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69・私も謎の生命体2号になった…
しおりを挟む確実な情報は、ルードと神獣お爺ちゃんが戻って来てからになりそうだと言うことで、私は野良作業を続けながら、約束だった古の神との話をした。その流れで召喚陣破壊の話になると、アレクは左手中指に嵌めた指輪をいじりながら、黙って頷いていた。
さて、と声をあげて立ち上がり、腰を伸ばしてからアレクの前に仁王立ちした。
お酒を飲みつつ、ずーっと手慰みにしている指輪が気になって気になって。
「結局、それってなんだったの?」
「魔剣…」
「え?」
「魔剣!」
「は?」
「だから!魔剣だと言っている!」
私は、アレクを睨んだ。
こっちは礼儀を守って覗き見しないでいたのに、本人は冗談を言うし!
「だからな、魔剣なんだよ。ほれ!」
困惑ぎみの苦笑で私を見て、指輪がはめられた左手をふらっと振った。すると、指輪がゆるゆると形を変えて行き、両手剣が右手に握られていた。相変わらず、両手剣を軽々と片手で握って掲げて見せる。
私は思わず呆気にとられ、その剣をまじまじと観察した。
勇者の剣に負けず劣らずの巨大な剣だった。けれど、勇者の剣とは違い、少しの飾りもなく素朴で武骨。しかし刀身の表面はなめらかで、刃は顔が映るほど磨き上げられている。でもそれは、勇者の剣のあの冴え冴えとした冷酷な輝きと違い、あくまで愚直な名工が真っ正直に打ち磨いた究極の剣だった。
「…魔剣と称するのが似つかわしくない逸物ね」
「ああ、勇者の剣とは正反対だぞ。あっちは何物も切り捨てる!だったが、こいつは柔も剛も受け止め、同じだけ切り返す。で、刃こぼれも傷も受け付けねぇ」
「ん~~これ、魔剣って言うより、神剣?なんじゃないかしら?」
「はぁ!?しんけん!?」
「だって、リューを通じて神様が下さったんでしょう?なら神剣じゃない?…まぁ、引き篭もりのお年寄り神様だけどね…」
ぼそりと後ろに付け加えたのは、私の本心。聞こえていないのを祈りながらだけど。
私の意見にいまいち納得がいかないのか、アレクは不機嫌な仕草で剣を指輪に戻し、どかりとカウチへ腰を落とし、私を睨みつけて来た。
剣の批判をした訳じゃないのに、神の剣だって言っただけなのに、なにが気に入らないんだっての!
「俺の剣はともかく――ーあんたもリュースも一体何なんだ?この間は【偽装】かと思っていたんだが、あれ以来そのままだし…。」
そうなのよ。魔法使いのお婆さんになってしまって以来、【偽装】で髪や目の色を変えるのを止めてしまっていた。いつもお化粧するように、その日の気分でこの平らな顔に似合う色にしていたのにだ
「これは今の私そのままなの。それにね、この大陸や世界や空の向こうのことまで知ってるの。で、―――あの外道が眠っている場所まで見当がついてね…」
女神と神の神力が私の中で融合した瞬間、私の脳みその一部分が開放された。
どうも学術的に言われている『使われていない脳』の部分みたいで、知らないことを知ろうとすると、どこからかそれに関する知識が送られてくる仕組みのようだった。
なんだろう…宇宙のどこかにブラックボックスの様な叡智が詰まった箱があり、そこと私はとても細々とした頼りない線で繋がれている様な感覚がある。
でも、意識的にその中を覗こうとしてみたが、まだ力が足りないのか拒絶を喰らって意識を失った。ベッドに入ってから試してみて良かった~と、この時は気絶したまま寝入ったんだけどね。
まあ、そんな具合で、もしかしたら見つけられるかな?とこの世界中のありとあらゆる場所を検索してみたら、見つけましたよ。不老不死の大魔導師様を。まだ安らかな眠りの中におられてラッキー!
「どこにいる!?」
「そーれは秘密。まだ寝た子を起こしたくないのよ。リリアの父親なのか、全く別の人なのか分からないけれど、その人に会ってみたいの」
「あの…大魔導師を見つけたように、そいつを探すことは?」
「無理。私の能力はね、この世界や空の果てにある全ての物についての知識があるの。でもその中から何かを探し出すには、対象をはっきりと認識しないとダメなの。例えば、姿形や本当の名前。対象の持つ魔力や気。それら条件を知識の中の物に照らし合わせて、最後に残った物がそれだと分かるの」
「しかし、魔導師は見つけたんだろう?名を知っていたのか?」
「いいえ。人が生きて眠れるはずのない場所に、奴は横たわっている。人を探したんじゃなく、世界中の地面を調べたの。他人が寄れない、人工的な建物の中じゃない、通常なら生きていられない、そんな場所」
なんでも思いつけば、パパっと答えが浮かんで来る訳じゃない。ブラックボックスは言わばデータベースであり、私は末端機器だ。私から条件を入力し、森羅万象と言われる能力が働いて自動で選別してくれる訳。ただ、一つの情報を得ると、そこに紐づけができて、関連する知識が付随されてくる。
神の手による宇宙規模の検索サイトだ。こわいっ!
「名前なら…分かる。調べて来る」
「うん…無理はしないでね」
飲み切った空瓶を転がしたまま、アレクは座った姿勢のままで消えた。
「もーーーーっ!かたずけて行ってよ!!」
手を洗ってデッキに上がり、仕方なく始末を始めた。
リュースに説教されるのは、もういやですから!
さて、そのリュースだけれど、コーヒーの営業以外の時間はほとんど古の神の大陸へ行っている。そして容姿の変化も凄まじかったけれど、能力もただの魔力の多い人族ではなくなった。彼は、魔力だけじゃなくて、エンデが言っていた通りに妖力も使える万能者になっていた。
古の神は、彼を「半妖半神」と言っていたが、ではなぜ魔力が使えるのか。
それは、彼らが新たな神に改変されてしまった上に、先祖の婚姻によって人族の血が何代にも渡って入ってしまったから。
そこが、人族の血を引きながらも、魔力を貯蔵する仕組みしか持たず、妖力のみしか使えないリリアと違う部分らしい。
私自身も含め、謎の生物大集合に困惑中だわ。
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