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三章
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しおりを挟む「やけにならないでください」
「正気だ。私は今ここに来て一番に冴え渡っておる」
額を突き合わせる。レイフは肩を押して離れた。
「汚れます」
「別の話題にはいかせまいぞ。私の首を切っておくれ」
「馬鹿言わないでください」
いつもレイフに馬鹿と言う立場だったのに、逆転した。言われると腹が立つ。アーネストはもう一度、肩を引っ張って額をぶつけた。ごつんと当たってなかなかに痛かった。
「止めてください」
「そなたが了承するまで離れんぞ」
「傷に当たって痛いんです」
「おっとすまん」
怯んだ隙をついて、レイフは拘束から逃れてアーネストから距離を取った。腕を掴もうとしても、ひょいと逃げられる。
「こら逃げるな」
「唐突になんですか。理由があるなら説明してください」
「いつオスカーが来るともしれんのに説明できるか。さっさと切れ」
レイフは思いっきり顔をしかめた。そんな人間らしい顔が出来たのか。感心した。
人間らしさを見せたレイフに譲歩してやるか。
「では手短に話すが、首を切られると魔法が使えるようになるのだ。だから切ってくれ」
「首を切ったら死にます」
「直ぐ繋げる。問題ない」
「切った時点で死にます」
「切った後でもちょっとは生きている。そのちょっとで繋ぐから」
待ってください、とレイフは頭を振った。
「首を切るというのは切り落とすという意味ですよね」
「今更何を言っている。その話をしておるのだぞ」
「では首を切り落としたとして、どうして魔法が使えると断言出来るのですか」
「実際に使ったからだ」
意味が分からない、という顔をされる。
「一度目も二度目も私は斬首された。首が地に落ちて跳ね、最後はそなたと目が合って私は死んだ」
「ええ、よく覚えています」
「あの瞬間、私はレイフに術式を刻んだのだ」
「私に?自覚がありません。それに術式を刻んだのなら、ボーテ様のように胸に魔法陣が残るのでは?私にはそんなものありません」
「そなたの瞳だ」
レイフは目をぱちくりさせた。こんなに驚いているレイフを見れて、アーネストは少し気分がよかった。
「目が合ったあの時に、術式を刻んだ」
「瞳に施せるものなのですか?信じられません」
「私も今は魔力を封じられておるゆえ、そなたの瞳に魔法陣があるかどうかは判断出来ない。だが、私が術をかけなければ、すべての辻褄は合わなくなる」
「すべての辻褄、ですか」
「全てを話すには時間が無い。終わったら全部話そう」
アーネストはボタンを外して、首を晒した。それを見て、レイフは待ってくださいと止めた。
「そなたも腹を決めよ。私を信じろ」
「信じられません」
「レイフが首を落としたらまずブレスレットを砕く。そのまま繋げた所で意味がないからな。そなたはブレスレットが砕けたら、首を繋げてくれ。あとは回復魔法でくっつけるから」
「簡単に言わないでください」
「首を切り落とすのは相当な技術がいるそうだが、レイフなら簡単だろう」
「無理です。今まで黙っていましたが、血を流しすぎました。手が震えて、まともに剣を振れません」
「レイフ」
剣を持たせる。指を折って柄を握らせる。
「そなたに首を切られたいと前々から思っていた」
「……………」
「あの処刑人、腕は良かったが顔が悪すぎる。三度目の正直だ。切られるならレイフに切られたい」
「……前々から思っていたのですが」
「うん?」
「アーネスト様って人たらしですよね」
「そうか?」
「陛下といいボーテ様といい貴方に関わった人は皆おかしくなります」
あの二人は特異な例だと思うのだが。二例あるだけでも多過ぎるのか。
「ではそなたはどうだ?おかしくならんのか」
「自覚はありませんけど」
「けど?」
「切ってやろうかなと思うくらいには、傾いています」
アーネストは手を叩いた。
「よし来た!さぁ切ってくれ!」
大喜びで首を差し出すアーネストに、レイフのため息が聞こえてきた。
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