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1964.10.8 遠野邸 2
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「もしかして、菅野さんのこと?」
ぽつりと真理亜が呟いた。
「菅野さんが?」
「なんだって?菅野君に、どんな秘密があるって言うんだ」
うっかり言葉を漏らした自分に内心舌打ちしつつ、真理亜は口を開いた。
「そうじゃなくて、貴女の大切な人って書いてあるところよ。これが私を指しているなら、大切な人は菅野さんだわ」
「なんだ、私じゃないのか」
がっくりと肩を落とす順次郎を置いて、メグが続けた。
「そんな、菅野さんは回復して、この間退院したばかりですよ。ちゃんと家に帰ったと思ってたんですが……」
そこまで言って彼女は急に眼を見開いた。
「昨日、会社の方から電話がありましたよね、なんでも部下の方が来ないって……」
「赤崎からの電話か?」
気づいた順次郎も声を上げ、慌てて部屋を飛び出して行った。「なんてこった!おい、早く八丁堀に電話を繋げ!」
「やっぱり、ちゃんとご自宅まで付いて行けばよかった!」
「もしかして、菅野さんはなにかに巻き込まれたんじゃないかしら」
そう一度思ったら、もうそうとしか思えなかった。しばらくして、沈んだ顔で順次郎が戻ってきた。どうやら、八丁堀の研究所に確認が取れたらしい。
「やはり、退院後に顔を見せていないそうなんだ」
「菅野さんが無断で仕事を休むはずないわ」
「しかし、なぜ菅野君なんだ。これ以上巻き込まれないようにせっかく距離を置くようにしたというのに」
「それは……」
犯人が、菅野さんの『力』に気が付いたからなのではないかしら。
真理亜は不安で胸がはじけてしまいそうだった。秘密をばらされたくなければ、だなんて。きっとこれは、犯人が菅野さんの力のことを知って書いたんだわ。
まさか、嫌な予感が的中してしまうだなんて。きっと、力に目を付けられて犯人に捕まってるんだわ!
「なぜ菅野君が姿を消した?」
けれど彼の力についてなど知らない父は、ぽつり、と呟いた。
「きっと、犯人は矛先を私から菅野さんに変えたんだわ」
真理亜に危害を加えるには警備が厳しくて難しい。不思議な力の使える男が側にいるなら尚更。ならばいっそ、その邪魔者を誘拐してしまえばいいではないか。あわよくば、その力を何か犯人の為に使わせればいい。
なにせ彼の弱点はエネルギー不足だ。なにか力を使わせて疲れたところを狙えば、子供だって菅野を捕まえられる。
けれど順次郎が続けたのは、真理亜がそう予想したものとは百八十度違うものだった。
「……犯人は生活に困っている」
「え?」
「なぜだかは知らないが、大金が必要だ」
「お父様?」
順次郎がうなるように言った。
「一連の騒ぎは、彼の自作自演だとしたら?」
「お父様、なにを仰っているの?」
「だってそうじゃないか。それなら説明がつく」
「まさか、菅野さんがそんなことするわけないじゃない!」
真理亜は叫んだ。「そんな、彼を疑うだなんてあんまりだわ」
ぽつりと真理亜が呟いた。
「菅野さんが?」
「なんだって?菅野君に、どんな秘密があるって言うんだ」
うっかり言葉を漏らした自分に内心舌打ちしつつ、真理亜は口を開いた。
「そうじゃなくて、貴女の大切な人って書いてあるところよ。これが私を指しているなら、大切な人は菅野さんだわ」
「なんだ、私じゃないのか」
がっくりと肩を落とす順次郎を置いて、メグが続けた。
「そんな、菅野さんは回復して、この間退院したばかりですよ。ちゃんと家に帰ったと思ってたんですが……」
そこまで言って彼女は急に眼を見開いた。
「昨日、会社の方から電話がありましたよね、なんでも部下の方が来ないって……」
「赤崎からの電話か?」
気づいた順次郎も声を上げ、慌てて部屋を飛び出して行った。「なんてこった!おい、早く八丁堀に電話を繋げ!」
「やっぱり、ちゃんとご自宅まで付いて行けばよかった!」
「もしかして、菅野さんはなにかに巻き込まれたんじゃないかしら」
そう一度思ったら、もうそうとしか思えなかった。しばらくして、沈んだ顔で順次郎が戻ってきた。どうやら、八丁堀の研究所に確認が取れたらしい。
「やはり、退院後に顔を見せていないそうなんだ」
「菅野さんが無断で仕事を休むはずないわ」
「しかし、なぜ菅野君なんだ。これ以上巻き込まれないようにせっかく距離を置くようにしたというのに」
「それは……」
犯人が、菅野さんの『力』に気が付いたからなのではないかしら。
真理亜は不安で胸がはじけてしまいそうだった。秘密をばらされたくなければ、だなんて。きっとこれは、犯人が菅野さんの力のことを知って書いたんだわ。
まさか、嫌な予感が的中してしまうだなんて。きっと、力に目を付けられて犯人に捕まってるんだわ!
「なぜ菅野君が姿を消した?」
けれど彼の力についてなど知らない父は、ぽつり、と呟いた。
「きっと、犯人は矛先を私から菅野さんに変えたんだわ」
真理亜に危害を加えるには警備が厳しくて難しい。不思議な力の使える男が側にいるなら尚更。ならばいっそ、その邪魔者を誘拐してしまえばいいではないか。あわよくば、その力を何か犯人の為に使わせればいい。
なにせ彼の弱点はエネルギー不足だ。なにか力を使わせて疲れたところを狙えば、子供だって菅野を捕まえられる。
けれど順次郎が続けたのは、真理亜がそう予想したものとは百八十度違うものだった。
「……犯人は生活に困っている」
「え?」
「なぜだかは知らないが、大金が必要だ」
「お父様?」
順次郎がうなるように言った。
「一連の騒ぎは、彼の自作自演だとしたら?」
「お父様、なにを仰っているの?」
「だってそうじゃないか。それなら説明がつく」
「まさか、菅野さんがそんなことするわけないじゃない!」
真理亜は叫んだ。「そんな、彼を疑うだなんてあんまりだわ」
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