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いにしえの吸血鬼は美しく残忍に狩りをする。

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 本間は真っ赤に染まった唇をぬぐい志摩子を責める様な瞳で睨みつけ言った。
「志摩子さん。僕が木戸を仲間にする段取りだったじゃないですか。それなのに……。横取りとはひどいです」
「ごめんなさいね京二。あなたの悟史さんに対する気持ちは知っていたけれど、余りに美味しそうだったので我慢出来なかったの」
「…………」
 わたしは声を発する事も出来ずにいた。
 代わりにアルコールで麻痺した頭をフル回転してどうにかして此処から逃げようと、震える足でベッドから下りドアのある方向に向かう。
 ――そこには壁一面に鏡が嵌めてあった。
 鏡の中に映るわたしは血の気の無くなった真っ青な顔をして、全裸で至るところに噛み跡があり血がこびりついている凄惨な死体の様に見えた。
 それと同時に意識が完全に無くなる前の出来事が脳裏をよぎる。
「悟史……」
 わたしの名を呼んだのは志摩子さんではなく本間だった。
「ずっと、ずっとお前が好きだったんだ……。本当は大学も同じ所へ行きたかったし、一緒に歳を取りたかった。そばには居れなかったけど、ずっと見ていたんだよ。そのせいで志摩子さんに目を付けられてしまった。木戸ごめんな。ごめんな……」
 ベッドで志摩子さんに噛まれ血を吸われてるわたしに、本間はぐったりとこうべを垂れて囁くように呟いていた。
「悟史さん、何処に行かれるの?」
 志摩子の瞳が妖しく光る。わたしは自分の意志とは関係なく2人の所に歩を進める。まるで操り人形のように。
「わっ、わたしは貴方たちの仲間にはならない。妻子も居るんだ。家族の所へ返してくれ!」
 そう言葉にした筈だったが実際はうめき声しか出なくて絶望のあまり泣くことしか出来なかった。
「何をおっしゃっているのかしら? あなたの家族は、ほら、此処に居るのじゃなくて?」
 肩に手を掛けて話しているが、鏡に映るのはわたし1人だけ――。
 志摩子は確かに横にいるのに。
「悟史さんは私達と一緒に行くの。きっと楽しい時間を共有出来るはずよ」
「…………いやだ!」
 やっとの思いで力を振り絞り言えた。その時、ずっと俯いていた本間は顔を上げ叫んだ。
「志摩子さん! お願いだから木戸はそっとしておいてくれませんか? 僕はずっと志摩子さんと一緒に居ますから」
 目から血の涙を流しながら必死に説得をする本間に志摩子は言い放った。
「そうね……京二がそこまで言うなら。でも、どうする気なの? 悟史さん、放って置いたら血が足りなくて死んでしまうわよ。京二の血を全てあげてしまえば変化は起こらないけど、貴方は消えてしまうわね」
 如何にも楽しくて仕方ないといった感じで話す彼女は、本当に人ではなく禍々まがまがしい『何か』なのだと分かったのだ。
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