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1964.9.20 浜松町 3
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ガクン、と大きく世界が揺れた。急な衝撃に真理亜の身体はバランスを崩し、菅野の方へよろける。それを受け止めることも出来ず、菅野ごと、いやさらには周りの人々をも巻き込んで、彼らは団子状にもみくちゃになって崩れ落ちた。
「何、何があったの!?」
他の乗客らの体重で押しつぶされそうになりながら、真理亜は必死に菅野の手を掴んだ。
「大丈夫ですか?真理亜さん!」
返す菅野の声も硬い。嫌な予感が二人に走ったのだ。まさか、真理亜を狙う爆弾魔が何かをしたのか――?
子供の泣き叫ぶ声に、大人たちの動揺のさざめき。その中で何とか体制を立て直して二人は立ち上がった。
「大きな揺れを感知したため、当車両は緊急停止を致しました」車両のスピーカーから、慌てた様子の車掌のアナウンスが響いた。「現在、原因を確認中です。つり革などにしっかり掴まり、そのままお待ちください」
「じゃあ、地震だったのかしら」
「ずいぶん大きな揺れでしたが……」
言われたとおりに片方の手でつり革を握りしめながら、真理亜は胸を撫で下ろしていた。
どうやらこれは私を狙ったものではなさそうだわ。そりゃそうよ、地震なんて意図的に起こせるわけがないじゃない。ただの偶然。けれど震源はどこかしら。大変なことになっていなければいいけれど。
視線を窓の外へ移す。時刻は昼過ぎだ。昼食の準備に追われる家庭で、地震の影響で火事が起きてなければいいけれど。だがここは海上だ、住宅地からは離れているため、周りの状況は確認が出来なかった。
けれど、真理亜は窓の外に恐ろしいものを見てしまった。煙だ。モクモクと濃い灰色の煙が、なんと車両の下の方から上がっている。火事?いや、これは。
「まさか、爆弾?」
うかつに発してしまった声が、人々を恐怖に追い立ててしまった。
「地震じゃないのか?」
「爆弾が車両に付けられていたらしい!」
「大変、もうすぐ爆発するわ!」
まだそれと決まったわけでもないのに、あたかも正しい情報かのようにそれは人々の間を通り抜け、車内は騒然としてしまった。「早くここから出せ!」「でも外は海よ、レールの上を歩けっているの?」「早く警察に連絡を」「みなさん、落ち着いてください」
誰かが緊急避難用のボタンを押した。ドアを手動でこじ開けて、我先に外へ出ようとする人々。その波に押されて、ドアの近くにいた真理亜は菅野の手を離してしまった。そのまま二人は人波に押し出され、離れ離れになってしまった。
「菅野さん!」
「真理亜さん!」
その時、さらにグラリと世界が傾いた。ドォォン、と低い地響きのような音の後に、何か重いものが海面に落ちていく音がする。その衝撃で水しぶきが上がり、驚いたウミネコたちがギャアギャアと騒ぎ立てた。
「嘘でしょ!?」
押し出されてレールの上に立った真理亜は見た。グレーのコンクリートの塊が、パラパラと水の中に落ちていくのを。
「爆破されたのは、レールの方?」
そう呟いた時、さらに視界が傾いた。どうやらレールを支えている海底から生えた柱の根元が壊されたようで、そこがバラバラと崩れ始めている。一つ支えを失ったレールは、まるで風になびく紙きれのようにフラフラと揺れだした。レールの脇はひどく狭い。掴まるところもなく、平均台を少し広くしたようなそこでは逃げ出た人々が行き場を無くしていた。
「うわあああ」
レールの上に出た人々は、海面に落とされてなるものかと、今度は慌てて車両の方へと群がった。その勢いに押されて、真理亜がよろめき、なんと足を踏み外してしまった。
「何、何があったの!?」
他の乗客らの体重で押しつぶされそうになりながら、真理亜は必死に菅野の手を掴んだ。
「大丈夫ですか?真理亜さん!」
返す菅野の声も硬い。嫌な予感が二人に走ったのだ。まさか、真理亜を狙う爆弾魔が何かをしたのか――?
子供の泣き叫ぶ声に、大人たちの動揺のさざめき。その中で何とか体制を立て直して二人は立ち上がった。
「大きな揺れを感知したため、当車両は緊急停止を致しました」車両のスピーカーから、慌てた様子の車掌のアナウンスが響いた。「現在、原因を確認中です。つり革などにしっかり掴まり、そのままお待ちください」
「じゃあ、地震だったのかしら」
「ずいぶん大きな揺れでしたが……」
言われたとおりに片方の手でつり革を握りしめながら、真理亜は胸を撫で下ろしていた。
どうやらこれは私を狙ったものではなさそうだわ。そりゃそうよ、地震なんて意図的に起こせるわけがないじゃない。ただの偶然。けれど震源はどこかしら。大変なことになっていなければいいけれど。
視線を窓の外へ移す。時刻は昼過ぎだ。昼食の準備に追われる家庭で、地震の影響で火事が起きてなければいいけれど。だがここは海上だ、住宅地からは離れているため、周りの状況は確認が出来なかった。
けれど、真理亜は窓の外に恐ろしいものを見てしまった。煙だ。モクモクと濃い灰色の煙が、なんと車両の下の方から上がっている。火事?いや、これは。
「まさか、爆弾?」
うかつに発してしまった声が、人々を恐怖に追い立ててしまった。
「地震じゃないのか?」
「爆弾が車両に付けられていたらしい!」
「大変、もうすぐ爆発するわ!」
まだそれと決まったわけでもないのに、あたかも正しい情報かのようにそれは人々の間を通り抜け、車内は騒然としてしまった。「早くここから出せ!」「でも外は海よ、レールの上を歩けっているの?」「早く警察に連絡を」「みなさん、落ち着いてください」
誰かが緊急避難用のボタンを押した。ドアを手動でこじ開けて、我先に外へ出ようとする人々。その波に押されて、ドアの近くにいた真理亜は菅野の手を離してしまった。そのまま二人は人波に押し出され、離れ離れになってしまった。
「菅野さん!」
「真理亜さん!」
その時、さらにグラリと世界が傾いた。ドォォン、と低い地響きのような音の後に、何か重いものが海面に落ちていく音がする。その衝撃で水しぶきが上がり、驚いたウミネコたちがギャアギャアと騒ぎ立てた。
「嘘でしょ!?」
押し出されてレールの上に立った真理亜は見た。グレーのコンクリートの塊が、パラパラと水の中に落ちていくのを。
「爆破されたのは、レールの方?」
そう呟いた時、さらに視界が傾いた。どうやらレールを支えている海底から生えた柱の根元が壊されたようで、そこがバラバラと崩れ始めている。一つ支えを失ったレールは、まるで風になびく紙きれのようにフラフラと揺れだした。レールの脇はひどく狭い。掴まるところもなく、平均台を少し広くしたようなそこでは逃げ出た人々が行き場を無くしていた。
「うわあああ」
レールの上に出た人々は、海面に落とされてなるものかと、今度は慌てて車両の方へと群がった。その勢いに押されて、真理亜がよろめき、なんと足を踏み外してしまった。
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