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二章
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しおりを挟む「ボーテ様も、それに感じに近いものを感じられました。あくまで私観ですが」
「いや、参考になった。ありがとう」
とにかく、レイフにはイエローがそれだけ異常に見えるということか。
「せっかくそなたと色々と探ろうと思っていたのに、とんだ障害が来たものだ」
「一旦そちらは中断した方がよさそうです」
レイフが作成したこの年表は、国の今後に関する内容ばかりだ。これを見られて、変に勘ぐられて謀反の疑い有りと報告されたら、たまらない。
「となると、ますます私を裏切った理由が分からん」
「これも新興宗教の話なのですが、最終的に教祖は側近に殺されました。殺した側近は、鎮圧した軍に捕らえられ何故殺したのかという問いにこう答えたそうです」
レイフは一拍間を開けた。
「救世主では無かった」
その言葉を聞いて、レイフが何が言いたいのか何となく分かった。
「ボーテ様がアーネスト様を処刑するよう陛下に協力したのも、そういう場面に遭遇したからかもしれません」
「神のごとく崇めた者が神でないと気づいた瞬間の逆恨みか」
あり得る。全く心当たりは無いが、信者は勝手に熱望して勝手に失望する。レイフの指摘は的を得ていると思った。
「なんにしろイエローは厄介だ。何とかせねば」
「早々に目を覚ましていただく必要があります。引き伸ばしても良いことはありませんから」
「イエローとは、何年も共に過ごしてきた。もう手遅れではないか?それにどうすれば良いのだ」
「これからの人生の方が長くなりますよ。手遅れにはならないかと。方法は…」
レイフは言葉を切って、扉に目を向けた。
「なんだ?」
「リタさんが来ます」
彼の宣言した通り、扉がノックされる。レイフが答えると、扉を開けたのは、確かに使用人のリタだった。
使用人のリタは、主付きだ。屋敷の使用人は5人いるが、主であるアーネストと直接言葉を交わせるのは、リタだけだった。死んだ母の代から仕えていて、もうそろそろ40になる。
リタはアーネストとレイフにそれぞれ一礼した。
「ほどなく日が落ちますので、明かりをともします」
「ああ、頼む」
答えたアーネストは、さりげなくレイフから受け取った紙の束を巻いて紐で留める。ささいな事だが、周囲にも出来るだけ知られないようにせねばならない。どこに目があり口があるのか分かったものではない。
「夕食はどちらで召し上がりますでしょうか」
「食堂でよい。レイフも共に」
伏し目がちに返事をしてリタは下がる。パタリと扉が閉まりしばらくしてから、アーネストは身を乗り出した。
「よく分かったな」
近づいた分だけレイフは距離を取った。嫌なのか?傷つくぞ。
「兵士の暮らしが長かったものですから」
「そう言えば剣の腕も素晴らしかった。誰に鍛えられた」
「基本は隊長から教わりましたが、特には。あえて言うなら実戦で鍛えられました」
戦争続きで生き抜けば、嫌でも身につくということか。過酷な人生を歩んできたのだ。18才のあどけない顔をしていても、中身はアーネストよりも何倍も生きてきた歴戦の老兵だ。この前、オスカーに対する身のこなしは見事だった。武術の武の字も知らない素人から見ても、レイフが並の武人ではないと分かる。
「…そうだ。そなた程の腕なら、イエローの奴をこてんぱんに出来るのではないか?」
ああいった幻想にとらわれた厄介な相手には、拳が一番効く。武人を屈服させるには力が一番分かりやすい。力こそが武人の矜持だからだ。なによりイエローはレイフを嫌っている。レイフが徹底的にイエローを叩きのめせば、目が覚めて、まともになるのではなかろうか。
「それを、私も提案しようと思っておりました」
「おお!自信があるのだな!」
「全く有りません」
そんな自信満々に言わなくても…。アーネストは少しがっかりした。
「イエローは軍が年一で開催する模擬大会で決勝まで進んだ。相当の腕だぞ」
「はい」
「はいって…」
「ああいう手合いには、力で屈服させるのが手っ取り早いです」
「私もそう思うが、勝てる見込みがないのに仕掛けても無意味だぞ」
「アーネスト様が陛下の前で盛大に謝罪なさったように、私も命を張ります」
あの気持ち良かった謝罪を引き合いに出して、なぜ命を張るなどと言い出すのか。確かにアレのお陰で処刑は免れたが、レイフの言い方は少し含みがあるように感じた。
「頑張ります」
「いや止めよう。無謀だ」
「最悪死んで戻るだけです」
抑揚も無く淡々と言うレイフに、アーネストはカッとなって額を叩いた。
「駄目だ駄目だ!約束したであろう。これで終わりにすると。普通の人は一度きりの人生なのだ。そういう命を軽くするような発言は控えよ」
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