アサシンの夜明け

水月美都(Mizuki_mitu)

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終焉のアンリミテッド

キール⑦

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 トーマ様と話す機会が無いまま、レイジが十二階に行く日になった。
 もちろん、マスターであるトーマ様の私室は気軽に立ち入ることは出来ない。
 それに、八階からはシールドが張ってあって能力は使えない。
 考えた僕は原始的な方法に頼る事にした。つまり見張りの人間をどうにかすることだ。

「ご苦労さん、代わるよ」
 見張りは交代制で同僚に声を掛けると、長時間気を張っていたのかホッとした顔で嬉しそうに返事をした。
「ああ、そんな時間か。あれ、新入りか?」
「そうなんです。ここは拘束時間は長いけど安全な仕事なので」
 相手はジロジロ無遠慮な視線を寄越す。僕は疑われたのかと緊張する。
「良く見たら綺麗なお兄ちゃんじゃないか。気を付けないとココのボスに食われちまうぞ。現に今だって、とびきりの美人が入って行ったんだからな」
 知っている。レイジが気の乗らない顔でエレベーターに乗ったのを視てたから。
「まぁ、庶民の俺達にゃ関係無いか。じゃ、よろしくな」

 本物の交代要員は予め調べておいて、下の階で縛り上げて空部屋に転がして置いた。
 能力チームの僕でも一通り訓練は受けている。実戦との連携がミッション成功の肝だからだ。
 それなのに、相棒をハメてマスターの意に染まない事をするのだ。
 十二階のエレベーターで降りると扉が左右二部屋づつ並んでいる。そして、見張りの人間の定位置は突き当たった奥の大きなドアの前。
 何時も手前の部屋でトーマ様と逢った。彼は僕を抱く時はお手軽なワンルームなのに、レイジの時は見張り付きのスイートルームなのだ。

 ドアを回す手が震える。頑丈な扉は、その無骨な見た目とは反して音もなく静かに締まった。
 中は外から見たよりも広く変わった作りだった。
 まず、部屋の中に部屋がある。外から中が丸見えの壁で周りを取り囲んでいて、まるでペットのゲージみたいだ。
 ベッドが無い代わりに床は全てマットレスで敷き詰めてある。そしてマジックミラーで防音なのか僕が入っても気が付いた素振りも無い。
 
 レイジは全裸で目隠しをされて頭の上で縛られていた。口元は動いてたから何かを言ってるのだろう。
 トーマ様は服を着たまま、レイジの身体にキスを落とす。と、まるで花が咲いた様に白い肌に朱が散った。
 レイジがトーマ様の事を知らないと言ったのは嘘ではなかった。
 逢瀬の時は目隠しをしていたなら、名を名乗ら無かったならば、知らなくて当たり前だ。
 素性を隠してまでレイジを抱いて、何処までもヤツに嫌われたくないのか。

 今すぐ、この場で、お前を殺したい。
 見なければ良かった……。いつか、ヤツに殺されるかも知れない。けど、その時はお前を地獄に連れて行く。
 それが、僕の愛だから……
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