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閉ざされた城17
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「なに、お互いに監視しあえってこと?」
鋭い視線を投げかけたのは佐倉さんだった。その声はいかにも「嫌よ!」という雰囲気をこれでもかと含んでいる。
「ええ。言い方は悪いですが、自分以外はみなさん信用できませんでしょ?なら思いっきり、お互い疑ってたら容疑も晴れるんじゃないかしら」
さらりと恐ろしいことを言うものだ。だがそれは理にかなっているとでも思ったのだろうか、
「そうじゃの、そうしようかの。なに一緒にいたほうが何かあっても安心じゃろ」
と寿社長は納得気にうなずいている。
「で、でも社長。いくらなんでも一部屋に十二人固まって寝ろっていうのはあんまりじゃ」
いくらここが陸の孤島とは言え、一応は電気も使えれば暖を取る手段だってある。そんななかで雪山で遭難よろしく、一塊にならなければならないのには少し抵抗があった。
「そうね、私も嫌だわ。監視しあえば安全、その考えは分かるけど、よりによって湯布院さんたちと一緒だなんて死んでも嫌よ」
悪態をつく佐倉さんは、幽霊だけではなく湯布院さんも疑ってはいるらしい。しかしその点社は激しく同意した。僕だって常に華ちゃんを見守ってることはできない。そこにあの女好きの湯布院のことだ、彼女に何をするかわかったものじゃない。
いや、仮に万一、湯布院さんが変な気を起こしてもだ。冷静に考えれば刑事で柔道初段の華ちゃんの方が、授業でしか柔道なんて受けていない僕より強いのかもしれないけれど、それとこれとは別だ。
「そうじゃの、じゃあ男女で別れて過ごそうかの」
佐倉さんの大ブーイングを受けて、社長がポンと手を叩いた。
「こちらのレストランは、まあまだ会議室よりマシじゃろ、ソファもあるからの。こちらはレディたちに譲るとして、我々は会議室で一晩明かそうじゃないか。ああ、宮守君は見回りを頼むよ」
「は?」
これでとりあえず安心だろう、とほっと息をついていた社は、思わぬ提案に眉をしかめた。
「万一幽霊の仕業でも宮守君なら安心じゃろうし、もし犯人が人間だとしてもこの中で宮守君が一番若い男の子なんじゃ、そんな不埒な輩はやっつけてくれるじゃろ」
「いやいやいや、無理ですよ僕そんなの」
自慢じゃないが身体を動かすのは苦手だ。それに一番若いったって、もうアラサーなんだぞ。
「なに大丈夫じゃろ。なにも誰か殺されるわけじゃあるまいし。とりあえず一度、部屋に荷物を取りに行こうかの。それに暖を取るのに布団やら半纏やらも持って行ったほうがいいじゃろう。大変なようなら四十八願君、馬虎君、お客さま方を手伝ってやってくれ」
「は、かしこまりました」
「と、宮守君。まかせたよ。無事何事もなければ手当をうんと出してやるからの」
けれど寿社長は聞く耳持たず、さっさと今後の方向性を決めると荷物を取りに柘榴の間へと向って行ってしまった。
「しゃあないな、確かにひとりで怯えてるよりは一塊になってた方が安全やろ」
「ふん、これで何かあったらそこの霊能者と寿さんを訴えてやるからな」
「早いとこ幽霊祓ってちょうだいよね」
とそれに従い犬尾さん、湯布院さん、佐倉さんのトリオも自室へと向かっていく。
「大丈夫ですよ、宮守さん。これで何も起こらなければいいんですから」
そう声を掛けてくれたのは鶴野さんだったが、掛けられる言葉の柔らかさの反面、社にはただただ嫌な予感しかしなかった。
「大丈夫だよ、社くん。私も協力するからさ」
「わたくしもお手伝いしますわ」
「鶴野さんが?そんなの危ないですし、私も警護しますから大丈夫ですよ」
「でも、いくら刑事さんだからってお休みの日にお仕事させるのは申し訳ありませんし……」
「仕方ないですよ、乗りかかった船だし、それにまだ萌音ちゃんの依頼をこなせてないんです。十年前の事故のことも明らかにしないと、そこの社くんが殺されちゃうみたいなんで」
「まあ、それは大変」
「ほかの人が邪魔をしてこない今がチャンスですから。ちゃっちゃと解決して、明日には帰らないと部長に怒られちゃう」
どうやらそれが本音のようだった。
「だって電話も通じないんだもん、困ったな」
外部からの連絡手段を奪って、何をするつもりなのか。
けれどその後、社らはその目的を知る羽目になる。
鋭い視線を投げかけたのは佐倉さんだった。その声はいかにも「嫌よ!」という雰囲気をこれでもかと含んでいる。
「ええ。言い方は悪いですが、自分以外はみなさん信用できませんでしょ?なら思いっきり、お互い疑ってたら容疑も晴れるんじゃないかしら」
さらりと恐ろしいことを言うものだ。だがそれは理にかなっているとでも思ったのだろうか、
「そうじゃの、そうしようかの。なに一緒にいたほうが何かあっても安心じゃろ」
と寿社長は納得気にうなずいている。
「で、でも社長。いくらなんでも一部屋に十二人固まって寝ろっていうのはあんまりじゃ」
いくらここが陸の孤島とは言え、一応は電気も使えれば暖を取る手段だってある。そんななかで雪山で遭難よろしく、一塊にならなければならないのには少し抵抗があった。
「そうね、私も嫌だわ。監視しあえば安全、その考えは分かるけど、よりによって湯布院さんたちと一緒だなんて死んでも嫌よ」
悪態をつく佐倉さんは、幽霊だけではなく湯布院さんも疑ってはいるらしい。しかしその点社は激しく同意した。僕だって常に華ちゃんを見守ってることはできない。そこにあの女好きの湯布院のことだ、彼女に何をするかわかったものじゃない。
いや、仮に万一、湯布院さんが変な気を起こしてもだ。冷静に考えれば刑事で柔道初段の華ちゃんの方が、授業でしか柔道なんて受けていない僕より強いのかもしれないけれど、それとこれとは別だ。
「そうじゃの、じゃあ男女で別れて過ごそうかの」
佐倉さんの大ブーイングを受けて、社長がポンと手を叩いた。
「こちらのレストランは、まあまだ会議室よりマシじゃろ、ソファもあるからの。こちらはレディたちに譲るとして、我々は会議室で一晩明かそうじゃないか。ああ、宮守君は見回りを頼むよ」
「は?」
これでとりあえず安心だろう、とほっと息をついていた社は、思わぬ提案に眉をしかめた。
「万一幽霊の仕業でも宮守君なら安心じゃろうし、もし犯人が人間だとしてもこの中で宮守君が一番若い男の子なんじゃ、そんな不埒な輩はやっつけてくれるじゃろ」
「いやいやいや、無理ですよ僕そんなの」
自慢じゃないが身体を動かすのは苦手だ。それに一番若いったって、もうアラサーなんだぞ。
「なに大丈夫じゃろ。なにも誰か殺されるわけじゃあるまいし。とりあえず一度、部屋に荷物を取りに行こうかの。それに暖を取るのに布団やら半纏やらも持って行ったほうがいいじゃろう。大変なようなら四十八願君、馬虎君、お客さま方を手伝ってやってくれ」
「は、かしこまりました」
「と、宮守君。まかせたよ。無事何事もなければ手当をうんと出してやるからの」
けれど寿社長は聞く耳持たず、さっさと今後の方向性を決めると荷物を取りに柘榴の間へと向って行ってしまった。
「しゃあないな、確かにひとりで怯えてるよりは一塊になってた方が安全やろ」
「ふん、これで何かあったらそこの霊能者と寿さんを訴えてやるからな」
「早いとこ幽霊祓ってちょうだいよね」
とそれに従い犬尾さん、湯布院さん、佐倉さんのトリオも自室へと向かっていく。
「大丈夫ですよ、宮守さん。これで何も起こらなければいいんですから」
そう声を掛けてくれたのは鶴野さんだったが、掛けられる言葉の柔らかさの反面、社にはただただ嫌な予感しかしなかった。
「大丈夫だよ、社くん。私も協力するからさ」
「わたくしもお手伝いしますわ」
「鶴野さんが?そんなの危ないですし、私も警護しますから大丈夫ですよ」
「でも、いくら刑事さんだからってお休みの日にお仕事させるのは申し訳ありませんし……」
「仕方ないですよ、乗りかかった船だし、それにまだ萌音ちゃんの依頼をこなせてないんです。十年前の事故のことも明らかにしないと、そこの社くんが殺されちゃうみたいなんで」
「まあ、それは大変」
「ほかの人が邪魔をしてこない今がチャンスですから。ちゃっちゃと解決して、明日には帰らないと部長に怒られちゃう」
どうやらそれが本音のようだった。
「だって電話も通じないんだもん、困ったな」
外部からの連絡手段を奪って、何をするつもりなのか。
けれどその後、社らはその目的を知る羽目になる。
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