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本編
プロローグ
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「うわあああああっ!!」
一人の男が必死に逃げ惑っていた。
男は傭兵として数々の戦いを渡り歩いてきた。とはいえ傭兵となったのは、そう昔のことではない。
世界が変わってしまってからーー彼はそれまで生計としていた冒険者ではなく、戦場に赴く傭兵になった。といっても、相手は人間ではない。相手は現在の世界を蹂躙している『魔物』たちである。戦う力を持たない者もいる中で、元から剣を扱える自分が少しでも役に立つならと、男は戦いに在ることを選んだ。
何年もの戦いの日々の中、彼は実力も経験も歴戦の戦士といえるまでになっていた。
そんな男だったが、今は完全に追い詰められていた。
「くそっ……! あんなのがいるなんて聞いてない!」
逃げる男の後ろからは、巨大な異形の存在が迫ってきていた。
ずんぐりとした芋虫のようなフォルムに、体にある無数の突起物からは不定期的に緑色の粘液が噴出していた。大きさは小山ほどもあるかと思われた。
その姿の悍ましさという点において、現在の世界を蹂躙する魔物たちの一番の共通項を、この生物は備えていた。
いつからか現れ始めたか『魔物』は、瞬く間に数を増やし、人類の天敵となっていた。
それまでにも魔物と言われる存在はいた。だが、狂暴な生態を持つ獣である魔獣や、自然界の動植物が瘴気の影響を受けて変貌したクリーチャーを指していたのであって、こんな人の理解を越えた悍ましいものではなかった。
これらの魔物たちは、太古の昔にこの世界との扉が完全に閉ざされたはずの、異界の存在の似姿だった。
やがて多くの研究者や魔術師たちの調査により、まさに“それそのもの”であるとの結論が出された。奴らは本来とは違う『扉』を通って来たのだと。
魔物たちによって老若男女多くの人間が死に、都市は破壊された。
最初のうち、大陸の国々は協力して、魔物たちを駆逐しようとした。有史以来初めて一枚岩となった人類は優勢だった。
だが三年前、突如復活した古き言い伝えにある『邪なる神』により、人類の敗走が始まった。『邪神』の前ではあらゆる抵抗は意味をなさなかった。なす術なく、人という種は滅ぼされようとしていた。
男の武器である剣も、すでに折れていた。逃げ回るうちに他の仲間ともはぐれてしまった。
いずれ死ぬのが遅いか早いかの違いだけ。一瞬諦めが心をよぎるも、男は走り続けた。今自分が足を止めるわけにはいかなかった。
魔物の襲撃を受けた避難民のキャンプから魔物を遠ざける役割を負ってここにいるのだから。
しかし無情にも男の前に現れたのは、先のない崖だった。
「ここまでか……」
絶望の中、それでもただ死を受け入れたくはなかった。彼は追い詰められた崖から、その下の急流へ身を踊らせた。
一人の男が必死に逃げ惑っていた。
男は傭兵として数々の戦いを渡り歩いてきた。とはいえ傭兵となったのは、そう昔のことではない。
世界が変わってしまってからーー彼はそれまで生計としていた冒険者ではなく、戦場に赴く傭兵になった。といっても、相手は人間ではない。相手は現在の世界を蹂躙している『魔物』たちである。戦う力を持たない者もいる中で、元から剣を扱える自分が少しでも役に立つならと、男は戦いに在ることを選んだ。
何年もの戦いの日々の中、彼は実力も経験も歴戦の戦士といえるまでになっていた。
そんな男だったが、今は完全に追い詰められていた。
「くそっ……! あんなのがいるなんて聞いてない!」
逃げる男の後ろからは、巨大な異形の存在が迫ってきていた。
ずんぐりとした芋虫のようなフォルムに、体にある無数の突起物からは不定期的に緑色の粘液が噴出していた。大きさは小山ほどもあるかと思われた。
その姿の悍ましさという点において、現在の世界を蹂躙する魔物たちの一番の共通項を、この生物は備えていた。
いつからか現れ始めたか『魔物』は、瞬く間に数を増やし、人類の天敵となっていた。
それまでにも魔物と言われる存在はいた。だが、狂暴な生態を持つ獣である魔獣や、自然界の動植物が瘴気の影響を受けて変貌したクリーチャーを指していたのであって、こんな人の理解を越えた悍ましいものではなかった。
これらの魔物たちは、太古の昔にこの世界との扉が完全に閉ざされたはずの、異界の存在の似姿だった。
やがて多くの研究者や魔術師たちの調査により、まさに“それそのもの”であるとの結論が出された。奴らは本来とは違う『扉』を通って来たのだと。
魔物たちによって老若男女多くの人間が死に、都市は破壊された。
最初のうち、大陸の国々は協力して、魔物たちを駆逐しようとした。有史以来初めて一枚岩となった人類は優勢だった。
だが三年前、突如復活した古き言い伝えにある『邪なる神』により、人類の敗走が始まった。『邪神』の前ではあらゆる抵抗は意味をなさなかった。なす術なく、人という種は滅ぼされようとしていた。
男の武器である剣も、すでに折れていた。逃げ回るうちに他の仲間ともはぐれてしまった。
いずれ死ぬのが遅いか早いかの違いだけ。一瞬諦めが心をよぎるも、男は走り続けた。今自分が足を止めるわけにはいかなかった。
魔物の襲撃を受けた避難民のキャンプから魔物を遠ざける役割を負ってここにいるのだから。
しかし無情にも男の前に現れたのは、先のない崖だった。
「ここまでか……」
絶望の中、それでもただ死を受け入れたくはなかった。彼は追い詰められた崖から、その下の急流へ身を踊らせた。
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