万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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身勝手な予告状7

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 早くプロットを上げるようにとこってりと絞られ、体重が三キロほど軽くなった気がする昼下がり。

 一度家に戻った私は、ノートパソコンを構えて、いつもの席に腰をおろしていた。

 いつもは進まないも、カタカタと素早くこなす。

「順調ですか」と言うセリフと共に那奈が新しい紅茶を置いてくれた事に気が付かないくらいに。

 画面に羅列される言葉から読み取れるのは、謎解き……のような推理をしているということ。

「えっと、犯人が経済新聞を使っていたという事は、生徒と言う線がかなり薄くなったと言うことで……」

 一般新聞ではなく経済新聞の切り抜きを脅迫状に使用していた。

 つい最近まで高校生であった私にならわかる。一般的な高校生は経済新聞なんて読まない。

 つまり、腰高に在籍しながらも経済新聞を読む可能性のある人物。
 教師による犯行の線がかなり濃くなった。

 なんのつもりでこんな事を教師が……


 私なりの推察をするに、

 高校教師は激務だと聞いたことがある。腰高祭は金、土と二日続く。
 休日返上で働かなくてはならない土曜日に、出勤するのが嫌になった教師の犯行かもしれないわね。


 つまりそうっ言った事に慣れているベテラン教師……ではなく、新人教師の可能性が高い。

「となると、私の知らない先生かも」


 この後、放課後に汐音と腰高に乗り込む手はずにっているけれど、真っ先に新人教師を当たるのが手っ取り早そうね。

 こんな事件とっとと片付けて早くプロットに取り掛からないと……

 どうなるとは言っていなかったけど、「期限までにプロットが上がらないと大変な事になりますからね」と言う捨て台詞が耳にこびりついて離れない。

「あー、早く、早く解決しないと」


「ちょっと勇利先生。ずっと言葉だだ漏れですからね」

 耳元でそうささやく那奈の声で現実に引き戻される。

「えっ!」

 カウンターに乗り上げる形で、那奈が私の耳元に顔を寄せていた。

 かなりの前傾姿勢。
 胸元のボタンが二つ外されたシャツの隙間から、チラリとピンク色の何かが見えていた。


「ちょっと先輩!前、前見えてますよ!」

 一斉に那奈に集まる視線。

 那奈を目的に集まってきた客たちによる視線だ。

 那奈はとっさに胸元を隠すと、少し照れ笑いといった感じで、「やってしまいました」とごまかす。

 しかし、店内のボルテージが高まっていることは、振り返らなくても嫌でもわかった。

 肌感からひしひしと伝わってくる。

 私は冷徹モードに切り替えて、背後を振り返ると、皆が一斉に視線を外した。

 温まったカフェ内の熱もどんどんと下がっていくのを感じる。

「先輩。もう少し、気を付けてくださいよ。私と違って……あるんですから」

 言いながら自分がダメージの負う言葉を吐き捨てながら、那奈に視線を戻すと、「すみません」と顔を赤らめていた。

 こういう無意識なあざとさがファン獲得の秘訣なのだろう。
 実際に見習うような事はしないけれど、いつか小説には活かせるかも。


「で、何かわかりました?」

 当事者のハズではない那奈だけど、『ここ』から全て始まり、作戦会議、推察までをも『ここ』で行っているのだ。

 直接相談はしていなくても嫌でも耳には入ってくるだろう。

「なんとなく、はわかってきましたよ。放課後には腰高に乗り込む予定です」

 そう答えると、那奈はぽんと一つ柏手を打った。

「そうだ。今日の放課後は晃君も臨時コーチとして参加する予定なので、サッカー部の部員達に話を聞いてみるねってのはどうですか?」

 私としては、既に犯人は新任教師に絞られていて不必要な事に感じられたけど、ここは適当に相槌を打っておく。

「そうですね。タイミングが合えば」


「私から晃君に伝えておきますよ。勇利先生がサッカー部員から話を聞きたがっているって」

「いえ、別に大丈夫━━━━」


 言い終わる前に那奈はスマホを取り出すと、ポチポチと操作をすぐに終わらせる。

「送っておきました。顔が広い子も多いと思うので、何らかの情報は得られるかもしれません」

 得意げに両手をぐっと握り込んで見せる那奈に、余計なお世話ですとは言えなかった。

「あ、ありがとうございます」

 きっと、正直者の私の顔は引きつっている。

 鈍感な那奈が気がつく事はないだろうけど。
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