28 / 49
新年の珍客
しおりを挟む
年が明けた。私が目覚めた時、すでに新年がやってきていた。
昨日、いや去年の年末は何をしていたんだったか。一人で住むには広いこの家で見るでもなくテレビを付けて、毎年代わり映えのしない年末の特番を見ながら酒を飲み、手持ち無沙汰でゲームをしていた、ように思う。
だがその後除夜の鐘が撞かれる映像を見た覚えもなく、目が覚めればこのザマだ。炬燵に入ってしまったのがいけないのだろうか。それとも飲みすぎたか。
こめかみの奥でズキズキと主張する痛みを追いやって、台所から水を汲むと一気に飲み干した。冷たさが歯にしみる。だが歯医者に行くのも億劫だ。思わず顔をしかめた時に、外の方からガシャンと言う音と、バイクのエンジン音が聞こえた。
大変なこった。
ぼりぼりと頭を掻き、仕方なしに私は玄関へと向かう。別に待ちわびていたわけでもないが、わざわざ元旦返上で郵便局員がこんなところにまで届けてきてくれたのだ。それを放置したままと言うのも、なんだか失礼な気がした。
宮部、松本、西村。他にもぱらぱらと。中にはありがちな家族写真を送ってくるやつもいる。皆、大学時代のサークルのメンバーだ。一部のやつらが律儀にこうして毎年送ってくるものだからこちらも出さないわけにはいかず、ハガキの物々交換を繰り返すという不毛な行為を毎年行っている。
『子供が産まれました。今度遊びに来てください』
『今年こそきっとうまく行きます!頑張ってください』
『ユキ先輩の連絡先知りませんか?』
毎年代わり映えのしない文面を眺めていた私の目が止まった。ユキ先輩。
『番号も住所も変わってるみたいで捕まりません。面白いの見つけたから勧めようと思ってたのに!』
そんなこと、私に聞かれても困る。むしろ私だって、ユキ先輩とは連絡が取れなくて困っていたところだ。
似たようなことを問うてくる年賀状が数枚あり、みな一様にかの人の行方を探しているようだった。まるで、アリスタイオスだな。私は思った。みんなが必死に探す人。それだけの存在なのに、煙のように消えてしまった。
私はスマホのアドレスを開く。ユキ先輩の電話番号は確かにそこにあるのに、繋がらない。
寒さを覚えて、私は炬燵へと戻る。今日はこのまま寝正月だろうと着替えるのさえ億劫がって横になろうとしたところで、今までおとなしかったスマホが暴れ出した。
『あけましておめでとうリンドウ君!』
飛び込んできたのは、チカチカと点滅する文字。一昔前のホームページのようだ。わざわざメールごときでそこまで手を掛ける意味がわからないが、背景は真っ赤で、その中にレインボーカラーの文字が点滅するだけに飽き足らず、ぴょんぴょんと踊り狂っている。
それだけで私は辟易して危うく画面を閉じかけたが、このまま無視するのも悪かろうと画面を触るとどうやらまだ続きがあったらしく、よくわからない動物(干支だろうか?)の後ろに、やはりはしゃいだ文字が踊っていた。
『めでたいから富士山に登ろう!』
酔っぱらってるのか?
二日酔いの頭で偉そうに。我ながらそう思わなくもなかったが、新年だからめでたいとは思わないひねくれた私はそう考えてしまう。もう富士山でもジャングルジムにでも、勝手に登ってくれ!
そこへ再びエンジン音が聞こえた。正月の世界は妙に静かだ。さっきの配達員がなにか届け忘れでもしたのだろうか。そう思ったものの、どうにもバイクのエンジン音とも違う気がする。だがいちいち確認しに行くのも億劫だ。炬燵から出ずにぼんやりとその音を聞いていると、あろうことかインターフォンが鳴るではないか。
「誰だ?」
この家に来るとしたら、あとは配送会社の人間くらいだ。けれど特に何かネットで買った記憶もない。ご近所さんだとしたら、わざわざ車で来るわけもない。
なんだか嫌な予感がした。静かな我が家は最近、彼の別荘かのような扱いを受けている。そして、あの人はとにかく行動が早い。こうして、一応メールが来ただけマシなのだろうか。
再びインターフォンが鳴る。ピンポンと連呼される。こんなの、何年も前に近所の子供のイタズラでされた以来だ。近所の農家の女の子。普通、大人はこんな執拗にピンポンを鳴らさない。だが、あの人はどうだろう。すごくやりそうな気がした。
「せっかくの正月が……」
やり過ごすにはうるさいそれに耐えかね、私はようやく炬燵からはいずり出た。渋々開けた玄関の先には、やはり加賀見先生が居たのだった。
昨日、いや去年の年末は何をしていたんだったか。一人で住むには広いこの家で見るでもなくテレビを付けて、毎年代わり映えのしない年末の特番を見ながら酒を飲み、手持ち無沙汰でゲームをしていた、ように思う。
だがその後除夜の鐘が撞かれる映像を見た覚えもなく、目が覚めればこのザマだ。炬燵に入ってしまったのがいけないのだろうか。それとも飲みすぎたか。
こめかみの奥でズキズキと主張する痛みを追いやって、台所から水を汲むと一気に飲み干した。冷たさが歯にしみる。だが歯医者に行くのも億劫だ。思わず顔をしかめた時に、外の方からガシャンと言う音と、バイクのエンジン音が聞こえた。
大変なこった。
ぼりぼりと頭を掻き、仕方なしに私は玄関へと向かう。別に待ちわびていたわけでもないが、わざわざ元旦返上で郵便局員がこんなところにまで届けてきてくれたのだ。それを放置したままと言うのも、なんだか失礼な気がした。
宮部、松本、西村。他にもぱらぱらと。中にはありがちな家族写真を送ってくるやつもいる。皆、大学時代のサークルのメンバーだ。一部のやつらが律儀にこうして毎年送ってくるものだからこちらも出さないわけにはいかず、ハガキの物々交換を繰り返すという不毛な行為を毎年行っている。
『子供が産まれました。今度遊びに来てください』
『今年こそきっとうまく行きます!頑張ってください』
『ユキ先輩の連絡先知りませんか?』
毎年代わり映えのしない文面を眺めていた私の目が止まった。ユキ先輩。
『番号も住所も変わってるみたいで捕まりません。面白いの見つけたから勧めようと思ってたのに!』
そんなこと、私に聞かれても困る。むしろ私だって、ユキ先輩とは連絡が取れなくて困っていたところだ。
似たようなことを問うてくる年賀状が数枚あり、みな一様にかの人の行方を探しているようだった。まるで、アリスタイオスだな。私は思った。みんなが必死に探す人。それだけの存在なのに、煙のように消えてしまった。
私はスマホのアドレスを開く。ユキ先輩の電話番号は確かにそこにあるのに、繋がらない。
寒さを覚えて、私は炬燵へと戻る。今日はこのまま寝正月だろうと着替えるのさえ億劫がって横になろうとしたところで、今までおとなしかったスマホが暴れ出した。
『あけましておめでとうリンドウ君!』
飛び込んできたのは、チカチカと点滅する文字。一昔前のホームページのようだ。わざわざメールごときでそこまで手を掛ける意味がわからないが、背景は真っ赤で、その中にレインボーカラーの文字が点滅するだけに飽き足らず、ぴょんぴょんと踊り狂っている。
それだけで私は辟易して危うく画面を閉じかけたが、このまま無視するのも悪かろうと画面を触るとどうやらまだ続きがあったらしく、よくわからない動物(干支だろうか?)の後ろに、やはりはしゃいだ文字が踊っていた。
『めでたいから富士山に登ろう!』
酔っぱらってるのか?
二日酔いの頭で偉そうに。我ながらそう思わなくもなかったが、新年だからめでたいとは思わないひねくれた私はそう考えてしまう。もう富士山でもジャングルジムにでも、勝手に登ってくれ!
そこへ再びエンジン音が聞こえた。正月の世界は妙に静かだ。さっきの配達員がなにか届け忘れでもしたのだろうか。そう思ったものの、どうにもバイクのエンジン音とも違う気がする。だがいちいち確認しに行くのも億劫だ。炬燵から出ずにぼんやりとその音を聞いていると、あろうことかインターフォンが鳴るではないか。
「誰だ?」
この家に来るとしたら、あとは配送会社の人間くらいだ。けれど特に何かネットで買った記憶もない。ご近所さんだとしたら、わざわざ車で来るわけもない。
なんだか嫌な予感がした。静かな我が家は最近、彼の別荘かのような扱いを受けている。そして、あの人はとにかく行動が早い。こうして、一応メールが来ただけマシなのだろうか。
再びインターフォンが鳴る。ピンポンと連呼される。こんなの、何年も前に近所の子供のイタズラでされた以来だ。近所の農家の女の子。普通、大人はこんな執拗にピンポンを鳴らさない。だが、あの人はどうだろう。すごくやりそうな気がした。
「せっかくの正月が……」
やり過ごすにはうるさいそれに耐えかね、私はようやく炬燵からはいずり出た。渋々開けた玄関の先には、やはり加賀見先生が居たのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム
かものすけ
ミステリー
昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。
高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。
そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。
謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?
果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。
北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。
支配するなにか
結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣
麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。
アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。
不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり
麻衣の家に尋ねるが・・・
麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。
突然、別の人格が支配しようとしてくる。
病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、
凶悪な男のみ。
西野:元国民的アイドルグループのメンバー。
麻衣とは、プライベートでも親しい仲。
麻衣の別人格をたまたま目撃する
村尾宏太:麻衣のマネージャー
麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに
殺されてしまう。
治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった
西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。
犯人は、麻衣という所まで突き止めるが
確定的なものに出会わなく、頭を抱えて
いる。
カイ :麻衣の中にいる別人格の人
性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。
堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。
麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・
※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。
どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。
物語の登場人物のイメージ的なのは
麻衣=白石麻衣さん
西野=西野七瀬さん
村尾宏太=石黒英雄さん
西田〇〇=安田顕さん
管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人)
名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。
M=モノローグ (心の声など)
N=ナレーション
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる