アサシンの夜明け

水月美都(Mizuki_mitu)

文字の大きさ
上 下
52 / 64
終焉のアンリミテッド

キール⑦

しおりを挟む
 トーマ様と話す機会が無いまま、レイジが十二階に行く日になった。
 もちろん、マスターであるトーマ様の私室は気軽に立ち入ることは出来ない。
 それに、八階からはシールドが張ってあって能力は使えない。
 考えた僕は原始的な方法に頼る事にした。つまり見張りの人間をどうにかすることだ。

「ご苦労さん、代わるよ」
 見張りは交代制で同僚に声を掛けると、長時間気を張っていたのかホッとした顔で嬉しそうに返事をした。
「ああ、そんな時間か。あれ、新入りか?」
「そうなんです。ここは拘束時間は長いけど安全な仕事なので」
 相手はジロジロ無遠慮な視線を寄越す。僕は疑われたのかと緊張する。
「良く見たら綺麗なお兄ちゃんじゃないか。気を付けないとココのボスに食われちまうぞ。現に今だって、とびきりの美人が入って行ったんだからな」
 知っている。レイジが気の乗らない顔でエレベーターに乗ったのを視てたから。
「まぁ、庶民の俺達にゃ関係無いか。じゃ、よろしくな」

 本物の交代要員は予め調べておいて、下の階で縛り上げて空部屋に転がして置いた。
 能力チームの僕でも一通り訓練は受けている。実戦との連携がミッション成功の肝だからだ。
 それなのに、相棒をハメてマスターの意に染まない事をするのだ。
 十二階のエレベーターで降りると扉が左右二部屋づつ並んでいる。そして、見張りの人間の定位置は突き当たった奥の大きなドアの前。
 何時も手前の部屋でトーマ様と逢った。彼は僕を抱く時はお手軽なワンルームなのに、レイジの時は見張り付きのスイートルームなのだ。

 ドアを回す手が震える。頑丈な扉は、その無骨な見た目とは反して音もなく静かに締まった。
 中は外から見たよりも広く変わった作りだった。
 まず、部屋の中に部屋がある。外から中が丸見えの壁で周りを取り囲んでいて、まるでペットのゲージみたいだ。
 ベッドが無い代わりに床は全てマットレスで敷き詰めてある。そしてマジックミラーで防音なのか僕が入っても気が付いた素振りも無い。
 
 レイジは全裸で目隠しをされて頭の上で縛られていた。口元は動いてたから何かを言ってるのだろう。
 トーマ様は服を着たまま、レイジの身体にキスを落とす。と、まるで花が咲いた様に白い肌に朱が散った。
 レイジがトーマ様の事を知らないと言ったのは嘘ではなかった。
 逢瀬の時は目隠しをしていたなら、名を名乗ら無かったならば、知らなくて当たり前だ。
 素性を隠してまでレイジを抱いて、何処までもヤツに嫌われたくないのか。

 今すぐ、この場で、お前を殺したい。
 見なければ良かった……。いつか、ヤツに殺されるかも知れない。けど、その時はお前を地獄に連れて行く。
 それが、僕の愛だから……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

妖の眼

ハルカ
BL
昭和初期、両親を失った音也は妖と出会う

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

処理中です...