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アサシンSS集
神父といっしよ②
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【神父とゼン】
「あんたに聞きたい事がある」
懺悔室の狭い空間は、この男には窮屈そうに見える。
「何でしょう? 私は『ただ』の神父ですから、貴方の望む答えは出ないと思いますよ」
ゼンと名乗ったこの男は精悍な顔を歪ませ言った。
「レイ……レイジを知ってるだろ? 奴が何に苦しんでるのか、教えてくれないか?」
彼は知らないのか? レイジ――あの人の苦悩を。
直ぐ側に居ながら、あの人は愛している人には自分の弱さを見せないのか。
如何にもあの人らしいと、私は小さく溜め息をつき彼に言った。
「特別な事は何も……あの方は熱心な信者なだけです」
彼はホッとして、私に礼を言って帰って行った。血塗られた戦場へと。
「神父さま……」
マコがまた、夢を見たらしい。泣きそうな顔で私に訴える。
「神父さま。今の人は?」
「あの方の大切なお人だよ」
マコは子供にしては大人びた表情で話す。
「神父さま止めて。運命の輪が……終末……の刻が……来る」
私は崩れ落ちたマコを受け止め声に出さずに呟いた。
もう、手遅れですマコ。既に【塔】の刻は近付いているのですから……
番外【聖なる夜に鮮血を】
この腐れた街にも等しく聖夜はやって来る。
教会からは聖歌隊の天使の歌声が流れ、酒を呑んで浮かれた奴が街を練り歩く。
オレは道端に唾を吐き、馬鹿な奴らが三分後には追いはぎに襲われる運命を思い描いていた。
「なぁ、綺麗な兄ちゃん……俺と遊ばないか? 金ならあるぜ」
下卑た視線を泳がせながらオレをジロジロ眺め指を三本出して誘ってくる男を、興味も持てずに無視をする事にした。
「なに、足りないのか? まぁ、かなりの美形だから仕方ねえか。じゃ、これでどうだ?」
次は五本指を出した。どうやら値段を吊り上げてると思ったらしい。
オレは少しからかってやる事にした。
「良いよ。じゃ何処が良い? 道端でヤルのは趣味じゃないからねオレ」
途端に男は舌なめずりしながら派手なネオンが瞬いているHotelを指差した。
「あそこだったら良いだろ? ちゃんとベッドもあるし、酒だって飲ましてやるぜ」
大仰に溜息をついたオレは、残念そうに首を振って言う。
「そこは駄目だよ。どうせだったらオレは、あそこが良い……」
流石の酔っ払いも一気に酔いが吹き飛んだようだ。そりゃ、そうだ。誰が好き好んで教会で事を起こすヤツがいるもんか。
からかわれたと、やっと悟った酔っ払いは顔を真っ赤にして怒り出した。
勝手に立ちんぼと間違えた、お前が悪いんだ。
声を上げて笑い転げるオレを見て、男は何やら叫びながら向かって来る。
「いけませんよ。今夜は殺生沙汰はご法度です。レイジも、遊びが過ぎますよ」
声の主は見なくとも解る。愛しの神父様だ。
「アンタも暇人だね。今夜ばかりは忙しいと思ったけど」
「忙しいですよ。何処ぞの殺し屋が、酔客を殺めない様に連れて帰る使命を背負って此処に居ますから」
負けた……この神父には。
オレは酔っ払いには目もくれず、神父の後ろに付いて歩きだした。
「なぁ、酒あるんだろ? 主の鮮血がさ……」
「ワインのことですね。もちろん、ありますよ。でも鮮血とは頂けませんね」
神父は何処までも穏やかな顔を崩さない。
オレは奴の澄ました少し冷たさすら感じる顔を変えたいと聖夜に祈りを捧げながら、鮮血を煽るとしよう。
地上で1番、神に近いこの場所で……
Merry Christmas!
「あんたに聞きたい事がある」
懺悔室の狭い空間は、この男には窮屈そうに見える。
「何でしょう? 私は『ただ』の神父ですから、貴方の望む答えは出ないと思いますよ」
ゼンと名乗ったこの男は精悍な顔を歪ませ言った。
「レイ……レイジを知ってるだろ? 奴が何に苦しんでるのか、教えてくれないか?」
彼は知らないのか? レイジ――あの人の苦悩を。
直ぐ側に居ながら、あの人は愛している人には自分の弱さを見せないのか。
如何にもあの人らしいと、私は小さく溜め息をつき彼に言った。
「特別な事は何も……あの方は熱心な信者なだけです」
彼はホッとして、私に礼を言って帰って行った。血塗られた戦場へと。
「神父さま……」
マコがまた、夢を見たらしい。泣きそうな顔で私に訴える。
「神父さま。今の人は?」
「あの方の大切なお人だよ」
マコは子供にしては大人びた表情で話す。
「神父さま止めて。運命の輪が……終末……の刻が……来る」
私は崩れ落ちたマコを受け止め声に出さずに呟いた。
もう、手遅れですマコ。既に【塔】の刻は近付いているのですから……
番外【聖なる夜に鮮血を】
この腐れた街にも等しく聖夜はやって来る。
教会からは聖歌隊の天使の歌声が流れ、酒を呑んで浮かれた奴が街を練り歩く。
オレは道端に唾を吐き、馬鹿な奴らが三分後には追いはぎに襲われる運命を思い描いていた。
「なぁ、綺麗な兄ちゃん……俺と遊ばないか? 金ならあるぜ」
下卑た視線を泳がせながらオレをジロジロ眺め指を三本出して誘ってくる男を、興味も持てずに無視をする事にした。
「なに、足りないのか? まぁ、かなりの美形だから仕方ねえか。じゃ、これでどうだ?」
次は五本指を出した。どうやら値段を吊り上げてると思ったらしい。
オレは少しからかってやる事にした。
「良いよ。じゃ何処が良い? 道端でヤルのは趣味じゃないからねオレ」
途端に男は舌なめずりしながら派手なネオンが瞬いているHotelを指差した。
「あそこだったら良いだろ? ちゃんとベッドもあるし、酒だって飲ましてやるぜ」
大仰に溜息をついたオレは、残念そうに首を振って言う。
「そこは駄目だよ。どうせだったらオレは、あそこが良い……」
流石の酔っ払いも一気に酔いが吹き飛んだようだ。そりゃ、そうだ。誰が好き好んで教会で事を起こすヤツがいるもんか。
からかわれたと、やっと悟った酔っ払いは顔を真っ赤にして怒り出した。
勝手に立ちんぼと間違えた、お前が悪いんだ。
声を上げて笑い転げるオレを見て、男は何やら叫びながら向かって来る。
「いけませんよ。今夜は殺生沙汰はご法度です。レイジも、遊びが過ぎますよ」
声の主は見なくとも解る。愛しの神父様だ。
「アンタも暇人だね。今夜ばかりは忙しいと思ったけど」
「忙しいですよ。何処ぞの殺し屋が、酔客を殺めない様に連れて帰る使命を背負って此処に居ますから」
負けた……この神父には。
オレは酔っ払いには目もくれず、神父の後ろに付いて歩きだした。
「なぁ、酒あるんだろ? 主の鮮血がさ……」
「ワインのことですね。もちろん、ありますよ。でも鮮血とは頂けませんね」
神父は何処までも穏やかな顔を崩さない。
オレは奴の澄ました少し冷たさすら感じる顔を変えたいと聖夜に祈りを捧げながら、鮮血を煽るとしよう。
地上で1番、神に近いこの場所で……
Merry Christmas!
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