13 / 50
1
身勝手な予告状8
しおりを挟む
汐音を伴って、放課後の腰越高校へと向かう。
在校当時は毎日登っていた急坂を登るのも、半年ぶりの事になる。
あの頃は余裕だったのに、少し疲れた。
対照的にぴょんぴょんと飛び跳ねるような汐音を見て、普段の自分の運動不足を呪った。
腰越高校に到着して私達が向かうのは昇降口……ではなく、そのすぐ横にある入口、守衛室に向かう。
在校生でもない、職員でもない者は必ずここを通らなければならないのだ。
昇降口と比べて狭い入口を入ると、右手にカウンターのような物があり、その前にやる気のなさそうな若い男が座っていた。
勤務態度はあまり良くないようで、隠すことなくスマホをポチポチいじっている。
私達が男の前に立っても、若い守衛はこちらに目を向けることもしない。
「あの、すいません。卒業生なんですけど、久しぶり先生に会いたくなって来たんですけど」
若い守衛はこちらを一瞥することなく、一枚の紙が挟まれているガバンをこちらに放り投げるように差し出してきた。
ちょっとあなた態度が悪いんじゃない!と、注意しようとカウンターに身を乗り出した時、汐音に肩を掴んで止められた。
「愛ちゃん」
たしかにここで問題を起こしたら本末転倒。もしかしたら帰らさせられてしまうかもしれない。
気持ちをぐっとこらえて、飲み込み、大人の対応を取ることにした。
その時、ほんの一瞬だけ、若い守衛がいじっているスマホの画面が見えた。
画面には乱高下を繰り返す折れ線グラフのような物が表示されている。どうやらその折れ線グラフはリアルタイムで反映されているようで、私が見た瞬間に大きく下に向かって沈み込んで行った。
それを見た若い守衛は小さく舌打ちをすると、ガリガリと頭を掻いた!
そして乱暴にスマホをカウンターに放り投げると、私と汐音に向かって言ったのだ。
「で、どうすんの?入るの、入らないの?」
横柄な態度にかなり腹が立ったけど、里奈の事を思いぐっと堪えた。
「入ります」
そそくさと画板に挟まれた入校表にサインをすると汐音を伴ってさっさと校内に入ることにした。
「なんなの?あの態度。とても腹が立つわね」
守衛が胸に付けた名札に書かれていた四文字『たかみち』を深く胸に刻みこむ。
なだめるためか、バカにするためかはわからないけど、汐音が私の頭を後ろからなでた。
「ちょっとやめてちょうだい」
「偉いよ。愛ちゃん。昔なら絶対に怒ってたよね」
なんでかわからないけど、汐音に撫でられただけで怒りの気持ちはしゅんと萎んで行き、急に恥ずかしさが上回ってきた。
汐音の行動にはなんの態度を示す事もなく、私は数歩前を歩いた。
向かっているのは職員室だ。
職員室に入る前、作戦会議のおさらいを軽くした。
「良い?汐音は岡部先生に挨拶をしながら、周囲の机の上を探って。経済新聞が置かれていないかどうか。私は山本先生に挨拶しながら周りの机を探る」
現段階でわかっている犯人のヒントは脅迫状に使われていた経済新聞。
脅迫状を作るためだけにわざわざ経済新聞を仕入れるとも思えないし、普段から経済新聞に触れている人物から探っていこうと思ったのだ。
高校生が経済新聞を読んでいるとも思えないし、わざわざ犯行のためだけに経済新聞をあえて入手するとも思えなかったためだ。
ちなみに岡部先生と言うのは、汐音が三年感お世話になった元担任の先生で、山本先生と言うのが私が三年間お世話になった先生だ。
「もちろん。わかってるよ」
やたら楽しそうにしている汐音が、リノリウム張りの廊下をトントンと体を上下させながら歩いて行く。
その背後から私も続く。
夕暮れの放課後。
文化祭を控えた腰高は少し浮ついた雰囲気だった。
私達も過去に経験したからわかる。
この時期は皆がソワソワ、ワクワクしているのだ。
校内の現状を見て、このようなイベントを潰そうとしている人物が余計に許せなくなった。
職員室前までたどり着き、お互いに顔を見合わせた私達二人は、頷きあってからノック、そして扉をゆっくりと開いた。
在校当時は毎日登っていた急坂を登るのも、半年ぶりの事になる。
あの頃は余裕だったのに、少し疲れた。
対照的にぴょんぴょんと飛び跳ねるような汐音を見て、普段の自分の運動不足を呪った。
腰越高校に到着して私達が向かうのは昇降口……ではなく、そのすぐ横にある入口、守衛室に向かう。
在校生でもない、職員でもない者は必ずここを通らなければならないのだ。
昇降口と比べて狭い入口を入ると、右手にカウンターのような物があり、その前にやる気のなさそうな若い男が座っていた。
勤務態度はあまり良くないようで、隠すことなくスマホをポチポチいじっている。
私達が男の前に立っても、若い守衛はこちらに目を向けることもしない。
「あの、すいません。卒業生なんですけど、久しぶり先生に会いたくなって来たんですけど」
若い守衛はこちらを一瞥することなく、一枚の紙が挟まれているガバンをこちらに放り投げるように差し出してきた。
ちょっとあなた態度が悪いんじゃない!と、注意しようとカウンターに身を乗り出した時、汐音に肩を掴んで止められた。
「愛ちゃん」
たしかにここで問題を起こしたら本末転倒。もしかしたら帰らさせられてしまうかもしれない。
気持ちをぐっとこらえて、飲み込み、大人の対応を取ることにした。
その時、ほんの一瞬だけ、若い守衛がいじっているスマホの画面が見えた。
画面には乱高下を繰り返す折れ線グラフのような物が表示されている。どうやらその折れ線グラフはリアルタイムで反映されているようで、私が見た瞬間に大きく下に向かって沈み込んで行った。
それを見た若い守衛は小さく舌打ちをすると、ガリガリと頭を掻いた!
そして乱暴にスマホをカウンターに放り投げると、私と汐音に向かって言ったのだ。
「で、どうすんの?入るの、入らないの?」
横柄な態度にかなり腹が立ったけど、里奈の事を思いぐっと堪えた。
「入ります」
そそくさと画板に挟まれた入校表にサインをすると汐音を伴ってさっさと校内に入ることにした。
「なんなの?あの態度。とても腹が立つわね」
守衛が胸に付けた名札に書かれていた四文字『たかみち』を深く胸に刻みこむ。
なだめるためか、バカにするためかはわからないけど、汐音が私の頭を後ろからなでた。
「ちょっとやめてちょうだい」
「偉いよ。愛ちゃん。昔なら絶対に怒ってたよね」
なんでかわからないけど、汐音に撫でられただけで怒りの気持ちはしゅんと萎んで行き、急に恥ずかしさが上回ってきた。
汐音の行動にはなんの態度を示す事もなく、私は数歩前を歩いた。
向かっているのは職員室だ。
職員室に入る前、作戦会議のおさらいを軽くした。
「良い?汐音は岡部先生に挨拶をしながら、周囲の机の上を探って。経済新聞が置かれていないかどうか。私は山本先生に挨拶しながら周りの机を探る」
現段階でわかっている犯人のヒントは脅迫状に使われていた経済新聞。
脅迫状を作るためだけにわざわざ経済新聞を仕入れるとも思えないし、普段から経済新聞に触れている人物から探っていこうと思ったのだ。
高校生が経済新聞を読んでいるとも思えないし、わざわざ犯行のためだけに経済新聞をあえて入手するとも思えなかったためだ。
ちなみに岡部先生と言うのは、汐音が三年感お世話になった元担任の先生で、山本先生と言うのが私が三年間お世話になった先生だ。
「もちろん。わかってるよ」
やたら楽しそうにしている汐音が、リノリウム張りの廊下をトントンと体を上下させながら歩いて行く。
その背後から私も続く。
夕暮れの放課後。
文化祭を控えた腰高は少し浮ついた雰囲気だった。
私達も過去に経験したからわかる。
この時期は皆がソワソワ、ワクワクしているのだ。
校内の現状を見て、このようなイベントを潰そうとしている人物が余計に許せなくなった。
職員室前までたどり着き、お互いに顔を見合わせた私達二人は、頷きあってからノック、そして扉をゆっくりと開いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

『神楽坂オカルト探偵事務所 〜都市伝説と禁忌の事件簿〜』
ソコニ
ミステリー
「都市伝説は嘘か真か。その答えは、禁忌の先にある。」
## 紹介文
神楽坂の路地裏に佇む一軒の古い洋館。その扉に掛かる看板には「神楽坂オカルト探偵事務所」と記されている。
所長の九条響は元刑事。オカルトを信じないと公言する彼だが、ある事件をきっかけに警察を辞め、怪異専門の探偵となった。彼には「怪異の痕跡」を感じ取る特殊な力があるが、その代償として激しい頭痛に襲われる。しかも、彼自身の記憶の一部が何者かによって封印されているらしい。
事務所には個性的な仲間たちがいる。天才ハッカーの霧島蓮、陰陽術の末裔である一ノ瀬紅葉、そして事務所に住み着いた幽霊の白石ユウ。彼らは神楽坂とその周辺で起きる不可解な事件に挑んでいく

『白夜学園~五時の影絶~』
ソコニ
ミステリー
白夜学園——その名前は美しいが、この学校には誰も知らない恐ろしい秘密がある。
毎日午後5時、校内に鐘の音が響くと、学校は"異形の世界"へと変貌する。壁から血のようなシミが浮かび上がり、教師たちは怪物じみた姿に変化し、そして最も恐ろしいことに——生徒たちの影が薄れていく
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】


幽霊探偵 白峰霊
七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし
• 連絡手段なし
• ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる
都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。
依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。
「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」
今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる