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魔女の城13
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「そう言えばさっき、鈴鐘家は代々女系家族だっておっしゃってましたけど。それなら家長は萌音の亡くなった母親になるんじゃないですか?」
花嫁が家を継ぐのならば、その夫は入り婿になるはずだ。なのになぜ、金雄が牛耳っていたのだろう。別に分家に出た茉緒さんが本家を継いだって構わないだろうに、と思えば、
「それも金雄にまつわる良くない噂があってな。なんでも金雄は、鈴鐘家を乗っ取るために萌音の母親を殺したんじゃないか、だとか」
「殺した?」
「萌音の母親は美緒というんだがの、彼女は病死したと聞いてはいるんじゃが。美緒君とは仕事柄付き合いもあっての、気丈でしっかりとした女性じゃった。だから美緒君が亡くなって悲しかったが、そんな中素直に育った娘の萌音君がワシにとっては救いだったんじゃ。例え金雄があくどい仕事の仕方でも、やがて姉の茉緒君か萌音君がこの家を継ぐまでは見守ってやろうと思っていたんじゃ。それがあの事故ですべて失われてしまった」
「でも、茉緒さんは助かったんでしょう?なら、彼女が鈴鐘家を継いでくれたんじゃ」
「それが事故以来、茉緒君はひどく落ち込んでしまっての。それどころじゃなかった。美緒君と茉緒君は仲が良く、茉緒君は萌音君を自分の子のように可愛がっていた。それがああいう形で亡くなってしまって、一方自分と自分の息子は助かってしまった。思うところもあったんだろう、鈴鐘家を解体すると持ちかけられて、まあおかげで破格値でこの建物を譲ってもらえたんだがの」
そこまで語って、社長は無意識にだろうか、着物の袂を手繰り寄せ、そしてなぜかがっかりしたような表情をした。
「ああ、そうだ。禁煙するよう鶴野君にタバコを取り上げられてたんじゃった」
「で、社長。その事故って一体どんなものだったんですか?なんだか結婚式だかの最中に天井が落ちてきて、そこにいた人たちが亡くなったとしか教えてもらってないんですけど」
気づけばベッドサイドの時計が16:50と表示していた。指定の時間まで十分を切っている。核心について確認しておかなければ。
せめて把握したことを萌音に報告しなければならない。社長の話だと素直な良い子、らしいがなにせ相手は死者だ。恨みに憑りつかれて悪霊にジョブチェンジしている可能性だってある。そうなれば、本当に脅しではなく呪い殺されてしまうかもしれないのだから。
そこで思わず、社は萌音に口づけされた首もとに手をやった。指先が違和感を拾う。
「なんだこれ?」
見つめる指先には、かすれた赤。
「どうしたの?」
「いや、なんだか……蚊に刺されでもしたのかな」
「この真冬に?でもここ、なんか赤く腫れてるよね」
華ちゃんにしげしげと首もとを見られて、社はなんだか居心地が悪くなってしまった。顔を近づける彼女からはなんだかいい匂いがする。
一方、無いタバコを探し続けるのを諦めた社長は、口さみしそうに唇を舐めてから言った。
「そうじゃ、あれは萌音君の結婚パーティーの時だった」
「だから幽霊はドレス姿なんですね」
早くも社の首もとから興味を失った華ちゃんが、かわいそうにと呟く。反面社はホッとした。今はこんなことでドキドキしている場合じゃないだろ。
「じゃあ、事故は式の最中に?」
「いや、そうではない。式の最中だったらもっと被害者が出ていたかもしれん。日中、式は滞りなく行われた。それはそれは豪華じゃったよ。事故が起こったのはその後」
「その後?披露宴とかですか?」
華ちゃんが小首をかしげる。「まさか二次会?でもずっとドレスなんて疲れちゃいそう」
「披露宴も二次会も終わったその後、明け方午前6時半。日の出頃の時間じゃ」
「そんな遅く……いや、朝早くまでドレス姿?」
驚いたのは社だけではなかった。「あんなきついコルセットを付けて、ずーっと過ごしてたっていうんですか?」
「華ちゃん、ドレスなんか着たことあるの?」
いやいやまさか、と思いつつ社が華ちゃんに問えば、
「結婚詐欺師を捕まえる時にちょっとね」とこともなげに返される。
「そんなことまでするの?」
まるでテレビドラマさながらだ。華ちゃんを主人公にしたら二時間サスペンスぐらい撮れるのかもしれない、などと思っていると、どこかからか禁煙キャンディを見つけた寿社長がそれを舐めながら言葉を続けた。
「どうにも、鈴鐘家のしきたりでの。夜中から明け方にかけて再度儀式が行われるらしい」
「ギシキ?」
「ずっとドレス姿だったのかは知らんがの、とにかく最後の最後に、鈴鐘家の人間と、婿に入る人間だけで行う儀式があるそうじゃ」
「儀式って、このご時世に?」
花嫁が家を継ぐのならば、その夫は入り婿になるはずだ。なのになぜ、金雄が牛耳っていたのだろう。別に分家に出た茉緒さんが本家を継いだって構わないだろうに、と思えば、
「それも金雄にまつわる良くない噂があってな。なんでも金雄は、鈴鐘家を乗っ取るために萌音の母親を殺したんじゃないか、だとか」
「殺した?」
「萌音の母親は美緒というんだがの、彼女は病死したと聞いてはいるんじゃが。美緒君とは仕事柄付き合いもあっての、気丈でしっかりとした女性じゃった。だから美緒君が亡くなって悲しかったが、そんな中素直に育った娘の萌音君がワシにとっては救いだったんじゃ。例え金雄があくどい仕事の仕方でも、やがて姉の茉緒君か萌音君がこの家を継ぐまでは見守ってやろうと思っていたんじゃ。それがあの事故ですべて失われてしまった」
「でも、茉緒さんは助かったんでしょう?なら、彼女が鈴鐘家を継いでくれたんじゃ」
「それが事故以来、茉緒君はひどく落ち込んでしまっての。それどころじゃなかった。美緒君と茉緒君は仲が良く、茉緒君は萌音君を自分の子のように可愛がっていた。それがああいう形で亡くなってしまって、一方自分と自分の息子は助かってしまった。思うところもあったんだろう、鈴鐘家を解体すると持ちかけられて、まあおかげで破格値でこの建物を譲ってもらえたんだがの」
そこまで語って、社長は無意識にだろうか、着物の袂を手繰り寄せ、そしてなぜかがっかりしたような表情をした。
「ああ、そうだ。禁煙するよう鶴野君にタバコを取り上げられてたんじゃった」
「で、社長。その事故って一体どんなものだったんですか?なんだか結婚式だかの最中に天井が落ちてきて、そこにいた人たちが亡くなったとしか教えてもらってないんですけど」
気づけばベッドサイドの時計が16:50と表示していた。指定の時間まで十分を切っている。核心について確認しておかなければ。
せめて把握したことを萌音に報告しなければならない。社長の話だと素直な良い子、らしいがなにせ相手は死者だ。恨みに憑りつかれて悪霊にジョブチェンジしている可能性だってある。そうなれば、本当に脅しではなく呪い殺されてしまうかもしれないのだから。
そこで思わず、社は萌音に口づけされた首もとに手をやった。指先が違和感を拾う。
「なんだこれ?」
見つめる指先には、かすれた赤。
「どうしたの?」
「いや、なんだか……蚊に刺されでもしたのかな」
「この真冬に?でもここ、なんか赤く腫れてるよね」
華ちゃんにしげしげと首もとを見られて、社はなんだか居心地が悪くなってしまった。顔を近づける彼女からはなんだかいい匂いがする。
一方、無いタバコを探し続けるのを諦めた社長は、口さみしそうに唇を舐めてから言った。
「そうじゃ、あれは萌音君の結婚パーティーの時だった」
「だから幽霊はドレス姿なんですね」
早くも社の首もとから興味を失った華ちゃんが、かわいそうにと呟く。反面社はホッとした。今はこんなことでドキドキしている場合じゃないだろ。
「じゃあ、事故は式の最中に?」
「いや、そうではない。式の最中だったらもっと被害者が出ていたかもしれん。日中、式は滞りなく行われた。それはそれは豪華じゃったよ。事故が起こったのはその後」
「その後?披露宴とかですか?」
華ちゃんが小首をかしげる。「まさか二次会?でもずっとドレスなんて疲れちゃいそう」
「披露宴も二次会も終わったその後、明け方午前6時半。日の出頃の時間じゃ」
「そんな遅く……いや、朝早くまでドレス姿?」
驚いたのは社だけではなかった。「あんなきついコルセットを付けて、ずーっと過ごしてたっていうんですか?」
「華ちゃん、ドレスなんか着たことあるの?」
いやいやまさか、と思いつつ社が華ちゃんに問えば、
「結婚詐欺師を捕まえる時にちょっとね」とこともなげに返される。
「そんなことまでするの?」
まるでテレビドラマさながらだ。華ちゃんを主人公にしたら二時間サスペンスぐらい撮れるのかもしれない、などと思っていると、どこかからか禁煙キャンディを見つけた寿社長がそれを舐めながら言葉を続けた。
「どうにも、鈴鐘家のしきたりでの。夜中から明け方にかけて再度儀式が行われるらしい」
「ギシキ?」
「ずっとドレス姿だったのかは知らんがの、とにかく最後の最後に、鈴鐘家の人間と、婿に入る人間だけで行う儀式があるそうじゃ」
「儀式って、このご時世に?」
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