万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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身勝手な予告状2

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「はあ、なんで私がこんな事をしなくちゃならないのよ」


 いつもの席に座りながら、私は頭を抱えていた。

 目の前にはパソコン……ではなくて、三枚のノートの切れ端が置かれている。

「愛華さん。どうかしたんですか?」

 声のした方に顔を向けると、不安げな表情で那奈がこちらを見下ろしていた。

「あー、ちょっといろいろありましてね。面倒事を抱えちゃったんですよ」

 この三枚の脅迫状だけを頼りに、ポストに投函した犯人を見つけ出す。そんな無理難題を汐音に押し付けられたのだ。

 元はと言えば私が、里奈の事をパパ活扱いしてしまったのがすべての発端なのだけれど、納得はいっていなかった。

 なんせまだ、次回作のプロットが上がっていないのだ。
 締め切りまで約一週間。
 腰高際までも一週間と少し

 状況はかなり切迫している。

「そうなんですか。あまり無理なさらないでくださいね」

 那奈は慈愛のこもった微笑みを浮かべ、お代わりの紅茶の入ったカップと古いカップを取り替え、お辞儀をすると去って行った。

 新たに置いていかれた紅茶に手を伸ばし、精神を落ちつかせる為に、鼻腔いっぱいに香りを吸い込んだ。

 チョコレートのような甘い香りが、鼻腔を通して脳内に広がっていく。

 なんの解決にもなっていないけど、不思議と心が落ち着く。

 そのまま一口含んでからゆっくりとカップをテーブルに置いた。

 ごちゃごちゃ考えてても仕方がない。引き受けてしまった以上、新作も書かなければいけないし、犯人も見つけ出さなければならない。

 経験上、プロットは最終日に追い込みに追い込めばなんとかなる。

 ━━━━━━━となるば、先に手を付けるべきは脅迫状を送りつけた犯人を特定すること。

 まずはどんな事でも良いからヒント、犯行の残滓ざんしを探し出す必要がある。

 とは言っても、ヒントはこの三枚の脅迫状だけなのよね。

 仕方なしに三枚の切れ端を開き、順に見比べてみる。


 一枚目は先程見せられたばかりの脅迫状。

『コシコウサイヲチュウシシロ!』

 二枚目。


『ソッコクコシコウサイヲチュウシシタリ!』


 三枚目

『チュウシシナケレバカンガエガアル!』


 カタカタで読みづらいけど、どんどんと脅迫めいた内容に変わってきている事がわかる。

 三枚目に至っては、実力行使を示唆しているわけだ。

 どんな考えがあるのかまでは及ばないけれど、あまり良い気はしない文面だ。

 使われているノートの切れ端、新聞紙の切り抜きを貼り付けて文章を作っている所を見るに、同一犯でるのは間違いなさそうだ。

 同時に筆跡を残さないようにしている知能版で有ることもわかる。

 そもそも犯人は何のために腰高祭を中止したいのだろうか?

 私怨?それとも自らの利益のため?

 県立高校の一、文化祭である、腰高祭を中止に追い込んで利益になる場面なんてあるだろうか?

 少なくとも私には思い浮かばい。 

 となれば、私怨である可能性が高いだろう。

 私怨だったとして、誰に、何に、対する私怨が考えられるだろうか。
 

 腰高祭実行委員の誰かに対する私怨、腰高祭そのものに対する私怨。

 去年まで腰高に在籍していて尚且つ、腰高祭実行委員を経験した私だからこそわかる事は、私怨を買うようなイベントではないという事。



 それに腰高祭は二年に一度しか行われない、腰高では、体育祭と腰高祭を隔年で開催することになっている。

 必然的に現二年生は腰高祭をまだ経験していない事になる。

 もしイベントに不快感を持って中止に追い込もうとしている人物が居るとすれば、腰高祭を経験している現三年生に限られる。

 私から見れば一つ下の学年の後輩だ。

 骨は折れそうだけど、顔見知りに聞き込みを行うのも良いかもしれない。

 ……と言うか、それ以外に選択肢は無さそうね。



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