万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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夜の海岸に現れる龍の謎6

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 SideT

 夜の海岸に現れる龍の謎を解き明かすために、二日間みっちり張り込んだけど、なんの成果も得られなかった。

 無駄に腰高の━━顔も知らない━━後輩の演劇『弁天様と五頭竜』のビラ広告は大量に配る事はできたが、釈然とはしない。

 にしても、本当にこんな所に五頭竜は現れるのか?

 すっかり日の沈んだ海岸線に目を凝らして見るも、数人のサーファー以外の動く物を確認することはできない。

 今日は海から吹く風はここ三日間の間では一番弱い。だけど、十一月まで間近という事もあって、風はとても冷たい。
 昼間だったら、って心地よく感じる冷たさなんだけどな。

「ったく、毎日こんな事してたら風邪引いちまうぜ」

 側に誰もいないのに、『バカは風邪引かねえだろ』と突っ込まれたような気がした。
 おそらく、帰ってきてから毎日翔に突っ込まれ続けてる弊害だな。

 頭を何度か横に振って、幻聴を振り払い、今やらなくてはならない仕事に再度向き合う。

 うーん。にしても不思議な事に周囲で聞き込みをしても、目撃者は一人たりともいないんだよな。

 この二日間で軽く三百人位には声をかけたのに。

 SNSを使って、拡散して目撃者を探すのはどうかと奏ちゃんに相談したら、それはダメだと止められた。

 もしバズって無駄に人が集まって、近隣のひとたちに迷惑をかけてしまうかもしれないと言われた。

 普段から観光客も多いんだし別に大丈夫だろとは思ったけど、奏ちゃんに止められたからSNSを使うのはやめた。


 既に手詰まりだな。……愛華に相談するしかないかもしれない。

 でもなー、なんでかわからないけど、怒ってたんだよな。愛華。
 半年ぶりに帰ってきたのに酷いよなー。本当によ。

「まあいいや。愛華の事はまた明日考えよう」

 なんて独り言を吐き出してすぐに体を後傾させると、野球選手のオーバースローのような投球モーションで釣り竿を投げ出した。

 かなり飛んだな。

 どうけ今日もここにニ、三時間はいなければならないんだから、釣りぐらいしててもいいよな。

 釣り竿は『すぎうら』で観光客向けに貸し出している物を拝借してきた。
 まあ社員なんだしこのくらい許されるよな。

 餌はこれもまた釣人に売るために翔が養殖している『シマミミズ』だ。
 これからはミミズの養殖は俺が担当しなければならないらしい。

 釣り竿を補助具で固定して、竿の先端に鈴をつける。そしてこれもまた、『すぎうら』で貸し出ししている折りたたみ椅子に腰をおろした。

 さて、明日からのミミズ育成の為に予習をしますかね。

 翔から渡されたメモ帳を開く。

 頭に付けているヘッドライトを付けてメモ帳を照らし出す。

「うわっ!眩しい!」

 ライトの光量が強すぎたから調整して、手元だけを照らしだすようにしてから再度メモ帳に視線を落とした。

 1、ミミズの餌は有器物だ。米ぬか、野菜の食べられない部分、傷んだ果物などを与える。
 *商店街の八百屋さんに安く譲って貰えるから定価では仕入れないように。

 2.ミミズは土壌が酸性すぎてもアルカリ性すぎても生きていけない。
 だから、ある程度こちらで管理してやる必要がある。
 注意点はミミズが体から分泌する体液はアルカリ性で、ミミズが増えすぎると土壌がアルカリに傾くから注意すること。*わからなかったら、俺に聞いてくれ。文章で説明してもわからないだろうから。

「おいおい。さすがに俺のことをバカにしすぎなんじゃないか?」

 文句を言いながらもページをめくる。

 3.ミミズは低温環境では生きられる、暑いのが苦手だ。あまり熱くならないように注意してやること。三十五度を上回るとほぼ死んでしまう。これだけは本当に気をつけるように。

 なるほど、ミミズは暑さに弱いのか。うむ。気をつけないとな。なんて考えていたら━━━━

 ブオーン。

 どこからともなく、ヘリコプターのプロペラ音のような物が聞こえてきた。

 結構近いような気がするな。

 と言うより、俺の真上では……?

 恐る恐る頭上を見上げると、そこには白い何かが居た。

 弱めていたライトでは照らし切れなくて、白い何かの一部しか見えない。

 慌ててヘッドライトを操作して、一番強いひかりを頭上に浴びせる。

「え……嘘だろ」

 そこには光に照らし出された、真っ白の龍が居た。

 長い胴体から枝分かれした五つの頭……

「まさか、五頭竜なのか!?」

 俺がそう声をかけた瞬間。五頭竜は陸地の方へと進んで行ってしまう。

 追いかけないと!

 そう思ったのとほぼ同時、竿に付けていた鈴がなった。
 魚が掛かったのだ。

 空を飛ぶ五頭竜と当たりを知らせる釣り竿の狭間で俺は少し悩んだ。

「……うーん。ここはどう考えてもこっちだよな!」

 俺は迷わずに釣り竿に手を伸ばすと、全力で糸を巻き上げた。
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