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二章(ガートルード視点)

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 遅れて追いついてきた衛兵の胸ぐらをつかむ。

「マリアンヌはどこだ!?」

 衛兵は怯えながら、ここには居ないと答えた。

「どこにいる!答えろ!」
「…す、既に…」

 血の気が引く。その次の言葉を聞きたくない。

「王宮にお戻りになられました」
「……おうきゅう?」
「は、はい。マリアンヌ様は、こちらの牢獄に入られておられたのですが、直ぐに王家の使いの者がやって来られて王宮にお戻りになりました」

 戻った、のか?そんな報告は受けていない。そう言えばウィレムが傍にいないのに今更気づいた。いつからいなくなっていたのだろうか。


 急いで王宮に戻る。ウィレムは何処だと従僕に探させると、使用人部屋に待機しているという。

 ガートルードが戻った部屋には、既にエリザベスは姿を消していた。『魅了』が使えないのだ。もう脅威でも何でもない。

 ウィレムを呼ぶ。しばらくしてやって来たウィレムは、顔を腫らしていた。

「マリアンヌを知らないか」

 顔の腫れは気にはなったが、先にマリアンヌに関して問う。王家の使い者が、ということであれば他にもいたが、今回は何となくウィレムだと思った。

「陛下がマリアンヌ様の処刑を命じられましたので、秘密裏に逃がしました」
「逃がした…生きているのだな?」
「はい。私が監獄へ赴きますと、何故かマリアンヌ様は自力で脱出なされていて、馬が欲しいと仰られたので、ご用意しました」

 ウィレムは頬が痛むのか眉毛を寄せていた。今は構ってられない。

「何処かへ駆けたって、どこへ行ったんだ。獄の衛兵は王宮に戻ったと言っていたが」
「脱獄したと知られれば大問題です。最初は衛兵たちに知らないと言っていたのですが、顔を殴られたので咄嗟に王宮に戻ったと伝えました。その後の追及を逃れるため、怪我の手当ても兼ねて一時的に使用人部屋に戻っておりました」

 王宮に戻ったというのは嘘。ということは今は行方知れずとなっている。

「陛下の処刑の同意書は破り捨てました。万が一のことがあっても、エリザベスを退けられた今、たいして問題にはならないかと」

 気休めを言う。もはやガートルードの問題はそこではなかった。
 マリアンヌが監獄を抜け出して行方知れず。どこにいるのか手がかりが全くない状態。

「大問題だ」

 ガートルードは足が震えて片膝をついた。どこに行った。王宮を出て、一人で。どこに行こうというんだ。急いで探さないと。

「マリアンヌは何か言っていなかったか」
「捜索隊を出しますか?」
「いや、近づけば見つけられる。その手がかりがほしい」
「殿下自ら探しに行かれるのですか?」

 まさか、という顔でウィレムに詰め寄られる。そのまさかのつもりだった。

「マリアンヌ様は、私にただ礼を言って去ってゆかられました。手がかりになるようなことは何も」

 残念そうなウィレムの言葉に、ガートルードも肩を落とす。手がかりが無い以上、探しようが…。

 ──シーズンが終わります。父と共に領地に帰ろうかと思います。

 その言葉が降ってくる。ガートルードはハッとして顔を上げた。

 馬で駆けていった。馬ならば、上手に休憩を取れば領地へも最短で5日で戻れる。

 領地に帰ろうと言っていた。季節は冬。極寒の地ともいわれるブランシェット家の領地は、王都に住む者には辛い。

 だがそこに、マリアンヌがいる確信があった。冬に閉ざされた世界。一人で立つマリアンヌの姿が見えた。

「殿下?」

 ウィレムの呼び止めも利かず、ガートルードは走る。もう決して離れない。失わない。最愛の人に会いに、ガートルードは駆けた。 



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