【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

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三章

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「アーネスト様、こちらを」

 立ち直りが早かったイエローが、骨の中から翡翠の玉を見つけ出してきた。魔力はあるが術式が苦手なイエローが、それなりに解析してみせた。

「術式が刻まれております」
「その球体で骨から一人の人間を作り出していたのか。凄いな」
「感心している場合ではありません!アネモネが最初から死体だとすれば、婚姻させるつもりなどさらさら無かったということになります」

 そういうことになる。罠だった。であれば──

「──既に兵士たちが取り囲んでおるやもしれんな」
「アーネスト様!この場は早くお逃げください!」
「言われんでもそうするつもりだ。レイフ、イエローを縛っておけ」
「…なっ、アーネスト様!」
「分かっておるだろう」

 イエローにはオスカーの魔法陣が刻まれている。本人にその意思が無くとも、オスカーの意に従うようになっている。剣はアーネストが取り上げたものの、素手でも強すぎるこの剣士に立ち向かえる者は、今この場にはいない。
 レイフはブレスレットの術式を消せなかった。これから逃避行するには致命的過ぎるが、それでもやるしかない。

「縄がありませんから無理です」

 緊張感の無いレイフが言う。アーネストは肩を落とした。一刻も早く逃げなければならないのに。

「そこのテーブルクロスで縛っておけ」

 祭壇の前に設けられたテーブルには、婚姻証明書が置かれていた。あれに名を書いていたら今頃どうなっていたのだろうか。死体と結婚させられそうになっていたアーネストはゾッとした。

 イエローは抵抗することなく拘束された。後ろ手に縛られたイエローが両膝をつく。

「アーネスト様、こうなってはもう隠すつもりはございません。裏切った理由を今、お話します」
「いや時間無いから後で聞く」
「最期ですから!」

 最期とか縁起の悪い。せめて後生ですからとかにして欲しかった。

「クレア様です」
「クレア…?」
「ロッド侯国の侯女クレア様です」

 全く思いもしない名前だった。何故いまここで?と思ったくらいだ。

「私の婚約者ではないか」

 元、だ。アーネストが監獄に入れられた時点で、婚約破棄されていた。無事に生き延びてからも、向こうからも音沙汰が無いので存在すら忘れていた。ちなみに一度も会ったことが無い。

「まさか、ロッド侯国が私を捕らえた黒幕だったのか?」
「違います。かの国は何の関与もしておりません」
「なら何故、彼女の名前が出てくる」
「それは──」

 じゅ、と何かが焼ける音がする。

「かっ…はっ…」

 イエローが仰向けに倒れる。焦げ臭い臭い。その喉元が、小さな丸を作って焼け爛れていた。

「縛りに触れたから、魔法陣が発動したのだ」
「どうすれば?」
「どうしようもない。喋らせないことだ」

 なら、とレイフはイエローのみぞおちに一発食らわせた。よほど重い一撃で、声もあげられぬほどイエローは気絶した。

「リタ!リタはいないか!」

 呼ぶとリタは茂みから姿を現した。骨となったアネモネを見て逃げ出した一人だったが、近くに留まってくれていた。

「リタでございます」
「イエローの介抱を頼む。そなたは私の使用人ではあるが、陛下の部下の看病をしたとなれば、咎めは受けまい。屋敷にある備品は皆で分けよ」
「承知いたしました」

 リタが他の使用人を取りまとめてイエローを屋敷へ運び入れる。最後まで見守らず、レイフの肩を叩く。

「逃げるぞ。心臓まで聞こえる耳で、敵方の方向が探れるか」
「探れました。一人です」

 過去形。しかも一人だと?
 アーネストの疑問に答えるように、レイフは指を差した。

 アネモネの骨を拾い上げる男。アーネストは目を見開いた。

「オスカー…」


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