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回り出す運命の輪
愚者の末裔③
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アンリの提案に乗って俺達は入れ替わった。
当初心配していた母にバレると思っていた問題も杞憂に終わったみたいだ。
二人で綿密に打ち合わせしていたことも功を奏し、何事もなく旅立ちの日を迎えた。
朝早く父から依頼されたと言って付き人がやって来た。
俺はアンリの門出を見守りたいと思い、家の外の物かげに隠れて視ていた。
母はアンリに冷たい視線を送り別れの抱擁をせずに早く出て行けば良いのにと考えていた。
オーウェンはトーマが父の元で幸せに暮らせますようにと願っている。
「奥様ではこれで、ご子息をお預かり致します」
アンリが車の後部座席に乗るとドアを閉めて運転席に乗り込む前に母に挨拶をする。
その時、不意に恐ろしい事が起きそうな予感がして、何も考えず飛び出して叫んでいた。
「アンリ!! だめだ! 車から降りろ!」
走り出した車が次の瞬間、轟音と共に爆発した。
あっという間に炎に包まれる車に誰もどうにも出来ず、ただ焼け落ちて行くのを啞然と見ている事しか出来ない。
「ゔああああぁぁ…………!! アンリ! アンリ!」
泣き崩れる俺に、この世の終りの様に叫ぶ声が聴こえて来た。
「アンリですって?! まさか! まさか! そんな……バカな!」
そして身を翻して家に帰ると、キッチンから包丁を握り締め俺に向かって来る。
俺は逃げようとせずに、ただ、ただ、視ていた。そして覚悟を決めて目を瞑る。
母さん……。貴女は最期まで俺を愛してはくれないんだね。
もう愛を乞うのは疲れた……だから俺の命、あんたにやるよ。
最期の刻を待つ俺に温かいモノが覆い被さった。続く悲鳴に胸がキリキリと引き絞られる。
「オーウェン!! なんで?……」
包丁はオーウェンの背に深々と刺さっていた。母は半狂乱になってオーウェンを揺さぶる。
俺は母を引き剥がしオーウェンの傷の状態を視る。包丁の刃は内臓にまで達している。救急車が来ても助からない。
「オーウェン、何で俺を助けたんだよ」
どんどん血を失い青白くなった顔で、オーウェンは微笑んだ。
「ずっと後悔していたんです。アンリ様とトーマ様を引き離した事を……。アンナ様の頼みでも聞いてはいけなかった」
「オーウェン、オーウェン、愛しているのよ。私を置いて逝くだなんて……わたし堪えられない」
オーウェンは縋りつく母に手を伸ばして涙を流す顔を撫でると満足そうに目を閉じ。そして二度と目を開けることはなかった。
「…………母さん」
身じろぎもしない母に不安になって声を掛けるとオーウェンの頬を撫でてクスクス笑っていた。
「オーウェンったら、こんな所で寝ていたら風邪を引くわよ。ねぇ早く私を連れて行ってちょうだい。エリックは嫌い。あなたが一番好きよ……」
母はショックで気がふれてしまっていた。
当初心配していた母にバレると思っていた問題も杞憂に終わったみたいだ。
二人で綿密に打ち合わせしていたことも功を奏し、何事もなく旅立ちの日を迎えた。
朝早く父から依頼されたと言って付き人がやって来た。
俺はアンリの門出を見守りたいと思い、家の外の物かげに隠れて視ていた。
母はアンリに冷たい視線を送り別れの抱擁をせずに早く出て行けば良いのにと考えていた。
オーウェンはトーマが父の元で幸せに暮らせますようにと願っている。
「奥様ではこれで、ご子息をお預かり致します」
アンリが車の後部座席に乗るとドアを閉めて運転席に乗り込む前に母に挨拶をする。
その時、不意に恐ろしい事が起きそうな予感がして、何も考えず飛び出して叫んでいた。
「アンリ!! だめだ! 車から降りろ!」
走り出した車が次の瞬間、轟音と共に爆発した。
あっという間に炎に包まれる車に誰もどうにも出来ず、ただ焼け落ちて行くのを啞然と見ている事しか出来ない。
「ゔああああぁぁ…………!! アンリ! アンリ!」
泣き崩れる俺に、この世の終りの様に叫ぶ声が聴こえて来た。
「アンリですって?! まさか! まさか! そんな……バカな!」
そして身を翻して家に帰ると、キッチンから包丁を握り締め俺に向かって来る。
俺は逃げようとせずに、ただ、ただ、視ていた。そして覚悟を決めて目を瞑る。
母さん……。貴女は最期まで俺を愛してはくれないんだね。
もう愛を乞うのは疲れた……だから俺の命、あんたにやるよ。
最期の刻を待つ俺に温かいモノが覆い被さった。続く悲鳴に胸がキリキリと引き絞られる。
「オーウェン!! なんで?……」
包丁はオーウェンの背に深々と刺さっていた。母は半狂乱になってオーウェンを揺さぶる。
俺は母を引き剥がしオーウェンの傷の状態を視る。包丁の刃は内臓にまで達している。救急車が来ても助からない。
「オーウェン、何で俺を助けたんだよ」
どんどん血を失い青白くなった顔で、オーウェンは微笑んだ。
「ずっと後悔していたんです。アンリ様とトーマ様を引き離した事を……。アンナ様の頼みでも聞いてはいけなかった」
「オーウェン、オーウェン、愛しているのよ。私を置いて逝くだなんて……わたし堪えられない」
オーウェンは縋りつく母に手を伸ばして涙を流す顔を撫でると満足そうに目を閉じ。そして二度と目を開けることはなかった。
「…………母さん」
身じろぎもしない母に不安になって声を掛けるとオーウェンの頬を撫でてクスクス笑っていた。
「オーウェンったら、こんな所で寝ていたら風邪を引くわよ。ねぇ早く私を連れて行ってちょうだい。エリックは嫌い。あなたが一番好きよ……」
母はショックで気がふれてしまっていた。
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