌な顔なんかしてないわよ」

 そう言って立花君から視線をそらし、玄関扉の向こう側の様子を探る。

 物音はしない。まだ犯人たちは舞い戻ってないようだ。

「あっ、そういえば」

 さっき立花君は妙な事を言っていた。

「さっきあなた、佐々木さんもミミズを育てているのかって変な事を聞いていたわよね?それはなぜ?失礼にも当たる事よ。慎みなさい」

「おいおい。そんな言い方はないだろうよ。世の中にはミミズの養殖で生計を立てている人もいるんだぜ。謝んな」

「ぐっ」

 立花君の言う通りだった。たしかにそういった人も世の中には存在するだろう。完全に私の失言だ。
「訂正するわ。立花君が佐々木さんに言ったことは失礼には当たらない。むしろ私が失礼な事を言ってしまったわ。世の中のミミズ養殖業者さんに謝罪するわ」

 立花君は満足そうに頷くと、一冊のノートを突きつけて来た。

「だったら俺個人にも謝ってもらわないとな」

「なによこれ……シマミミズ養殖ノート?」

「翔から任されたんだ。『すぎうら』のシマミミズ担当をさ」

「ちょっと見せなさい」

 立花君の手からひったくり、パラパラとページをめくると、ミミズの特性やら飼育するうえでの注意事項が書かれていた。

「……ちょっと待って。ここに書かれている事は本当なの?」


「あっ?良くわかんねーけど翔が書いたもんだから本当なんじゃないかな」


「なるほど。杉浦君がね」

 杉浦君が書いたと言うなら、信じるに値する。

 だとしたら、今回の事件の全貌は見えたと言える。
 後は犯人が……現れるのを待つだけ!

 「大丈夫だ。今なら誰もいない。早く」

 玄関先で数人の、ささやくような話し声が聞こえてきた。

「飛んで火に入るなんとやらね。行くわよ立花君」

 立花君の襟首を掴むと、勢い良く扉を開いた。

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