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かの親友の悪癖に嫌悪した吸血鬼は独り立ちを願う。

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 わたし達は、其れから長い間一緒に行動を共にした。楽しかった記憶もあるが、どの時代でも意見の食い違いが起こるのは食事の調達方法である事は間違いのない事実だ。
 志摩子達は純粋に人間達の事を食料だと認識してるらしかった。
 だが、実際はヴァンパイアというものは人間とは違い頻繁に食事をしなくとも不都合は無い。
 我々にとっての血というものは人間にとっての嗜好品に近いと言えば分かって貰えるだろうか。
 無くとも死にはしないが、取らないでいることは様々な禁断症状を伴う。
 五感が人間時代よりも敏感になった身には、怪我をした誰かが流した血でさえ麻薬の様に抗え難い物になる。
 ただ、感じ方も個人差があるらしく、わたしは余程の事がない限り我慢が出来るが、本間などは血の匂いに我慢が出来ないタイプだ。
 ある時、こんな出来事があった。
 年代は二十世紀末、予言者が天変地異が起こるであろうと言い残していたので、誰も彼もが何かが起こるであろうと思っていた頃。
 わたし達日本を住処にするヴァンパイアは、世間に上手く溶け込み共存していた。
 仕事こそ日中は出来なかったが、都会に住めば夜の勤めには事欠かず、歳を取らない容姿もサイクルの早い街では、疑われる前に短い期間の営業で終いになってた為に、根無し草の如くふわりふわりと漂っていた。
「京一……ここに住んでいるの?」
 時折、仕事先のホストクラブから客を屋敷に連れ込んでは『食事』を愉しむ。
 その際には食料である人間の恐怖を煽る為に、わざと正体を明かし逃げる捕食者を捕まえるゲームをする。
「恐怖に震える人間の血ほど甘美なものはない」
 そう言う本間の悪趣味なこの習慣が、わたしは大嫌いだった。
「本間、もうお前とは一緒に住めない」
 ある日、我慢の限界に来たわたしは最終通告を突きつけた。
 本来なら吸血鬼には暗示をかけて記憶を操作する事が出来る。なのに、素のままで恐怖を味あわせ痛ぶる事を愉しむ本間を許せなくなっていた。
 それに、奴の食事風景を見続けた結果、わたしは人間から直接血を取る事がどうしても出来なくなっていた。
 以来、自分でも情けないが我慢の限界が来るたびに発作的に人を襲っては記憶を消すという事を繰り返していた。
 出来てた筈だった。街田和希に出逢うまでは。


 ◇◇◇


「――俺?」
 キドは頷き言った。
「あの日も凄い飢えに耐えかねて、和希さんを襲ったんです。そしてほんの少し血を分けて貰い記憶を操作するはずが、やめられなかったんです。かつて無いほどの飢えと甘美な香りに襲われ我を忘れたわたしは、気が付くと和希さんの生命活動を維持する事が出来なくなるまで血を抜いてしまった……」
 それでか。慌てて自分の血を俺に飲ませたのは。いや、待てよ。今までキドの話を聞いていて不思議に思った事柄がひとつだけある。
 “何故、俺は人間から吸血鬼に変わっても、血の渇きを覚えないのだろう?” 
 キドはこちらをジッと見ていた。何も言わず沈黙を貫いている奴に、掛ける言葉が見つからず木偶の様にお互いを見る事しか出来なかった。
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