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本編
決心
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一瞬周囲が呆気にとられる中、男は青年を立たせて自分の背に隠した。
男の姿を見て、周囲の人間はざわつき出す。
「さっきの使用人!? どういうことだ」
「あの男は仲間なのか!?」
「何故『母』を助けるんだ!!」
その時だった。
「えっ? カ、カーティス? 待って! お願い待って!!」
一人の女の剣士が叫び声を上げ、人の群れを掻き分け、前に出てきた。
「何故あなたがここにいるの? キャンプから魔物を引きはなす囮になってそれきり……。私死んでしまったのかと!」
それは男の顔見知りの傭兵の女性だった。
「エレーナ……」
「あなたも今回の作戦に参加していたのね! でも無事ならどうして連絡をくれなかったの!」
涙声になりながら、女は男の元へ駆け寄った。
「ずっと、ずっと心配していたのよ……!」
「す、すまない」
久し振りに見る知り合いの顔に、男の気が緩む。
「カーティス、そいつに何を言われたのかは知らないけど、あなた騙されているわ。あなたの後ろにいる男は魔物を増やしてる『母』なの。だからそれをこっちに渡して」
「出来ない……」
「え……ど、どうして……? 私の言うことを信じてくれないの? まさか操られて……?」
「あの女は何をやっているんだ!?」
「そいつも一緒に殺せばいい!」
「そうだ! 早くしろ!」
周囲から声が上がる。
男は背中に青年を背中に庇いながら、じりじりと後退した。
自分以外の人間が青年を殺そうとしているのを前にした時、分かった。湖に行っていたとしても、きっと自分は彼を殺せなかっただろう。
青年は怯えて震えながら、男の服の裾を掴んでいる。
(俺はこいつを、守ってやりたい)
「おい、女、諦めろ。あの男はあいつの仲間なんだ」
「そんな……嫌……」
「もういい、あいつも一緒に……」
「止めて!!」
青年が叫び、ゆっくりと男の前に出た。
「ごめんなさい……僕が全部悪いんだ。クロは関係ない。だから彼は許してあげて……」
「ごめんだと! 馬鹿にしてるのか!?」
「どれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ!?」
「家族が生きながら引き裂かれるのを見たんだぞ!?」
「俺の故郷はもう跡形もない……」
人々が口々に青年を責め立てる。
「ご、ごめ、なさ……僕のことは殺していいから……でもクロは助けて……」
「何を勝手なことを!!」
「頼みごとなど出来る立場か!!」
「う、あ………お、お願……します……」
周囲の剣幕に怯えて声を震わせながらも、青年は頭を下げて懇願した。
「クロだけは……っ」
「もういい」
男は青年を再び自分の後ろにやった。
「クロ……」
「これで最後よ、カーティス退いて。正気に戻ってよ……お願いだから……っ!」
(すまない。エレーナ……)
彼らの憎悪は男にも痛いほど分かる。男の中にもあるものなのだから。
人が滅びるのだって見たくはない。
でも自分に青年は殺せない。
ーーーだから。
男は剣を納めなかった。
この状況で生き延びられるわけがない。
どうせ青年に助けて貰わなければあの場から動けずに死んでいた命だ。
だから、自分に彼が殺せないのなら、彼らと戦って、最後は青年と一緒に殺されよう。
『母』はいなくなる。魔物が増えなくなれば、反撃の端緒が開かれ、人類は救われるかもしれない。
それが男に出来る、唯一のことだった。
男の姿を見て、周囲の人間はざわつき出す。
「さっきの使用人!? どういうことだ」
「あの男は仲間なのか!?」
「何故『母』を助けるんだ!!」
その時だった。
「えっ? カ、カーティス? 待って! お願い待って!!」
一人の女の剣士が叫び声を上げ、人の群れを掻き分け、前に出てきた。
「何故あなたがここにいるの? キャンプから魔物を引きはなす囮になってそれきり……。私死んでしまったのかと!」
それは男の顔見知りの傭兵の女性だった。
「エレーナ……」
「あなたも今回の作戦に参加していたのね! でも無事ならどうして連絡をくれなかったの!」
涙声になりながら、女は男の元へ駆け寄った。
「ずっと、ずっと心配していたのよ……!」
「す、すまない」
久し振りに見る知り合いの顔に、男の気が緩む。
「カーティス、そいつに何を言われたのかは知らないけど、あなた騙されているわ。あなたの後ろにいる男は魔物を増やしてる『母』なの。だからそれをこっちに渡して」
「出来ない……」
「え……ど、どうして……? 私の言うことを信じてくれないの? まさか操られて……?」
「あの女は何をやっているんだ!?」
「そいつも一緒に殺せばいい!」
「そうだ! 早くしろ!」
周囲から声が上がる。
男は背中に青年を背中に庇いながら、じりじりと後退した。
自分以外の人間が青年を殺そうとしているのを前にした時、分かった。湖に行っていたとしても、きっと自分は彼を殺せなかっただろう。
青年は怯えて震えながら、男の服の裾を掴んでいる。
(俺はこいつを、守ってやりたい)
「おい、女、諦めろ。あの男はあいつの仲間なんだ」
「そんな……嫌……」
「もういい、あいつも一緒に……」
「止めて!!」
青年が叫び、ゆっくりと男の前に出た。
「ごめんなさい……僕が全部悪いんだ。クロは関係ない。だから彼は許してあげて……」
「ごめんだと! 馬鹿にしてるのか!?」
「どれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ!?」
「家族が生きながら引き裂かれるのを見たんだぞ!?」
「俺の故郷はもう跡形もない……」
人々が口々に青年を責め立てる。
「ご、ごめ、なさ……僕のことは殺していいから……でもクロは助けて……」
「何を勝手なことを!!」
「頼みごとなど出来る立場か!!」
「う、あ………お、お願……します……」
周囲の剣幕に怯えて声を震わせながらも、青年は頭を下げて懇願した。
「クロだけは……っ」
「もういい」
男は青年を再び自分の後ろにやった。
「クロ……」
「これで最後よ、カーティス退いて。正気に戻ってよ……お願いだから……っ!」
(すまない。エレーナ……)
彼らの憎悪は男にも痛いほど分かる。男の中にもあるものなのだから。
人が滅びるのだって見たくはない。
でも自分に青年は殺せない。
ーーーだから。
男は剣を納めなかった。
この状況で生き延びられるわけがない。
どうせ青年に助けて貰わなければあの場から動けずに死んでいた命だ。
だから、自分に彼が殺せないのなら、彼らと戦って、最後は青年と一緒に殺されよう。
『母』はいなくなる。魔物が増えなくなれば、反撃の端緒が開かれ、人類は救われるかもしれない。
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