アサシンの夜明け

水月美都(Mizuki_mitu)

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回り出す運命の輪

愚者の末裔⑤

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 「……トーマ……大丈夫……か?」
 父の呼ぶ声に急速に意識が覚醒した。
 膨大な数の情報に脳が処理仕切れず気を失ってたらしい。
 まだ眠りの中を漂っている感じがする。頭をひとつ振ると周りを見回し母を探す。
「……父さん。ここは何処なんですか?」
 ここは人里離れた俺の育った生家じゃない。
 少し気を失ってたと思っていたが、実際は見知らぬ土地に移動出来るぐらい時が経っていたのか。

「父さん。母さんは? ここは何処なの?」
 打ち消しても嫌な予感を振り払う事が出来ない。もしかしたら母とはもう、これっきり会えないのか?
 あんまりじゃないか。何の予告もせず、見知らぬ土地に連れて来て母と引き離すなんて。
 心のなかで恨み言を言っていたら、父が向かい合って座っていたソファーに肘を立て、こちらを覗き込むように見て言う。
「トーマは何故、僕がアンナと君を引き離すと思うのかな?」

 どこか愉しそうに話す父に不快感を隠しもせずに言い募る。
「なにが可笑しいの? 父さん、あんまりだ。勝手にこんな所へ連れて来るなんて。それに母を何処に連れて行ったんだ?!」
「そんなに興奮するものじゃないよトーマ。君は感情のコントロールを覚えなくちやいけないね。アンナは病気なんだよ。心の病で暫く静かな所で休ませなければ。君と一緒にいると、どうしても事件を思い出させてしまう。それはアンナにとっては辛い記憶をリプレイしている様なもの。だから僕に任せて欲しい」

 真剣な表情で言われたら何も言い返せる事が出来ず母の為ならばと不満を飲み込む。
 少し気持ちが落ち着くと、自分のこれからを考え憂鬱になる。父はきっと後継者を俺にする為に制約をしてくるだろう。
 父も辛かったのだと今ならば分かる。
 家のためにセクシャリティを曲げてまで女性と性交渉を持たねばならなかった父。
 俺は耐えられるだろうか。

「トーマ、急がなくて良い。僕の時は、父上が死の病に罹っていて孫を早く見たいと言われ無理に子供をつくったんだ。ちょうど君ぐらいの歳に」
 父の体験した映像が脳内に流れる。母は父を求めていたが、どうしても抱けなくて最終手段を使うことに。
 他の男に貫かれながら母をなんとか懐妊することに成功したのだ。
 なぜ人工授精ではいけなかったのかと聞くと。
「親の決めた結婚相手ではあったが、アンナを大事に思っていたんだ。でもそれがアンナには死ぬほど苦しい事だとは知らなかった。僕はアンナに酷い事をしたんだ。それにオーウェンにも」
 その儀式の相手こそ、オーウェンなのだと父は語った。

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