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回り出す運命の輪
愚者の末裔⑥
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「オーウェン……。彼はアンナの為に僕達夫婦に協力をしてくれて、それだけじゃなくアンナが産まれたばかりの君達双子と家を出て行った後も、僕に様子を教えてくれた。それが僕にとって、どれだけ慰められたか。君には想像もつかないだろうな」
母と父の言う事には齟齬がある。
父が、あの家に僕達母子を住まわせたのではなかったのか? そして、家にも寄り付かず愛人と情事に耽ってると、俺達に父は居ないと幾度となく聞かされて育った。
父さんにとって自分の息子は後継者でしかなく、愛を注ぐべき対象では無いのだと言われ、疑いもせずに信じた。
「トーマ、アンナを許してあげて欲しい。全ては僕の責任なんだ。母と子を引き離すのは辛かろうと十五歳までと期限を切って育てさせたこと、僕の顔を二度と見たくは無いと言った彼女の言葉を真に受けて、君たちを訪問しなかった事。僕の『力』なら傍に来て視れば嘘だと分かった筈なのに。それにオーウェン。彼の好意を利用する形になって後悔している。僕は臆病だったんだ」
オーウェンは父を愛していたのだと思う。もちろん母は大切な存在だったが。だが、それだけで、あの忌まわしい儀式に協力するだろうか?
俺の考えを読んだのか、父は深く頷いた。
「出逢った時から彼の僕を見る目には情欲の色が見て取れた。心なんか読まなくてもね。僕はそれを良いことにアンナと子供達を護るように仕向け、様子を知らせに来た時に褒美とばかりに僕の肉体を与えた。オーウェンは身体だけじゃなく愛を欲しがっていたのに」
「それでも俺は父さんを許すことは出来ない。だってそうだろう? アンリとオーウェンは死んでしまった。母さんは生きてはいるけれど、もう俺にとっては居ないも同然なんだ……。後悔してるのなら俺を自由にしてくれ」
立ち上がり部屋を出て行こうと歩き出す俺に、父は顔色変えずに言い放った。
「……トーマ、残念だよ。手荒な真似をしたくなかったんだけど」
俺は部屋のドアまで辿り着くことは出来なかった。身体が金縛りみたいに指の一本すら動かす事が出来なかったからだ。
抗議の声すら出すことは叶わない。
父が部屋の外に居たボディガードに俺を連れて行けと命じた。
担ぎ上げられドアの前で何とか振り返り父の顔を見る。その顔には、どんな感情も見て取る事は出来なかった。
ただ、俺という生贄の羊が来たことで父が自由になるという歴然たる事実がそこにあるだけ。
もう、反抗も期待もすまい。
心のどこかで、ぷつりと何かが切れる音がした。それは自分の残り少ない希望や、長い間求めても得られなかった肉親の情とかで、名前をつけるとしたら、俺の心の良心と呼べるものかも知れない。
母と父の言う事には齟齬がある。
父が、あの家に僕達母子を住まわせたのではなかったのか? そして、家にも寄り付かず愛人と情事に耽ってると、俺達に父は居ないと幾度となく聞かされて育った。
父さんにとって自分の息子は後継者でしかなく、愛を注ぐべき対象では無いのだと言われ、疑いもせずに信じた。
「トーマ、アンナを許してあげて欲しい。全ては僕の責任なんだ。母と子を引き離すのは辛かろうと十五歳までと期限を切って育てさせたこと、僕の顔を二度と見たくは無いと言った彼女の言葉を真に受けて、君たちを訪問しなかった事。僕の『力』なら傍に来て視れば嘘だと分かった筈なのに。それにオーウェン。彼の好意を利用する形になって後悔している。僕は臆病だったんだ」
オーウェンは父を愛していたのだと思う。もちろん母は大切な存在だったが。だが、それだけで、あの忌まわしい儀式に協力するだろうか?
俺の考えを読んだのか、父は深く頷いた。
「出逢った時から彼の僕を見る目には情欲の色が見て取れた。心なんか読まなくてもね。僕はそれを良いことにアンナと子供達を護るように仕向け、様子を知らせに来た時に褒美とばかりに僕の肉体を与えた。オーウェンは身体だけじゃなく愛を欲しがっていたのに」
「それでも俺は父さんを許すことは出来ない。だってそうだろう? アンリとオーウェンは死んでしまった。母さんは生きてはいるけれど、もう俺にとっては居ないも同然なんだ……。後悔してるのなら俺を自由にしてくれ」
立ち上がり部屋を出て行こうと歩き出す俺に、父は顔色変えずに言い放った。
「……トーマ、残念だよ。手荒な真似をしたくなかったんだけど」
俺は部屋のドアまで辿り着くことは出来なかった。身体が金縛りみたいに指の一本すら動かす事が出来なかったからだ。
抗議の声すら出すことは叶わない。
父が部屋の外に居たボディガードに俺を連れて行けと命じた。
担ぎ上げられドアの前で何とか振り返り父の顔を見る。その顔には、どんな感情も見て取る事は出来なかった。
ただ、俺という生贄の羊が来たことで父が自由になるという歴然たる事実がそこにあるだけ。
もう、反抗も期待もすまい。
心のどこかで、ぷつりと何かが切れる音がした。それは自分の残り少ない希望や、長い間求めても得られなかった肉親の情とかで、名前をつけるとしたら、俺の心の良心と呼べるものかも知れない。
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