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回復と願い
しおりを挟むもう二度と会うまいと思っていたのに。まさかこんなところに殿下がいるなんて。エリザベスは療養についてきたことを後悔した。
前とは違う人生を歩むための一歩として、母の生還を望んだ。その選択に間違いは無いと思っている。だが、選択したことで新たな「きっかけ」が生まれてしまうのはどうしても避けたかった。
その日からエリザベスは隠れるように過ごした。厨房の出入りは止めてずっと母と一緒にいた。部屋は幸い一日過ごしても平気なくらい広く、バルコニーもあった。朝食はそこで食べることもあった。
「リズ、ずっと私と一緒にいなくていいのよ?偶には外にでも遊びに行ってきたら?」
「何言ってるの母さま。母さまのお世話するために来てるのよ」
寒いだろうと母の肩に上着をかける。標高が高いから、夏が終わるとグッと気温が下がる。秋など無くて、直ぐに冬の季節になる。
「外は寒いもの。ここから見える景色を眺めているだけで十分」
「そう?母さんも貴女がいてくれるから寂しくないけれど」
母の話を聞きながら、ふと気づく。
そういえば、殿下はどうしてこの療養所に来たのだろう。
前の時は出会ったのが十八の時だった。だから自分がそれまでの殿下を知らないのは無理もない。
殿下も、何かの病なのだろうか。
体が悪そうには見えなかった。そんな事まで観察する余裕が無かったのも事実だったが。
「リズ?どうしたのボーっとして」
「…ううん。母さま、寒くない?」
「大丈夫よ。リズこそ風邪引かないようにね」
頷きながら、肩に寒さを感じた。殿下の事は気になるが、だからといって自分から調べようとは思わなかった。今は母の病気を治すのが一番。エリザベスは僅かに開けていた窓を閉じた。
療養期間の一ヶ月で、母は無事に病を癒やすことができた。まだ初期症状だったから見た目は普通に健康なままだった。
滞在の最終辺りは、外出もした。殿下の件があったから警戒したが、幸い遭遇せずに済んだ。
無事に静養を終えて、帰宅の途につく。帰りの馬車に揺られながら、エリザベスは第一に母が生き延びてくれたことを喜んだ。ともに安堵した。この調子で、自分もこれから生き延びなければ。
何としても皇太子からの求婚を回避する。まだ八年は先のことだが、あっという間にその時はやって来る。それまでに出来ることはしておかないと。エリザベスは決意を胸に秘めた。
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