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学び舎の祟り
学び舎の祟り-9
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「学校霊の仕業、ねえ」
原因はどうもそうみたいなんです、と雇用主に報告したら、どんな顔をされるだろう。
そもそも僕には、そんな霊なんて視えなかったし。
「他ん現場も見に行ってみる?」
うなだれる僕をルリがそう誘って、放課後一通り見て回ることになった。
一応事務所に連絡を入れると(っていうかそもそも時間外労働だし)、ミサキが二つ返事で今日はバイトに来なくていいと言ってくれた。
最初に向かったのは、二階の一番北の女子トイレ。奥から三つ目の個室には黄色いテープが巻かれていて、使用できないようになっていた。
「ペンキだってわかっとるけど、ちょっと気味悪かね」
真っ赤なペンキはドアの表側にも少しかかっていて、まるで本当に鮮血が垂れているように見える。
夕暮れ時に見るには、ちょっとドキッとする。
中も見たほうがいいんじゃない?とルリが言った。
個室と天井の間には、二十センチくらいのすきまがある。
けれど、隣の個室の便器の上に乗っても、僕らの背丈だと中までは見えない。
仕方なく僕は彼女を肩車する。体格の差的に仕方がない。別に、中を見たくないとかじゃないし。
「こぎゃんべったりじゃ、落とすんも大変そう」
個室内は相当なスプラッタ状態だろうと僕は思ったけれど、ルリの感想はそんな程度だった。
ご丁寧にスマホで中の写真も撮ってくれたけど、あんまり真っ赤すぎて、逆に白々しい。
もちろん、なんの気配もしなかった。
「ここだけなら、別に人間ん仕業って片したっちゃ問題なさそうだけど」
単に上からペンキ掛くればよかだけやし、と彼女は言う。
授業の合間の休憩時間。二組の誰かが入ったのを見計らって、上からペンキを掛ける。
「ばってん、誰かに目撃されそうやなか?それに、返り血……じゃなくて、掛けた側もペンキで汚れそうやけど」
それに、ペンキだって結構な量だ。多分、ホームセンターとかで売っている、何キロも入ってる大きな缶。
それぐらいなければ、これは無理じゃないだろうか。
それを持ち上げて、上から掛ける。結構な力仕事だ。
「うーん、もともとあんまり使う人んなかとこではあったけど」
確かに、ここは特別教室なんかがあるような場所で、普段の授業の合間にはあまり使わない位置にある。
だからこそなんだか不気味で、怪談話の舞台にもなったんだろうけど。
一通りトイレ内を見回してみたけれど、他に見つけたものは何もなかった。
両隣の個室も見たけれど、ごく普通のトイレだ。水を貯めておくタンクがあって、便座があって。
前に何かの漫画で、凶器をタンクに隠していた。それを思い出して中も見てみたけれど、当たり前だけど水しか入っていなかった。
ペンキの空き缶も、誰かの足跡なんかや手形なんかも見当たらない。
拍子抜けしながらトイレを出て、僕はふと疑問に思って言った。
「なんで、こんなとこ野口さんは使ったんだろ」
「教室近くのは混んどるけんこっちまで来た。そう、野口は言うとったな」」
僕の質問に答えるものがあった。
「ほら、女子トイレっていつも混んどるやろ、ここ、結構穴場なんやって」
特別教室ばっかりで、普段はあまり人が来んけんな、と言ったのは。
「佐倉君?」
「お前たちが懲りんで、まだいろいろ嗅ぎまわっとるっていうけん」
女子ってそぎゃんと好いとるよな、とあきれたように彼は僕らを睨む。
いやいや、嗅ぎまわると言うか、一応仕事と言うか。このままだと僕も、ミズホみたいだって思われちゃうんだろうか。
なんか不本意だ。
「それに、僕だって高校生になってまで、学校ん怪談なんて信じとるって思わるるんも癪やし」
どうやら僕の心の声は駄々洩れだったらしい。
「ばってん、変なことが立て続けに起こっとる。何かいるって、誰だって思うやろ?」
「怪談話ば信じんなら、誰か人間がやったっちゃ思うのが自然やなか?」
ルリが声を掛ける。さっきは、そういうことをしそうなのは、七瀬さんが妥当だって言っていたけれど。
「……わからん。ただ、七瀬のせいじゃないことは確かだ」
この、頑なまでに七瀬さんを守ろうとする姿勢。
僕は思わずルリと目を合わせてしまった。うん、きっと彼女もそう思ってる。
佐倉君、七瀬さんのこと、やっぱり好きなのかな?
「そうかあ、そうばいねえ」
ふにゃり、とルリが笑って、佐倉君の肩に手を置いた。
「うちらだって、別に七瀬さんば犯人にしよごたるばいけやなかと。原因はなんなんか、真相ば突き止めよごたるだけで」
やけん目的は佐倉君と一緒やけん、と彼女は彼の手を引いた。
「じゃあ一緒に調べよう。次はプールね」
原因はどうもそうみたいなんです、と雇用主に報告したら、どんな顔をされるだろう。
そもそも僕には、そんな霊なんて視えなかったし。
「他ん現場も見に行ってみる?」
うなだれる僕をルリがそう誘って、放課後一通り見て回ることになった。
一応事務所に連絡を入れると(っていうかそもそも時間外労働だし)、ミサキが二つ返事で今日はバイトに来なくていいと言ってくれた。
最初に向かったのは、二階の一番北の女子トイレ。奥から三つ目の個室には黄色いテープが巻かれていて、使用できないようになっていた。
「ペンキだってわかっとるけど、ちょっと気味悪かね」
真っ赤なペンキはドアの表側にも少しかかっていて、まるで本当に鮮血が垂れているように見える。
夕暮れ時に見るには、ちょっとドキッとする。
中も見たほうがいいんじゃない?とルリが言った。
個室と天井の間には、二十センチくらいのすきまがある。
けれど、隣の個室の便器の上に乗っても、僕らの背丈だと中までは見えない。
仕方なく僕は彼女を肩車する。体格の差的に仕方がない。別に、中を見たくないとかじゃないし。
「こぎゃんべったりじゃ、落とすんも大変そう」
個室内は相当なスプラッタ状態だろうと僕は思ったけれど、ルリの感想はそんな程度だった。
ご丁寧にスマホで中の写真も撮ってくれたけど、あんまり真っ赤すぎて、逆に白々しい。
もちろん、なんの気配もしなかった。
「ここだけなら、別に人間ん仕業って片したっちゃ問題なさそうだけど」
単に上からペンキ掛くればよかだけやし、と彼女は言う。
授業の合間の休憩時間。二組の誰かが入ったのを見計らって、上からペンキを掛ける。
「ばってん、誰かに目撃されそうやなか?それに、返り血……じゃなくて、掛けた側もペンキで汚れそうやけど」
それに、ペンキだって結構な量だ。多分、ホームセンターとかで売っている、何キロも入ってる大きな缶。
それぐらいなければ、これは無理じゃないだろうか。
それを持ち上げて、上から掛ける。結構な力仕事だ。
「うーん、もともとあんまり使う人んなかとこではあったけど」
確かに、ここは特別教室なんかがあるような場所で、普段の授業の合間にはあまり使わない位置にある。
だからこそなんだか不気味で、怪談話の舞台にもなったんだろうけど。
一通りトイレ内を見回してみたけれど、他に見つけたものは何もなかった。
両隣の個室も見たけれど、ごく普通のトイレだ。水を貯めておくタンクがあって、便座があって。
前に何かの漫画で、凶器をタンクに隠していた。それを思い出して中も見てみたけれど、当たり前だけど水しか入っていなかった。
ペンキの空き缶も、誰かの足跡なんかや手形なんかも見当たらない。
拍子抜けしながらトイレを出て、僕はふと疑問に思って言った。
「なんで、こんなとこ野口さんは使ったんだろ」
「教室近くのは混んどるけんこっちまで来た。そう、野口は言うとったな」」
僕の質問に答えるものがあった。
「ほら、女子トイレっていつも混んどるやろ、ここ、結構穴場なんやって」
特別教室ばっかりで、普段はあまり人が来んけんな、と言ったのは。
「佐倉君?」
「お前たちが懲りんで、まだいろいろ嗅ぎまわっとるっていうけん」
女子ってそぎゃんと好いとるよな、とあきれたように彼は僕らを睨む。
いやいや、嗅ぎまわると言うか、一応仕事と言うか。このままだと僕も、ミズホみたいだって思われちゃうんだろうか。
なんか不本意だ。
「それに、僕だって高校生になってまで、学校ん怪談なんて信じとるって思わるるんも癪やし」
どうやら僕の心の声は駄々洩れだったらしい。
「ばってん、変なことが立て続けに起こっとる。何かいるって、誰だって思うやろ?」
「怪談話ば信じんなら、誰か人間がやったっちゃ思うのが自然やなか?」
ルリが声を掛ける。さっきは、そういうことをしそうなのは、七瀬さんが妥当だって言っていたけれど。
「……わからん。ただ、七瀬のせいじゃないことは確かだ」
この、頑なまでに七瀬さんを守ろうとする姿勢。
僕は思わずルリと目を合わせてしまった。うん、きっと彼女もそう思ってる。
佐倉君、七瀬さんのこと、やっぱり好きなのかな?
「そうかあ、そうばいねえ」
ふにゃり、とルリが笑って、佐倉君の肩に手を置いた。
「うちらだって、別に七瀬さんば犯人にしよごたるばいけやなかと。原因はなんなんか、真相ば突き止めよごたるだけで」
やけん目的は佐倉君と一緒やけん、と彼女は彼の手を引いた。
「じゃあ一緒に調べよう。次はプールね」
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