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魔女の城17
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「あ、すみません、そうなんですけど、結城刑事とは連絡が取れなくて」
怖くて思わず敬語になってしまった。社は後ろ手で玉串を握りながら答える。もうこれが効かないことはすでに実証済みだが、人間、困ったときは神頼みしたくなるものだ。
『じゃあ結局、なにもわかってないってこと?』
ずい、と幽霊が社の眼前に迫る。「いえ、とりあえず今回のパーティーに、事故……いや、事件なのかな、の関係者が集まってるってことはわかりました」
『十年前のあの時と同じ人たちが来てるの?』
「え、ええ。あのホールの中に集まってるんです」
オロオロと虚空に向かって敬語で話しかけている姿もなかなか滑稽だろう。キョトンとした華ちゃんと寿社長の視線を感じつつ、社の頬を汗が伝った。ここでうまい具合に話を持って行けないと、どんな目に遭わされるのかわかったものじゃない!
ちょうどその時、まるで社の旗具合が悪いのを読んだかのように、急に冷気が入り込んできた。
「なんだ?」
そう思ったのもつかの間。エントランスへとつながる細い通路から、招かざる客がやってきた。
それは、荒れ狂う大吹雪だった。
『きゃあ』
「寒っ!」
「うわわわわ」
急に入り込んできた強い風に当てられて、華ちゃんと寿社長がよろける。社はなんとか踏みとどまったものの、手にしていた玉串が吹き飛ばされてしまった。それと一緒に萌音がドレスをはためかせ巻き上がった。幽霊というのは総じて軽いのだろうか。良くわからないが、萌音も一緒に荒れ狂う風と共に舞っている。その白さと相まって、彼女も吹雪の一部と化しているようだった。
「ゆうれ……萌音ちゃん、大丈夫かい!?」
この吹雪に舞い上げられてうまく高天原にでも還ってくれればいいが、などと期待するものの、風であおられ城の天井に張りつけられたところで成仏できることもないだろう。
けれど彼女の姿はあっという間に見えなくなってしまった。環状に続く廊下に入り込んだ勢いのある冷気は、左右の道に分かれ途中で失速したのだろうが、しかしカーブに遮られ奥まで見通すことが出来ない。社は萌音の姿を見失ってしまっていた。
「驚かせてしまってすみません」
呆然とする社らのもとに掛けられた声があった。全身雪まみれで、まるでイエティみたいな姿。幽霊の次は怪物かよ、勘弁してくれ!
「まさかこんなに吹雪くとは。私も裏手から入れば良かったものの、まさか廊下にお客様がいらっしゃるとは思わなくて」
雪男が落ち着いた声で話し始める。
「いや、お疲れ様じゃったの。しかしこの建物の構造は考えものじゃな。入口から入り込む風の勢いがひどい。冬場の営業はちと難しいかもしれんの、雪見風呂で集客できるかとも思ってたんじゃが」
「そうですね、金雄様が主だった頃も、強風には悩まされておりまして」
「いやしかし、外はこれよりもっとひどいんじゃろう。よくこのなかを行き来できたの」
大理石に雪を払い落し、ようやく人の形となってきた姿に社長がねぎらいの言葉を掛けた。黒のダウンジャケットにニット帽。それらを脱げば、やはり黒のスーツ。4、50代くらいなのだろうか。歳相応の落ち着いた雰囲気のある男性だった。あれだけ着込んでいたにも関わらず、髪の毛からは溶けだした雪が水となって滴っている。
「もしかして、あなたがバトラさん?」
怖くて思わず敬語になってしまった。社は後ろ手で玉串を握りながら答える。もうこれが効かないことはすでに実証済みだが、人間、困ったときは神頼みしたくなるものだ。
『じゃあ結局、なにもわかってないってこと?』
ずい、と幽霊が社の眼前に迫る。「いえ、とりあえず今回のパーティーに、事故……いや、事件なのかな、の関係者が集まってるってことはわかりました」
『十年前のあの時と同じ人たちが来てるの?』
「え、ええ。あのホールの中に集まってるんです」
オロオロと虚空に向かって敬語で話しかけている姿もなかなか滑稽だろう。キョトンとした華ちゃんと寿社長の視線を感じつつ、社の頬を汗が伝った。ここでうまい具合に話を持って行けないと、どんな目に遭わされるのかわかったものじゃない!
ちょうどその時、まるで社の旗具合が悪いのを読んだかのように、急に冷気が入り込んできた。
「なんだ?」
そう思ったのもつかの間。エントランスへとつながる細い通路から、招かざる客がやってきた。
それは、荒れ狂う大吹雪だった。
『きゃあ』
「寒っ!」
「うわわわわ」
急に入り込んできた強い風に当てられて、華ちゃんと寿社長がよろける。社はなんとか踏みとどまったものの、手にしていた玉串が吹き飛ばされてしまった。それと一緒に萌音がドレスをはためかせ巻き上がった。幽霊というのは総じて軽いのだろうか。良くわからないが、萌音も一緒に荒れ狂う風と共に舞っている。その白さと相まって、彼女も吹雪の一部と化しているようだった。
「ゆうれ……萌音ちゃん、大丈夫かい!?」
この吹雪に舞い上げられてうまく高天原にでも還ってくれればいいが、などと期待するものの、風であおられ城の天井に張りつけられたところで成仏できることもないだろう。
けれど彼女の姿はあっという間に見えなくなってしまった。環状に続く廊下に入り込んだ勢いのある冷気は、左右の道に分かれ途中で失速したのだろうが、しかしカーブに遮られ奥まで見通すことが出来ない。社は萌音の姿を見失ってしまっていた。
「驚かせてしまってすみません」
呆然とする社らのもとに掛けられた声があった。全身雪まみれで、まるでイエティみたいな姿。幽霊の次は怪物かよ、勘弁してくれ!
「まさかこんなに吹雪くとは。私も裏手から入れば良かったものの、まさか廊下にお客様がいらっしゃるとは思わなくて」
雪男が落ち着いた声で話し始める。
「いや、お疲れ様じゃったの。しかしこの建物の構造は考えものじゃな。入口から入り込む風の勢いがひどい。冬場の営業はちと難しいかもしれんの、雪見風呂で集客できるかとも思ってたんじゃが」
「そうですね、金雄様が主だった頃も、強風には悩まされておりまして」
「いやしかし、外はこれよりもっとひどいんじゃろう。よくこのなかを行き来できたの」
大理石に雪を払い落し、ようやく人の形となってきた姿に社長がねぎらいの言葉を掛けた。黒のダウンジャケットにニット帽。それらを脱げば、やはり黒のスーツ。4、50代くらいなのだろうか。歳相応の落ち着いた雰囲気のある男性だった。あれだけ着込んでいたにも関わらず、髪の毛からは溶けだした雪が水となって滴っている。
「もしかして、あなたがバトラさん?」
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