怪談っぽい短編

もに

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魂精

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祖母の話。

春も遅い晩春の、よく晴れた夕暮れ時だった。
その日は姉に連れられて、弟達と畑に来ていた。
すっかり疲れていたので、もう家につく頃には暗くなる時刻なのに、姉はそろそろ帰ると言ってはくれないだろうかとそればかり考えていた。

突然上の弟が声を上げた。
そちらを見ると、弟が顔を真上に上げていた。
つられて空を見上げた。
飛んでいく、光の球が見えた。
青白い火の玉がすうっと尾を引き、空を真っ直ぐ飛んでいく。
(タマセだ…!)
どこに行くのだろう。
ぽかんと口を開けて、木に遮られて見えなくなるまで、ずっと目で追っていた。

名前を呼ばれて我に返ると、姉は嫌そうな顔をして叱った。
「ああいうのはいつまでも見ているものじゃないよ」
気が付けば弟達は姉に取り付き、下を向いていた。
後で聞けば、皆怖かったらしい。
姉はおまえは変な子だと言った。

あの火の玉はタマセというものに違いない。
タマセは人の魂だ。死人が出る家の屋根の上を飛ぶとか、臨終間際に近しい者に会いに行くのだとかいう。
だから自分はきっとあれも……誰かがどこかで死ぬのに違いないと思った。
恐ろしいとは思わなかった。ただとても不思議で、きれいなものだった。

帰るよと姉が言う。自分も己の籠を背負った。弟たちは我先にと駆け出して、もう道のずっと先にいた。
姉の後ろ姿を見ながら歩き出した。
どこか名残惜しさに畑を振り返って、火の玉の飛び去った方向を見上げた。藍色の空に星がぽつぽつと見えるだけだった。

それからしばらく経った頃、戦争に行っていた兄が死んだと報せがきた。
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