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違う結末
しおりを挟む二度目ともなると、それなりに冷静になるようだ。観衆の騒ぎ声がどこか遠くに聞こえる。
馬車から降り立つと、数人の兵士に囲まれる。役人の男が罪状を読み上げ、後ろ手に縛られる。
髪を切られながら、エリザベスは空を仰いだ。あの時、季節は春だった。恐怖でどんな天気だったのかは覚えていない。今は、澄み切った空だった。冬にしては暖かい日で、小春日和と言えた。
切り落とされた髪が、地面に広がっている。アーサーが美しいと言ってくれた黒髪。こうしてみると確かに、艶めいてきれいに見えた。
処刑台に上がるまでを、エリザベスは誰の助けも借りずに一人で歩いた。胸を張って、最後くらいは王妃としての意地を見せてやろうと思った。
処刑台に上がる階段の前に、女が佇んでいた。侍女を従えたその女は、モラン侯爵夫人アンナだった。エリザベスが近くに来ると、卑下するような笑みを見せた。
「たかが伯爵の娘が。陛下を愚弄するような真似をして。恥を知りなさい」
前とそっくり同じ言葉。なんだかおかしくてエリザベスは笑った。
「何がおかしいのよ!」
憤慨するアンナを無視して階段を上がり壇上に登る。
ひざまずいて置かれた台に頭を置く。
処刑人が、エリザベスに向かって斧を構える。エリザベスは目を閉じて、一つの希望を抱く。
死んだらまた時を遡って、今度こそ──
鳴り響く大きな音。あまりの大きな音と振動で、エリザベスは目を開けた。
観衆の悲鳴。処刑人も何事かと騒ぎ立てる。
思いがけない騒ぎに思わずエリザベスも体を起こした。そして見つける。
その姿を、見逃さなかった。
「エリザベス!!」
手を伸ばすその姿を、見間違えるはずが無かった。
「リズ!」
──アーサー、その人だった。
突然の騒ぎに、誰も直ぐには動けない。またたく間に彼は柵を軽々と飛び越え、エリザベスが歩かされた通路から走り寄ってくる。
「侵入者よ!早く始末して!」
アンナが叫ぶ。数人の兵士がアーサーの元へ。エリザベスも叫んだ。
「止めて!彼は国王陛下よ!」
「気でも狂ったの?」アンナは嗤う。「あんなのが王なわけ無いじゃない」
変装のためか、彼は黒髪にしていた。それだけじゃない。彼は、彼の腕は──片腕しかなかった。
「あれも、アンタの男ってわけね。見境ないのね。恐れ入ったわ」
アンナは鼻で笑うと、処刑人を呼んだ。
「何やってるの。早く処刑しちゃいなさいよ。この後、陛下とお茶会なの。時間を取らせないで」
声を受けて、処刑人がエリザベスの髪を掴み、台に顔を押し付けた。抵抗しようにも力が強く、全く動けない。
「いや!離して!」
ここまで来て死ねない。死にたくない!必死に抗っても、台に押さえつけられた状態から逃げ出せない。
「あっはっは!無様ね!その顔、見ものだわ!早く首だけになってみんなに見てもらいましょう!」
別の処刑人が再度、斧を構える。鈍く光って、エリザベスは最後まで、アーサーの名を叫んだ。
──血しぶきが上がる。斧を落として、処刑人は倒れ込んだ。
「リズ!!」
悲鳴混じりの声がエリザベスをかき抱く。確かな温もり。彼の体温。エリザベスは確かな現実に涙した。
「ああ…アーサー…!アーサー!!」
背中に回された腕。強い力だった。エリザベスも応えるように力一杯に抱きしめた。離すまいと、この人にしがみついた。
涙が止めどなく溢れた。止まらなくて、この瞬間が永遠だった。
大丈夫。囁きが聞こえる。
喉が震えて、エリザベスはただ頷くことしかできなかった。
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