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一章
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しおりを挟む気を取り直して、アーネストは続ける。
「というかレイフ、そなたしか我が伴侶は有りえぬ」
「どういうことですか?」
「繰り返した者同士、いわゆる繰り友だ」
「殿下は冗談で言っているのか本気で言っているのか全く分かりません」
「ずっと本気だ」
び、と指を立てる。そのままレイフの鼻をちょんと押す。
「お、寄り目になったな」
「これも本気なのですか?」
「これは遊びに決まっておろう」
「なぜこんなことを?」
「遊びをするのに理由なんかない」
不満げにレイフは後ろに引いた。レイフが何かを言おうとした時、下から声がかかった。
「あのーそろそろ取り壊すんで、どいてもらっていいですかー?」
見れば壇下には、組み上げた壇を解体しようと人が集まっていた。処刑が中止になった以上、処刑台は必要無い。
「殿下の傷の手当てをしましょう」
オスカーに突かれた首の傷は、そんなに深くない。アーネストが首に手をやると、指先には血が付着した。斬り落とされていた今までに比べたら、こんなもの傷にも入らない。
魔の三日目を乗り越えたのだ。壊されていく処刑台を見て、アーネストはようやく生き延びたのを実感した。
場所を変えようと、移動したのは、アーネストがついさっきまで投獄されていた監獄だった。レイフが自分の荷物を引き取りたいと言ったのと、ここなら首の傷の手当てができるからだという。
監獄の周囲を取り囲んでいた兵士たちの姿はなく、まばらに点在するのみだ。アーネストとレイフの姿を見た兵士たちは、処刑中止の報せが行き届いているようで、特に寄ってくることもなく、遠巻きにひそひそと話しているだけだ。
監獄の入口に立っていた門番にレイフが事情を話す。門番はレイフとアーネストとを値踏みするように見比べたあと、アーネストに臣下の礼を取って扉を開けた。
詰め所へと入り傷の手当てを受ける。詰め所なので他の兵士もいる。レイフの同僚だから顔見知りだろうに、誰も声をかける者がいないのは、アーネストがいるからだろう。
「痛みますか?」
「いや。ありがとう。初めて傷の手当てを受けた。良い経験になった」
首に巻かれた包帯にそっと触れる。斬り落とされて首を繋げたみたいだ。
「喉が乾いたな。なにか飲むものが欲しい」
「取りに行って参ります」
立ち上がったレイフに、別の兵士が近づいた。
「レイフ、兵隊長がお呼びだ」
「分かりました。殿下はお待ちください」
「うむ。戻ったらまた話そう」
詰め所を出ていくレイフに変わり、別の兵士が飲み物を持ってきた。贅沢なものは期待していなかったが、出てきたのはコーヒーだった。聞けば、兵士たちの間では嗜好品としてよく飲まれているという。
苦いコーヒーをすすりながら待っていると、レイフが戻ってきた。
「おかえり。何の話であった?」
「解雇でした。アーネスト様の伴侶を一兵士として軍に置けないそうです」
「まぁそうであろうな」
これにはレイフも想定内だったらしい。なんという顔もしていなかった。罪人を助けた時点で軍にはいられないのを覚悟していたのだろう。
「そなたは私との婚姻を拒んでいる。これからどうする気だ」
「とりあえずは家に帰りますが、もしかして婚姻するかの交渉をさせてもらえるのですか?」
「無理だ。それは大前提だ」
コーヒーを飲み終えて、アーネストは首をさすった。何度でも繋がっている実感が沸く。
「私が生き伸びた事でそなたにも変化が起きている。だが長生きした果てにまた巻き戻る可能性は十分に残っている。私もそなたもな。また繰り返したいのならば止めはせんが、出来ることなら二人で手分けして調べた方が確実に死ねる方法が見つかるのではないか?」
何故繰り返すのか。何故同じ日に巻き戻るのか。知る必要がある。知らなければ、また繰り返すだけだ。
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