37 / 74
ゲームのせいでまるで人が変わったようだ訴えてやる?ハアなに言ってんの?
しおりを挟む
まったく、最近の消費者というのはなんでもかんでも責任を人に押し付けていけない。
やれ違うものを案内されただの、上手くいかないのは商品のせいだの。ちったぁ自分で考えて探したり、使いこなせるよう努力をしたらどうなのかね。
責任はぜんぶ自分ではなくて他人にある。いやね、確かにそういう事も無くはないですよ?でもね、こっちだって人間なんだから、100こっちが悪者にされると辛いんだよね。
ましてさ、こちとら商品を販売してるだけだし、別に製造元でもないんだし。それを販売店のせいにされてもねぇ。
ああ、この注意書がいけないんだよね。不良の際はお買い求めの販売店にお申し付けください、ってやつ。別に返金対応くらい構わないんだよ。不良品なんて着払いでメーカーに送り返してやるし。それより、文句をいわれるのはこっちなんだよね。あーホント損な役割。
ご覧の通り、俺はしがない販売員。家電屋のゲーム売り場で働いている。
配属されたときこそ俺ゲーム好きだしラッキーって思ってたんだけど、盆も正月休みもなけりゃ土日祝は絶対休めないから友達とも彼女とも休みが合わない。クリスマスもしかり。お陰で彼女と別れました。あーあ、今日も変なクレーム来るし、マジ転職したいわ。
それにしたって変なクレームだった。
来たのは5、60くらいのおばちゃん。
手には半年ほど前にそこそこ売れて、でももううちでは取り扱い中止のRPGのゲームディスク。このおばちゃんゲーマーなのか?って思ってたら開口一番
「このゲームのせいで息子がおかしくなったから返品させろ!」
ときたもんだ。
いやいやいや。返品理由として成り立たないだろ。
えっなにこれプレイして精神でも病んだの?こんな王道RPGで?
もし仮にゲームにハマってヒキコモリになったとしてもそれはお宅のご子息の責任であってゲームは関係ないですよね?
と思いつつもこういう客は下手な対応をすると時間ばかりがとられていくことはすでに経験済みだ。
下手にクレームにはまってしまい、そのせいで終わらなかった仕事を何度サービスで片付けたと思ってるんだ。俺は昨日の俺ではない!
であるので俺はそれはそれはご丁寧に下手に出て、
「恐れ入りますがお客さま。購入された際のレシート、もしくは弊社のポイントカード等の購入の確認の取れるものはお持ちでいらっしゃいませんか?」
とひどく申し訳なさそうな表情をしてそのおばちゃんにお声をかけた。すると
「そんなもんないけどたぶんここで買ったんだから返金させろ、させないなら訴えるから店長を呼べ」
ときたものだ。
あー、はいはい。いるよねー。すぐ店長呼んだり、訴えようとするやつ。
どこに勝機があると思っての発言なんでしょうかね。100こっちが勝てる自信あるけれど。
と思っても口にすると余計な騒ぎを起こすだけなことも経験済みなので、ここは言われた通りに店長を呼ぶのが得策だろう。
だってこんな意味不明のクレーマーの相手なんかしたくないもん俺。店長なんて俺の何倍貰ってると思ってんだ。然るべきワークバランスというやつじゃないか?
そうして俺は言われたままに店長を内線で呼び出したわけだが、とはいえ物理的に即店長が現れてくれるわけもなく。
それまでの場繋ぎで、このおばちゃんの主張とやらを聞かなくてはならないのがつらいところだ。
うっかり店長に引き渡せる安堵から話を聞き流したりするようなら、この手のクレーマーは絶対さらに怒る。それも経験済みだ。
とにかく自分の言ってることが正しいと認めてもらえるまで、この手の人たちは気がすまないのだから。
であるから、俺は頑張っておばちゃんのイミフな説明を聞いてあげたよ?
なんだかゲームをやるようになってから、やたらと「私は魔王なのだ」とか言うようになっただとか、あんなに自分を慕ってくれていたのにゲームをするようになってから冷たい目付きで睨んでくるようになっただとか、仕事を時々休むようになっただとか。
……まあ、最初の二つまでは良しとしよう。
あれだよね、ファンタジー世界にハマっちゃった時のあるあるだし。
しかし如何せん気になるのは最後のだ。
なに仕事サボってゲームやってんだよお宅の息子は。
しかもこのおばちゃんのお歳から察するに、そこそこ大きい息子さんですよね!?
いい歳して中二病とか!
……ちょっとだけ、このおばちゃんの気持ちがわかった気もする。
きっとこのおばちゃんは息子自体にではなく他に原因を求めなければやってられなかったのだろう。
とは言え八つ当たりされたほうはだいぶ不愉快だけどな!?
俺が必死に話を聞いてあげたのが功を奏したのだろう。おばちゃんが落ち着いた頃、ようやく店長が現れた。
遅いんだよ!
そうして店長にちょっと奥まで、と裏の事務所に連れていかれるおばちゃん。そこでおばちゃんは再びこう言った。
「あれは私の息子じゃない、たぶんこのゲームのせいよ。まるでこのゲームの魔王みたいなの。きっと入れ替わってしまったのよ」
と。
そんなバカなこと、あるわけないのに。
俺は奥に消えていくおばちゃんを見送りながらそう思った。
だって。そんなことできるなら俺だって入れ替わりたいわ。
だって居たって意味なくない?こんな世界。
やれ違うものを案内されただの、上手くいかないのは商品のせいだの。ちったぁ自分で考えて探したり、使いこなせるよう努力をしたらどうなのかね。
責任はぜんぶ自分ではなくて他人にある。いやね、確かにそういう事も無くはないですよ?でもね、こっちだって人間なんだから、100こっちが悪者にされると辛いんだよね。
ましてさ、こちとら商品を販売してるだけだし、別に製造元でもないんだし。それを販売店のせいにされてもねぇ。
ああ、この注意書がいけないんだよね。不良の際はお買い求めの販売店にお申し付けください、ってやつ。別に返金対応くらい構わないんだよ。不良品なんて着払いでメーカーに送り返してやるし。それより、文句をいわれるのはこっちなんだよね。あーホント損な役割。
ご覧の通り、俺はしがない販売員。家電屋のゲーム売り場で働いている。
配属されたときこそ俺ゲーム好きだしラッキーって思ってたんだけど、盆も正月休みもなけりゃ土日祝は絶対休めないから友達とも彼女とも休みが合わない。クリスマスもしかり。お陰で彼女と別れました。あーあ、今日も変なクレーム来るし、マジ転職したいわ。
それにしたって変なクレームだった。
来たのは5、60くらいのおばちゃん。
手には半年ほど前にそこそこ売れて、でももううちでは取り扱い中止のRPGのゲームディスク。このおばちゃんゲーマーなのか?って思ってたら開口一番
「このゲームのせいで息子がおかしくなったから返品させろ!」
ときたもんだ。
いやいやいや。返品理由として成り立たないだろ。
えっなにこれプレイして精神でも病んだの?こんな王道RPGで?
もし仮にゲームにハマってヒキコモリになったとしてもそれはお宅のご子息の責任であってゲームは関係ないですよね?
と思いつつもこういう客は下手な対応をすると時間ばかりがとられていくことはすでに経験済みだ。
下手にクレームにはまってしまい、そのせいで終わらなかった仕事を何度サービスで片付けたと思ってるんだ。俺は昨日の俺ではない!
であるので俺はそれはそれはご丁寧に下手に出て、
「恐れ入りますがお客さま。購入された際のレシート、もしくは弊社のポイントカード等の購入の確認の取れるものはお持ちでいらっしゃいませんか?」
とひどく申し訳なさそうな表情をしてそのおばちゃんにお声をかけた。すると
「そんなもんないけどたぶんここで買ったんだから返金させろ、させないなら訴えるから店長を呼べ」
ときたものだ。
あー、はいはい。いるよねー。すぐ店長呼んだり、訴えようとするやつ。
どこに勝機があると思っての発言なんでしょうかね。100こっちが勝てる自信あるけれど。
と思っても口にすると余計な騒ぎを起こすだけなことも経験済みなので、ここは言われた通りに店長を呼ぶのが得策だろう。
だってこんな意味不明のクレーマーの相手なんかしたくないもん俺。店長なんて俺の何倍貰ってると思ってんだ。然るべきワークバランスというやつじゃないか?
そうして俺は言われたままに店長を内線で呼び出したわけだが、とはいえ物理的に即店長が現れてくれるわけもなく。
それまでの場繋ぎで、このおばちゃんの主張とやらを聞かなくてはならないのがつらいところだ。
うっかり店長に引き渡せる安堵から話を聞き流したりするようなら、この手のクレーマーは絶対さらに怒る。それも経験済みだ。
とにかく自分の言ってることが正しいと認めてもらえるまで、この手の人たちは気がすまないのだから。
であるから、俺は頑張っておばちゃんのイミフな説明を聞いてあげたよ?
なんだかゲームをやるようになってから、やたらと「私は魔王なのだ」とか言うようになっただとか、あんなに自分を慕ってくれていたのにゲームをするようになってから冷たい目付きで睨んでくるようになっただとか、仕事を時々休むようになっただとか。
……まあ、最初の二つまでは良しとしよう。
あれだよね、ファンタジー世界にハマっちゃった時のあるあるだし。
しかし如何せん気になるのは最後のだ。
なに仕事サボってゲームやってんだよお宅の息子は。
しかもこのおばちゃんのお歳から察するに、そこそこ大きい息子さんですよね!?
いい歳して中二病とか!
……ちょっとだけ、このおばちゃんの気持ちがわかった気もする。
きっとこのおばちゃんは息子自体にではなく他に原因を求めなければやってられなかったのだろう。
とは言え八つ当たりされたほうはだいぶ不愉快だけどな!?
俺が必死に話を聞いてあげたのが功を奏したのだろう。おばちゃんが落ち着いた頃、ようやく店長が現れた。
遅いんだよ!
そうして店長にちょっと奥まで、と裏の事務所に連れていかれるおばちゃん。そこでおばちゃんは再びこう言った。
「あれは私の息子じゃない、たぶんこのゲームのせいよ。まるでこのゲームの魔王みたいなの。きっと入れ替わってしまったのよ」
と。
そんなバカなこと、あるわけないのに。
俺は奥に消えていくおばちゃんを見送りながらそう思った。
だって。そんなことできるなら俺だって入れ替わりたいわ。
だって居たって意味なくない?こんな世界。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる