15 / 63
理由
しおりを挟む殿下がしばらくやって来ない。
聞けば、隣国で起こった革命で大わらわだという。
エリザベスが滞在していた隣国とは違う国、ダッカン国での出来事だった。
何でも、皇帝一家が乗る馬車に爆弾が投げ込まれ、暗殺される事件があったという。
それがきっかけとなり民衆が蜂起し、今の貴族体制を倒そうという暴動が起きているという。
子の世話で手一杯で、親ともまともに話していなかったエリザベスは全く知らなかった。
「革命だと、その国の者たちは言っているそうです」
朝食を運んでくれた使用人がそう言った。彼女は支度を終えるとさっさと部屋を下がった。
エリザベスはここ数日の新聞を取り寄せた。
一番古い日付から見ていくと、爆弾による暗殺事件から、犯人の逮捕、処刑。皇帝の弟が即位したものの、民衆の不満が爆発し、王宮へ押しかけたという記事。民衆の議会への参加、貴族たちの反発。軍隊が民衆に発砲。見れば見るほど悪い方向へと向かいつつあった。たった一ヶ月の出来事だ。
他所の国の話だが、一番の問題は、民衆が王権を打倒しうる存在だと、自覚させてしまうことだろう。
エリザベスはこの事件を知っていた。前の時も同じことが起こっていた。時期も同じ。ちょうど夏の今頃だったと記憶している。
結末は知らない。その前に処刑されていたから。
すっかりこの出来事を忘れていたのは、セシルを産んでいたから。
前の時よりも一年早く身籠り、出産した。眼の前のことに必死で、それどころじゃ無かった。
明日は我が身かもしれないが、憂えても仕方がない。気にはなるが大きな波には逆らえないものだ。殿下がやって来ない理由が知れただけで十分。エリザベスは新聞を折りたたんだ。
殿下が突然やって来ると、こんなことを言った。
「王宮に行くぞ」
直ぐに支度しろとも言う。エリザベスは動かなかった。
「行くわけ無いでしょう」
「お前のせいで大変なんだ。さっさと来い」
「私はセシルを産みましたが、別に貴方の妻になったわけじゃありませんよ」
「俺の温情でここに住まわせてやってるんだ。少しは俺を助けろ」
尊大な態度ですこと。エリザベスはベッドで眠っているセシルを見やった。
「私ごときがお助け出来るとは思えません。他の方を頼ってください」
「ぐだぐだうるさいな」
「あ…きゃ…!」
殿下はエリザベスを抱き上げた。有無を言わせず部屋を出て屋敷を出て馬車に投げ込まれる。したたかに腰を打ち付ける。殿下も乗り込んできて、扉を閉められる。
馬車が走り出して、揺れる車内でエリザベスは殿下に怒りを向けた。
「セシルを置いていけません!私を降ろして!」
「母君がいるだろう。いつまでも一人占めしてないで、孫の世話をさせてやれ」
「なんなんですか貴方は。私に何をしろというのですか」
「俺の妻だと紹介する」
「お断りです」
「別の女を紹介されて困っている。お前を連れていけば母上も納得するだろう」
「良かったじゃありませんか。他のお方を迎えてください」
「セシルを庶子にするつもりか」
エリザベスは黙った。庶子の身分ほど悲しいものはない。愛しい我が子に、後ろ指を指される人生を歩ませたくはない。
しかしこの件に関しては疑問もあった。
「どうして、私の子でなければいけなかったんですか」
「セシルに会うためだ」
「…?分かりません。どういう…」
「前の世界では、お前は私の妻となりセシルを産んだ。
沈黙が落ちる。エリザベスは、その言葉を反芻した。それから口元に手を当てた。
「まさか──」
「お前と同じ、時を遡った者だ」
殿下は足を組んで笑みを浮かべた。
68
お気に入りに追加
3,071
あなたにおすすめの小説
【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします
リオール
恋愛
私には妹が一人いる。
みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。
それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。
妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。
いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。
──ついでにアレもあげるわね。
=====
※ギャグはありません
※全6話
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。
112
恋愛
皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。
齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。
マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる