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新たな侍女1
しおりを挟むアーサーがやって来て、寝ているセシルを引き取る。ちょうど知らせがやって来て、三人で謁見の間へ向かった。
お披露目、ということもあり何人かの貴族たちが既に待っていた。セシルはアーサーの腕の中で、全く起きる気配がない。将来、大物になりそうだ。
謁見の間の奥の壇上には、既に王と王妃が玉座に座っていた。同席する貴族たちの挨拶を終えて、あとは皇太子一家の挨拶を残すのみ、というタイミングらしい。
アーサーの礼に合わせてエリザベスも倣う。アーサーの後ろに控えていたエリザベスは、小さな足が見え隠れするのを微笑ましく見ていた。
王の許しを得て顔を上げる。隣に座る王妃は、何も後ろめたいことなど無かったかのように、微笑んでいる。
「まぁ可愛らしい孫だこと。私にも抱かせて頂戴」
と言う王妃に、アーサーもいつもの冷笑じみた笑いをする。
「難しい子で、悪意ある者が抱くと泣き出して手がつけられなくなります」
「私に悪心があるとでも言うの」
「試してみますか?」
「皆がおる前でよさぬか。二人とも見苦しい」
取り成しをしたのは陛下だった。アーサーは、ご無礼しましたと言ったが、ちっともそうは思っていない顔をしていた。
「アーサー、皇太子として、皆の見本にならねばならない。母親といがみ合っているようでは、規範は示せぬぞ」
「──は。陛下に従います」
「王妃、王宮へ戻ったのだ。孫を可愛いと思うのなら、分かるな?」
「勿論です陛下。侍女の管理は徹底します」
ニセ金の件は、侍女の仕業ということになっていた。そのせいで一人の罪無き侍女が責を負い投獄されている。近いうちに密かに釈放し、それなりの待遇で外国の貴族に嫁がせる手筈となっている。
「ですから、新しい侍女はやはり身内から出したほうが良いかと思いまして、私の実家から呼び寄せましたの」
王妃の言葉に、陛下は何?と目を丸くする。
「聞いておらぬぞ」
「陛下を煩わせたくなかったのです。──これへ」
王妃の声がけで扉が開く。そこには、一人の女性が立っていた。ゆっくりこちらに近づいてくる。年は、同じくらいだろうか。腰まで伸びた金の髪。白の装飾の殆どないドレスに腰に巻かれた赤のリボン。シンプルな装いだが一目でどれも上質だと分かる。
何より、そこにいる誰もが息を呑んだ。アーサーですら、驚きの眼差しを見せた。
彼女は、アーサーに瓜二つだった。
「私の姪ですの」
王妃の言葉に、我に返る。姪、ということはグレア国の者だ。アーサーは確かに母親似で王妃に似てはいるが、この姪は双子のようにそっくりだ。身長も同じくらいだから、髪の長さ以外は、全てが同じだった。
姪がアーサーとエリザベスの前に歩み寄ると、にっこりと微笑んだ。それから壇上の両陛下にも笑みを向けて、うやうやしくカーテシーの礼を取る。
「お初にお目にかかります。グレア国より参りました、ローズマリー・ウォーレンです。お見知りおきを」
声も心なしか似ているように思えた。ただ性別が異なるだけ。鏡写しのようだった。
「影武者ができそうだな」
言ったのはアーサーだった。ローズマリーは人目も憚らず大笑いしだした。思わずびくりと体を震わせるほどの大声だった。思わずセシルが起きるのではと思ったが、大物の彼は熟睡し続けている。
「光栄ですわ殿下。命を狙われる危険があるのでしたら喜んで身代わりになります」
「女に守ってもらうのは癪だ」
「でしたらご政務を代わりに」
「いいなそれ」
二人して笑い合う。取り残されたエリザベスはぽかんとした。ずいぶん気心が知れている様子。知り合いなのだろうか?にしては、さっきはアーサーも驚いていた。
「打ち解けてくれてうれしいわ」と王妃が言う。「ぜひ姪とも仲良くしてやって頂戴ね」
「よろしくお願いします殿下。妃殿下も、どうか私を嫌わないでくださいまし」
屈託のない笑み。悪意のない分、笑顔はセシルに似ていた。でも何故だろう。エリザベスはこの人を怖いと思った。
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