3 / 42
一章
2
しおりを挟む「三度目?」
「三度目です」
「まことか?」
「まことです」
オウム返しのやり取りを経て、アーネストは信じた。何故なら、まだ会ったばかりだが、この若者のやけに老成した違和感の正体が、三度繰り返した者であるとするならば、納得できるからだ。
それに彼は朴訥としている。これが演技だとは思えないし、演技をする理由もない。演技だとしても、もっとマシな人格設定にしただろう。
「なんだお主、三度目ならもっと早く言え」
「申し訳こざいません。殿下も繰り返しておられたとは露知らず」
「よいよい。ならば話が早い」
自分一人ならば、何も出来ずにまた死を待つだけの日々だったかもしれない。しかし同じ繰り返してきた者同士で、しかも向こうは自分の見張りだ。兵士ならば自由に行き来できる。それこそ身内に連絡を取ることも。これで生存率は大幅に上昇した。
「レイフ、私は三日後を越えたいのだ。故に協力してくれ」
「私は殿下の見張りです。出来ることは少ないかと」
「そう謙遜するな。少なくとも監獄から出られない私よりは動ける」
レイフは、じっとしたまま動かない。兵士なのだから当然と言えば当然なのだが、兵士でなくとも普段から直立不動で過ごしていそうだ。
「猫ですか」
レイフの言葉に首をひねる。
「先ほど、使えるものは猫をも使えと」
何を言い出したかと思えば。己を猫だと思われるのが癪なのだろうか?
「ただの言葉のあやだぞ」
「意図は理解しております。私の行動はこの監獄内のみに制限されており、外部の兵士との接触は禁じられております。殿下の食事等の時も、全てあらかじめ別室に用意されているのを受け取るのみで、そこに人はおりません。少しでも妙な動きをすれば、私はたちまちに処分されるでしょうし、殿下も恐らくは無事ではすまないかと」
一気に言い終えると、またレイフは直立不動に戻った。コインを投入したら動き出すカラクリ人形みたいだ。
人との接触を徹底的に減らし、孤立させる。情報の遮断という理由もあるのだろうが、一番重要なのは別だろう。心当たりはある。アーネストは右手のブレスレットに目を落とした。
ですから、と終わったと思っていたレイフが喋りだした。
「殿下のお力にはなれません。私は猫たり得ません」
「…は」
アーネストは思わず吹き出した。
「あっはっはっ!そなた、小気味良いな!」
寝台を叩くとホコリが飛んだ。それを手で振り払う。汚らしい部屋でも、こうして笑うことは出来る。
今まで死んでは生き返りを繰り返していたアーネストにとって、こんなに腹の底から笑えたのは久しぶりだった。おかげで気が抜けて随分楽になった。自覚していなかったが、相当追い詰められていたのだ。
何がこんなに受けたのか理解出来ないのだろう。レイフは微動だにしなかった。
「そなたは良いキャラをしているな」
「は…」
「大真面目で笑いを取りに来る姿勢。そなたのような堅物でなければ出来ない」
アーネストは伸びをして立ち上がる。まだレイフの手元にはアーネストが食べた食事の盆を持っている。あまりにも代わり映えの無い食事に、アーネストはほとんどを残していた。
「もう少し食べようかな」
「でしたら温めなおしてきます」
軽く礼をして、レイフは背を向ける。その背中を最初よりも親しみを持って見送ることができた。
166
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる