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1964.10.1 遠野邸 3
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「なぜ草加が警察署を狙ったかはわかりませんが、とりあえず連絡を待つしかないかと思います。原宿署に送られたメッセージが真理亜お嬢様に関連のある物なら、警察がこちらにくるでしょうし」
そう言って、メグがため息をついた。「なんだかややこしいことになってきたわ」
「旦那様、失礼いたします」
そこへおずおずと叩かれたノックの音が響いた。扉の間から聞こえるのは、まだ若い女中の声だった。
「なんだ、入りなさい」
「お食事中申し訳ございません。旦那様、赤崎様からお電話ですが……」
そう言って、彼女は順次郎を電話口へ案内しようとしたが、
「なんだこの忙しいときに!赤崎がどうしたって言うんだ」
と普段は穏やかな順次郎に噛みつかれて、顔を強張らせてしまった。
「それがどうにも、職場の部下の方が出社してこないのだとかで……」
「大方サボってるだけだろう、まったくそんなやつ、さっさとクビにしてやればいいものを!」
普段とは違う剣幕の順次郎に怯んだのか、従順な彼女はかしこまりましたと早口で言うと、逃げるようにこの場を去っていってしまった。
「お父様、いくら不安だからって八つ当たりはよくないわ」
夕飯どころではなくなってしまった。真理亜は箸を置くと、父親をたしなめた。
「今騒いだってどうしようもないもの。メグさんの言うとおり、とにかく犯人からの連絡を待つしかないじゃない。ここで慌てたら犯人の思うつぼだわ」
「それはそうだがね、真理亜……」
娘に注意されて、父親がうなだれる。「しかし草加のやつ、どうするつもりなんだ」
一体、どんな知らせが遠野家にもたらされるのか。口では父親を注意したものの、真理亜も気持ちばかりがそわそわと焦るのを感じていた。結局犯人は誰なのかしら。草加次郎?それとも、他にいるのとでも?
結局その後、夕食の団らんは何とはなしに解散となってしまった。皆食事をする気分でもなかった。順次郎が気まずそうに仕事を思い出したからと席を離れ、メグが皿を片付け始める。テレビを見る気も起きず、真理亜は自室へと戻ることにした。
その晩、真理亜はなかなか寝付くことが出来なかった。目が醒めてしまって、窓から夜空を見上げる。カトリックの洗礼を受けて、けれどさほど神様に興味がないのは事実だけれど、それでも不安なときは神を頼りたくなるものだ。
聖書には別にイエス様が夜空にいるだなんて謳ってはいないけれど、それでも神様は空の上にいるのでしょうからと真理亜は黒い頭上を見上げた。いつもは星のまたたく夜空には、不穏な黒い雲がうごめいていた。神様は、信心深くない真理亜の前には姿を現してはくれないようだった。
深く息を吐くと、真理亜は窓を閉めてすごすごとベッドへと戻り瞳を閉じた。
そう言って、メグがため息をついた。「なんだかややこしいことになってきたわ」
「旦那様、失礼いたします」
そこへおずおずと叩かれたノックの音が響いた。扉の間から聞こえるのは、まだ若い女中の声だった。
「なんだ、入りなさい」
「お食事中申し訳ございません。旦那様、赤崎様からお電話ですが……」
そう言って、彼女は順次郎を電話口へ案内しようとしたが、
「なんだこの忙しいときに!赤崎がどうしたって言うんだ」
と普段は穏やかな順次郎に噛みつかれて、顔を強張らせてしまった。
「それがどうにも、職場の部下の方が出社してこないのだとかで……」
「大方サボってるだけだろう、まったくそんなやつ、さっさとクビにしてやればいいものを!」
普段とは違う剣幕の順次郎に怯んだのか、従順な彼女はかしこまりましたと早口で言うと、逃げるようにこの場を去っていってしまった。
「お父様、いくら不安だからって八つ当たりはよくないわ」
夕飯どころではなくなってしまった。真理亜は箸を置くと、父親をたしなめた。
「今騒いだってどうしようもないもの。メグさんの言うとおり、とにかく犯人からの連絡を待つしかないじゃない。ここで慌てたら犯人の思うつぼだわ」
「それはそうだがね、真理亜……」
娘に注意されて、父親がうなだれる。「しかし草加のやつ、どうするつもりなんだ」
一体、どんな知らせが遠野家にもたらされるのか。口では父親を注意したものの、真理亜も気持ちばかりがそわそわと焦るのを感じていた。結局犯人は誰なのかしら。草加次郎?それとも、他にいるのとでも?
結局その後、夕食の団らんは何とはなしに解散となってしまった。皆食事をする気分でもなかった。順次郎が気まずそうに仕事を思い出したからと席を離れ、メグが皿を片付け始める。テレビを見る気も起きず、真理亜は自室へと戻ることにした。
その晩、真理亜はなかなか寝付くことが出来なかった。目が醒めてしまって、窓から夜空を見上げる。カトリックの洗礼を受けて、けれどさほど神様に興味がないのは事実だけれど、それでも不安なときは神を頼りたくなるものだ。
聖書には別にイエス様が夜空にいるだなんて謳ってはいないけれど、それでも神様は空の上にいるのでしょうからと真理亜は黒い頭上を見上げた。いつもは星のまたたく夜空には、不穏な黒い雲がうごめいていた。神様は、信心深くない真理亜の前には姿を現してはくれないようだった。
深く息を吐くと、真理亜は窓を閉めてすごすごとベッドへと戻り瞳を閉じた。
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